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返事は。

ある日、彼から何の前触れもなく「ごめん、好きな子ができた」と言われた。それは単なる「好きな子ができた」じゃなくて「関係した子を好きになった」だった。

そして聞かされた名前のその子を目にして、熱い嫉妬の炎に襲われた。心が焼けそうになった。この子を抱いたんだ。

「浮気された」と同期の秋山に話したら、秋山は驚くほど怒りをあらわにしてくれた。強い口調で「ありえない。許せない」と怒ってくれた。

浮気をこんなふうに厳しく責めてくれる男性がいるんだと、ちょっと驚いた。秋山はその彼とも知り合いだし、「つらかったな」とか「大丈夫か?」とかそういう言葉は想定内だったけど、その怒りは想定外だった。秋山みたいな人と付き合ってたらこんな苦しい思いをしなくてよかったのにって思った。

秋山は私に優しかった。お兄さんみたいな存在で、頼りない私を見守ってくれた。年が一つ上だったのもあるのかもしれない。

その秋山は同期の誰よりも早くに結婚した。私たちの上司とだった。仕事のできるはきはきとした綺麗な女性だった。

きっと秋山のことだから、家庭を大事にして幸せになるんだろうと思っていた。

でも秋山は数年で離婚した。子供もいたけど離婚した。

二人の間に何があったのかは分からない。秋山はその話を何もしたがらなかったし、しばらくして地方に転勤してしまったから。

私たちは年賀状とSNSだけの付き合いになった。

それから15年、繋がってはいる。でもそれだけの関係。秋山はずっと再婚はしていない。年賀状には「元気にしてるか?」といった一行メッセージが書かれている。私は近況を数行書く。結婚したとか子供ができたとかの簡単な報告。

私と秋山は何も始まらないし何も終わらない。

SNSでときどき互いのページに足跡を残し、年に一度、年賀状を送りあう。

今年の年末も、またいつもどおり年賀状に近況を書くだろう。

「私も一人になったよ」と。

ねぇ、なんて返事くれる?


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二人のその後はこちらです。



お気持ち嬉しいです。ありがとうございます✨