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【詩】知らない人たちの密林

僕の周りには知らない人たち
知らない人たちが、たくさん、たくさん
見渡すかぎり、そればかり、そればかり
知らない人たちばかりがたくさん

パソコンとにらめっこ知らないお兄さん
携帯とにらめっこ知らないお姉さん
なにとにらめっこ?
けげんそうな顔の知らないお母さん
会話の動きだけが見える知らないお友だちは口パクのエキストラみたい

皆それぞれの世界でそれぞれを生きている
だから僕らは知らない人たち

知らない人たちの溜まり場
知らない人たちの行列
知らない人たちを捌く知らない人たち
毎日、毎日、知らない人と出会い別れていることを僕たちは知らない
なんせ知らない人どうし
そんなことは知らない

知らない人だから
文句を言えたり言えなかったり
うーんとか、えーととか、
ちょっとした無駄さえも申し訳ないと思うのは
タイムがマネーの世の中だから
そんなことは知らない とわがままは言えない
なんせ知らない人どうし

知らない人だから
礼儀よく、普通に、まともでいなきゃいけない
薄っぺらいマイルールブックは
閉じて横に置いておかないと
公式のルールブックは
できたての食パンくらい分厚くて
実は誰も読んだことがないらしい
たとえ読んだことがある人がいても
みんなが知らなきゃイミはない
でも、そうなると
誰も知らないマイルールブックは
この世で最も無イミな常識

だから僕は擬態する
丸くて害のないまともを演じる
カメレオンにだって負けない
食べられないように
狙われないように
誰にも見つからないニンゲンになるために
そして本当のイミで気づいてもらうために
カメレオンだってきっとそう
気づいてもらうために
気づかれないようにしている

僕を食べようとする奴らは
擬態さえしていれば僕には気づかない
擬態している僕に気づくのは
僕の本当の友だちで恋人
僕の好きな 僕を好きな人たち
彼らは僕を食べたりしない
ニンゲンがカメレオンを食べないように

知らない人たちを僕は知らない
それは怖くて不快で興味深い
恐怖に好奇心が勝つ瞬間、
後悔というほんの少しの未来を調味する
淹れ過ぎたスパイスは瓶には返らない
香りも味も尖りすぎていて絶望
失敗作を仕方なく口に入れると
それはそれでいい味
そんな風に思えるのは
食後の珈琲を飲んだ後だけ

でも、またその味を作ろうなんて思わない
わけのわからない絵を無理に肯定するための後出しジャンケン
恐いものは恐くて 知らない人は知らない
震えている手に気づかれないように
僕はまともになり直す

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