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│「BOSCH」《ボッシュ》シーズン7ー5より抜粋2021年

これより載せる会話は主人公であるボッシュと、
恐らくは骨からの│人体塑像《じんたいそぞう》のゴラー博士
との会話になります。

ボッシュ「ゴラー博士、お邪魔かな」

ゴラー「まさか、入ってくれ」

ボッシュは部屋を見渡して、博士に尋ねた。
ボッシュ「よそへ?」

ゴラー「引退するんだ。やっとね。座ってくれ。
君を思い出してた」
博士はそう言いながら笑顔を見せた。

ボッシュ「どうして?」

博士「火事で子供が亡くなっただろ」

ボッシュ「10歳だった」

博士「タマレの少女」

ボッシュ「ソニア・ヘルナンデスだ」

博士「アーサー・ドラクロワの2歳下だ」

ボッシュ「虐待は受けてない。皆に愛されてた」

博士「それはよかった」

間が僅かに空き、ボッシュは問いかけた。
ボッシュ「聞いても?」

博士「もちろん」

ボッシュ「アーサーの折れた骨を見ながら‥‥」

博士「短い人生を苦しめた」

ボッシュ「よりよい世界があると信じて
仕事をしてると言ってた」

博士「ああ、確かにそう言った」

ボッシュ「今でもあると信じてる?」

ゴラー博士は考えているように目を閉じて、
間を置いて答えた。
博士「残念だが、信仰は危機的状況だ。
心のガンだな」

その言葉を聞き、ボッシュは小声で言った。
ボッシュ「分かるよ」
その言葉は心から出た言葉のように、静かな声で
あったが、気持ちが表れていた。

博士はボッシュの顏を見て、ただ黙って何度か
頷いている様子を見せた。まるで自分の気持ちと
同じような想いから来る頷きを見せていた。
博士「君は言った。よりよい世界はなくとも
正義はあると信じると」

ボッシュ「覚えてる」

博士「今でもか?」

彼は博士から視線を逸らして、考え込んだ。
ボッシュ「正義があるか?」

博士「この世界に。ソニア・ヘルナンデスに」

その言葉に彼は俯くように視線を下に向けた。
ボッシュ「評決は まだだ」

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以上の会話からまずは、ボッシュが
「虐待は受けてない。皆に愛されてた」
この言葉から見えるのは、アメリカ社会では
虐待を受けている子供の数は、非常に多いもので
ある事が分かる。
そして、日本にはあまり親しみの無い。
皆に愛されていたという言葉により、
愛というものの大切さを言っている。

次にボッシュは「よりよい世界があると信じて
仕事をしてると言ってた」
と、博士が昔言っていた
事を再び尋ねた。

このボッシュの問いかけにより、彼自身にはその思い
に対して疑念を抱いていたから問いかけた。

博士「ああ、確かにそう言った」
ゴラー博士は昔言った事を覚えていた。
覚えていたと言う事は、彼の中では非常に大切な想いで
あると同時に、変化したから覚えていたと言える。

ボッシュ「今でもあると信じてる?」
ボッシュは博士が覚えていた事に対して、2つの思いが
頭を過った。今でも信じているのか、信じられなくなった
かのどちらか知りたくて、尋ねた。
仮に今でも変わらぬ思いであるならば、自分自身の考えを
改めるべきだという心も、この言葉から見えている。

博士「残念だが、信仰は危機的状況だ。
心のガンだな」
ゴラー博士のこの言葉は昔のように信じる心を忘れて
しまっていると言う意味に当たる。
ここでの信仰とは、
「よりよい世界があると信じて仕事をしてる」事への、
疑念が生じている事を表している。
そしてその思いが危機的状況という言葉からは、
心のガン、つまりは信じられなくなっている自分がいる
とボッシュの問いかけに、少し考えて答えた。

ボッシュも博士と同じく、考えが昔のように
変わっていた事から博士に対して、
「分かるよ」と同意では無いが、そうなっても
仕方のない程、凄惨な世界である事を二人は
理解してしまっていた。
それは自分よりも年上で、仕事も出来る人だと
ボッシュの中で認めている存在であったからこそ、
ゴラー博士の気持ちを察した。

博士もボッシュと同じように考えていた事から、
昔は同じ思いの元で頑張っていた事が垣間見える。
ゴラーは似た感情を持っていたボッシュに、
今の気持ちを確かめる為に問いかけた。
「君は言った。よりよい世界はなくとも
正義はあると信じると」

この言葉により、ボッシュという人間が
現実的な思考を持つ人柄であると│窺《うかが》える。
よりよい世界はなくとも正義はあると信じる」
よりよい世界等は不安定なものであり、良い時もあれば
悪い時もあると思っている。しかし、ボッシュは、
そんな世界はなくとも正義はあると信じると答えている。

この打消しの後にくる正義はあると信じるという言葉は、
自分自身を指しているからこそ、人数は少なくても
この世界に一人だけしかいないという事の方が不自然で
ある事から、他にも誰かいる事を指しつつも、
自分の正義は失われる事は無いと、昔は思っていたという
事に繋がる。

ボッシュ「覚えてる」

博士「今でもか?」

そして次に来るこの言葉は短いものではあるが、
非常にお互いにとっては大切な問いであった。

ボッシュはすぐに「覚えてる」と答えた。
この言葉には二つの意味が存在する。
一つは今でも昔と同じく、同じ思いを持っている事。
二つ目は、その思いが消えていくのを感じているから
即座に答えたかのどちらかであった。

だからこそ、博士「今でもか?」と言う言葉を博士は
ボッシュに対して投げかけた。

これに対し、ボッシュは非常に難しい答えを返した。
ボッシュ「正義があるか?」
この言葉だけでは、正義があるか?と逆に問い返した
ようにも聞こえるが、この言葉の意味はそうでは無い
事が次の博士の言葉により分かる。

博士のこの言葉からボッシュに対して、正義はあるのか?
と尋ね、そしてボッシュはその問いに正義がある事を
問われている事になる。
「この世界に。ソニア・ヘルナンデスに」

博士の「この世界に」
この短いフレーズに、全てが込められている。
ゴラー博士は、昔話した時のように、世界に正義は存在
するのかと尋ねた。それに加えて、放火犯により、
10歳で死んだ少女の名前を付け足す事によって、
この世界に正義はあるのか?と、今でも変わらぬ思いで
いるかどうかをボッシュに尋ねた。

ボッシュ「評決は まだだ」と最後に言った。
それは悪と戦うのに対して、悪を使わなければ
対抗出来ない事に対しての疑念が生まれていた。

正義のために悪を利用する事への疑問が、
彼の心の中にあった。

内務調査に対して、必要性も認めるが、
過剰な程の取り締まりに対しては、捜査の邪魔に
なるだけであって、仕事が手につかなくなる。
上司は板挟み状態である事を理解しているが、
人間である以上、間違いも犯す。

相手がどんな極悪人であっても、それを擁護する
弁護士や団体がいる世界に於いて、権力も金もある
悪人は捕まえても野放しにされる。

この問題に関しては、実際アメリカ社会では問題の
一つにも上がっていて、映画等もある。

捜査には手順があるが、それを全て守っていたら
助ける事が出来る事の弊害にしかならない苛立ちを、
ボッシュも長年、刑事をしていて自分の中で決めて
いる一線だけは越えないようにする事で、過剰過ぎる
行為はせずに、一線を守る事で正義としていた。

その事から「評決は まだだ」と彼は答えた。
それは矛盾する二つの思いが交差する事により、
彼自身の中でも昔とは明らかな変化があった為、
ボッシュも自身の事でもあるが、倫理を守る自分と、
それに相反するモノが存在している事への迷いが
見えたシーンであった。

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