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風の吹くまま、気の向くままに 2 (佐藤厚志『荒地の家族』から)

 2011年3月11日に東日本大震災が太平洋岸に発生しました。今まで経験したことのない大きな地震で、大津波が発生して多くの人が亡くなりました。あの世での安らぎをお祈りします。

 あの時の地震の揺れは、私の創作にも描写しておりますが、家の中にいると、はじめゴーという地鳴りの音が遠くから地中を伝わってきて、大きく揺れだすのです。この世の終わりかと思うような振動が、三回連続して襲ってきました。

 千年に一度の地震です。もっと短周期の宮城県沖地震の発生は近くありうると注意喚起はされていましたが、まさか千年とは誰も言ってませんでした。この地震後に、千年前の津波の痕跡を見つけたとかの話がありましたが、もう遅いですね。

 それに、安全神話のあった福島の原発が水蒸気爆発を起こして、爆発はしませんと言ってたのに何てことだったのでしょう。あの寒空に放射能の雪は降ってくるし、庶民には逃げるところがありません。

 あれから12年後の今年、仙台の作家、佐藤厚志が『荒地の家族』で芥川賞を受賞しました。本の内容は、被災地における壊れかけた家族の物語といえます。一人親方の植木屋、祐治が主人公です。

 祐治の家族は、彼の母と息子の三人暮らしです。彼の妻は、震災の二年後に肺炎のため亡くなりました。二人目の妻は、流産した後、家から去り離婚を迫られています。妻の仕事先に押しかけますが、面会はかないません。何のために、祐治は自分に示しがつかないと思っているのです。

 祐治には、高校時代の同級生が二人います。一人は役場職員の河原木といい、震災直後に、祐治の仕事がなくなった時、雑用とも言えそうな仕事を紹介し、祐治を助けます。もう一人は明夫といい、中古車店で働き、祐治を超える不幸を背負っています。明夫は飲んだくれで、妻と娘に家出をされます。家を出た二人は、実家で津波に飲まれます。明夫自身も肝臓の不治の病にかかっていて、そんな体で海での密漁をしたり、不可解な行動をします。やがて、自らこの世への未練を断ち切ります。

 家族の問題です。この小説の言わんとすることは何なのでしょうか。設定された家族は、幸せとは程遠い状態です。まるで、破壊された被災地の様に家庭そのものが荒地です。荒地でなければならなかったと思います。そこからの修復をどうするかです。これは被災地の復興と重ね合わせていると感じました。主人公の祐治が意識の混とんの中で生きていこうと思ったからです。とにかく災害は忘れないようにすることが、その対策には肝要と思います。

参考文献:佐藤厚志『荒地の家族』新潮社2023年

 


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