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#12 心にまた一つ

中山さんとの初めてのデートはとにかく緊張して、何をどうやりとりしたのかよく覚えていない。

向かい合っていることが恥ずかしくてあんまり顔は見れなかったけど、彼が話す言葉はぜんぶ覚えておきたくて、耳はとても集中していたように思う。

お会計のときに彼のそばに立ち、財布を出そうとした私に中山さんは「ここは僕が出すから」と優しく笑いかけてくれた。

「でも」と迷っていると「次はじゃあ少し結城さんにもね」と言ってくれて、次もあるんだとうれしくなった。大好きな中山さんが私とのこれからを当たり前のように考えてくれるその気持ちに涙が出そう。

中山さんには奥さんがいる。

だからお店を出た後はきっと別々に帰るんだろうと思っていた。

今日一緒に過ごせただけでも贅沢なのに、もう少し一緒にいたいなんて言えないから「じゃあ、また明日」と言われれば「はい、また明日」と答えるしかないんだろう。

お店のドアを店員さんが開けてくれ、中山さんから先を促され外に出る。

もうすっかり外は暗くなっていて、夜風が私の頬を優しくなでた。

「結城さんの駅は確か、倉坂の方だったよね?」

私はコクリと頷いた。

「まだもし時間が大丈夫なら、一緒に隣の駅まで歩こうか」

予想していなかった中山さんからの言葉を聞いて、もしかして中山さんも私ともう少し一緒にいたいと思ってくれたのかなってドキッとして心がとても柔らかくなった。

時間はもう9時半。中山さんはこんなに遅くなって奥さんになんて言ってるんだろう。クリスマスの日に見た奥さんのふんわりした髪を思い出しながら、一人で待っている彼女の後ろ姿を想像した。

中山さんは頷く私に優しい表情を見せてから、少し前を歩きだす。私はそのあとをちょっと早足でついていった。

中山さんとどの距離で歩いていいのか分からない。本当はすぐ横にくっついて手を繋いでほしかったけど、言えなくて黙っていた。

ここから次の駅まで行く途中には海沿いの道があって、そこを2人でゆっくり歩いた。

レストランでも中山さんは自分の昔のこととかをたくさん話してくれたけど、今もまた学生時代の話とか友達の話とか、いろんなことを教えてくれた。知らなかったこれまでの中山さんについての話はとても新鮮で、ささいなことでも聞けるのはうれしかった。

何よりも私の方を見て、優しく話しかけてくれる中山さんがとてもとても好き。

そんなことを思って見つめていると、ふと中山さんは立ち止まり静かに私の手を繋いでくれた。どうしよう、うれしくてうれしくてドキドキする。中山さんの手から優しさが伝わってきた。

中山さんのそばにずっといたい。

中山さん、私とのデートは楽しかった?

少しだけでも好きになってくれた?

今日もたくさん聞きたいことが心に浮かんだ。

でも自信なんて全然ないから何も聞けないよ。

2年間ずっと好きで、これ以上、中山さんを好きになる心の隙間はもうどこにもないと思っていたけど、また今日も私の中の中山さんが増えた。


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#短編小説 #連載小説 #中山さん #デート #自信

続きはこちらです。

第1作目はこちらです。ここからずっと2話、3話へと続くようなリンクを貼りました。それぞれ超短編としても楽しんでいただける気もしますが、よかったら「中山さん」と「さやか」の恋を追ってみてください。


お気持ち嬉しいです。ありがとうございます✨