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【超短編小説】 果てしない物語


それは果てしない物語だった。

終わりの見えない、小さな世界の中で憂鬱な日々を過ごしていた。

僕らは哀しみに暮れていた。

この街には歓喜すら無かったのだ。

楽園という名の遊びは封じられ、街の人達はどこか暗い表情をしていた。

救われないこの場所にはただ息苦しさだけが残った。

彼女が僕の前に現れるまで・・・。



彼女は突然、姿を現した。

それが僕と彼女の二度目の再会であったことを僕はまだ知らなかった。

彼女には小さい頃に一度だけ会っていた。

それが分かったのは彼女が僕に故郷の思い出を話した時だった。

僕は忘れていたが、彼女がオカリナを吹き始めた瞬間、彼女の横顔をどこかで見たような気がした。

彼女と過ごす生活は楽しかった。

時間を忘れるほど、僕は彼女との出会いを心から喜んだ。

物語はゆっくりと、しかし、良い方向に動き始めた。

まるで、待ち遠しかったものが一夜にして輝き出したようだった。

闇があるのと、同時に光も存在していたことに気付かされた。

彼女は言った。

「日照りの後に雨が降り止まない時、大地にとっては土に潤いを与えることになるでしょう。それと同じなの。この世界には終わりなんてないの」

「終わりがない?」

「そう、この世界は果てしない物語。あなたと私がここで出会ったのも物語の序章に過ぎないのよ」

「だったら、物語は作り変えられるってこと?」

「そう、この物語は今もあなたの手によって変えられているの。だってそうでしょ、物語はこれからも続いていくんだから」(完)