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キタダヒロヒコ詩歌集 97 ぬえとりの


あの3.11の2ヶ月後に、こんな歌を書いた。

発端は、新聞で読んだ、神宮球場でのプロ野球の試合記事。
もともとナイターの予定だったのが、
節電のためデーゲームに変更されたという試合。
平日のデーゲーム、スタンドもガラガラ。
夕刻、雨雲が来てさすがに暗くなり、照明塔に灯が入ったが、
通常の3分の1の明るさの照明に、ガラガラのスタンド…
という、なんとも異様な写真を新聞で見た。
審判団はぎりぎりまで点灯を見合わせていたそうで、
中日・落合監督の「こんな状況では選手が危ない」という一言で
ようやく点灯したそうな。

プロ野球は観客の私たちからするとわくわくする非日常空間。
けれども、同時に日常の一部だった。
1日の終わりに、家でリラックスしながらのテレビ観戦。
(近頃は地上波の中継がなくなったことで、様相が変わってきたけれど)
選手たちにとっても、野球はなりわいであり、試合は「日常」だったはず。

しかしこのとき、なんとも異常な形で、球場に「非日常」が戻った。
それを歌にしてみたのでした。

このころ試していた、すべてひらかな&清音の連作です。
でもさすがに読みにくいと思うので、
漢字仮名交じりに直したものを付け加えます。



ぬえとりの    キタタヒロヒコ



あたりきのやうにうけゐしめくみかなつねならぬひにふかくおもひつ
(あたりきのやうに享(う)けゐし恵みかな常ならぬ日に深く思ひつ)


あしひきといふにはあらねとつねならてひるなほくらきみやこのめとろ
(足引きといふにはあらねど常ならで昼なほ暗き都のメトロ)


まとほにもつとへるかけにましりつつあはきひとりとなるないやせき
(間遠にも集へる影に混じりつつ淡き一人となる内野席)


たなくもるあめのにほひのたそかれにたまのゆくへのみえさりにけり
(たな曇る雨の匂ひのたそがれに球の行方の見えざりにけり)


ぬえとりののとよふこときひひきなすうすくらかりのおたちたいかな
(ぬえ鳥ののどよふごとき響きなす薄暗がりのお立ち台かな)





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