悪い男

「悪い男についていくなよ」っていつも言うあなたの腕のなかに、私はいま抱きしめられている。

あなたの腕のなかは思ったよりあたたかくて、心がやわらかくなった。このぬくもりを私は待ってたのかもしれない。遠くのほうでうっすらと男性の影が浮かぶ。その影を私はぼんやり見つめながら、私はこうしてあなたに溺れていくんだろうなと感じて影を視界から消した。

時刻は夜10時過ぎ。

あなたの腕のなかで私はトクトクと鳴るあなたの優しい鼓動を聞く。トクトクトク・・・トクトクトク・・・。あなたの音と私の音のリズムが次第に合わさっていくのを感じる。なんて心地いいんだろう。

「これからどうする?」

あなたが静かにそう言った。

私に聞くの?

私が選ぶの?

自分から抱きしめてキスしておいて私に選ばせるなんて、悪い男はきっとあなただね。

そう思ったけど、私は淡い寂しさから漏れる言葉をあなたの耳元にそっとささやいた。

あなたの熱くなった瞳がきれいで、悪い男も悪くないと思った。


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