【超短編小説】 消しゴム
俺は急いでいた。アカネが転校する。
今日は引っ越しの当日だった。
俺は坂道を走り、家の前に辿り着いた。
引っ越しのトラックが停まっている。
「ハアハア、間に合った」
ダンボール箱を抱えたアカネが玄関から出てきた。
「どうしたん?そんな慌てて」
「お前にさ、渡し、渡し忘れてたから」
俺はポケットから消しゴムを取り出した。
「それ、うちが貸した消しゴムやん。もう無くしたんかと思ってた」
「返そうと思ってて、引き出しに入れたままになってた」
「それを渡しに来たん?うちが引っ越し終わってたら、どうするつもりやったん」と言ってアカネは笑い、「相変わらずやな」と言う。
「ほんまに東京行くんか」
「せやな、寂しいけどな。もう決めたから」
「俺、アカネのこと、応援してる」
「ありがとう、あんたもちゃんと勉強してな」
「分かってる。東京の大学に入れるように頑張るから」
「待ってるから。それまでコレはあんたが持っといて」
アカネは俺の手のひらに消しゴムを置くと、ぎゅっと強く握った(完)