原ふたお

仕事を定年退職後、第二の人生として芸術大学の通信教育を受け卒業しました。退職後に本を書…

原ふたお

仕事を定年退職後、第二の人生として芸術大学の通信教育を受け卒業しました。退職後に本を書き、これまで著作は『人の世の物語』と『ブロンズの母』があり、さらに『孫のおあいて』が近く発刊の予定です。noteでは、いずれ今構想している時代小説を書いてみたいと思っています。

最近の記事

風の吹くまま、気の向くままに 7   (原ふたお「自作短編小説」から)

 仕事にはマネージメントサイクルというものがありまして、いわゆるplan- do-seeですが、そのseeを自作投稿作品にやってみようかと思いました。評判を気にして書くんでは良い作品はできないよと言われそうですが、学校の受験でも傾向と対策という参考書があるじゃないですか。ほんの遊び心ですが、今後の作品執筆に少しでも参考になればと思いました。    ちなみに私の投稿作品を大まかなジャンル別に並べてみると次の通りとなります。 ● 学園もの「推理」  『秘密のペンダント』 (202

    • 【短編小説】青い目のお人形さん

       ご存知の方もいると思いますが、太平洋戦争前の昭和の初めころにアメリカから日米親善を目的として万単位の「青い目の人形」が贈られてきました。これに対して日本も答礼人形を送ったという話があります。  残念なことに、青い目の人形は、戦争中に敵性人形として処分され、秘匿し残ったのは、四百にも満たない数だといわれています。  これらの史実を下地として、日米友好を念頭に書いたのがこの物語です。既刊行の『孫のおあいて』に収録されていますが、多くの方々に読んでいただければ幸いと思い、投稿しま

      • 【短編小説】サムライの子

         江戸深川にある古びた長屋にも朝が来た。早春の朝日の光が南向きの部屋の格子戸の隙間から差し込んでくる。格子戸をわずかに開けて、前庭を覗くと、太陽の光線が射し込み、外の冷気が顔にかかった。  庭の井戸に誰もいないのを確かめ、数え十二歳の木坂信道は木桶をもって水をくむため外に出た。庭の南側にある井戸で釣瓶をもって水を引き上げようとしていると、隣の植木屋の女房、お律ががらりと引き戸を開け、顔を出した。 「おやあ。信坊。毎朝大変だねー。釣瓶が上がらないじゃない」  大柄で頑丈そ

        •  【短編小説】無限連鎖

           この小説は、私の既刊『人の世の物語』に収録された短編の一つです。 多くの方々に読んでいただければ嬉しく、ここに披露しました。 (画像は皆既月食2022/11/8)    山の中の変幻  ある山裾の里に、寒く厳しい冬が終わると。いつものようにどこからともなく春の季節がやってきました。緑の絨毯が里を敷き詰めて、それから徐々に山を上へ上へと広がっていきました。    その日は、ことのほか穏やかに晴れ上がっており、農夫の太吉は、陽気に誘われるように山に山菜取りに分け入りました。

        風の吹くまま、気の向くままに 7   (原ふたお「自作短編小説」から)

          【短編小説】消えた名画

           四月になって、桜の花が咲いた。開花宣言が例年よりも三日早いという。地球温暖化の影響か開花が毎年早くなっているようだ。天気も快晴でほのかに暖かいし、けだるく、眠気を催すような午後の時間となった。 「あれ。ルノアールの『少女』の絵がないわ」  ここ仙台市の私立高校で、丸顔の美幌咲子が画工室の絵画収納棚を何度も見なおし、眉を寄せて困ったような声を出し、腰を伸ばした。美術の授業に使う題材を準備しているのだが、模写する対象の絵が見つからないのだ。この授業の準備担当者として、早めに

          【短編小説】消えた名画

           【短編小説】しなさだめ

           今日も雨が降っている。この頃の梅雨時の雨は、昔みたいにしとしととは降ったことがない。いつも土砂降りで、雨水が側溝を流れ下り、近くの小川がすぐにあふれかえって、辺り一面を水浸しにしてしまう。 「全く、良く降るな―」  丸岡生命保険会社の独身寮の一室で、瀬山和良は、恨めしそうに雨しずくが飛び交う暗い空を見上げて、面長な顔に憂いを漂わせた。今日は日曜のため仕事は休みだが、営業マンの和良にとっては、この休みが日ごろの仕事の疲れをいやすどころか、毎日の営業成績が気になって、かえっ

           【短編小説】しなさだめ

          風の吹くまま、気の向くままに 6 (飛ぶ教室74「10編の超短編」から)

           昨年7月発行の児童文学雑誌『飛ぶ教室74号』(光村図書出版)に掲載の超短編を読みました。10篇ともそれぞれ味わいがあり、大変参考になり、創作するためのヒントを得たような気がしました。  私なりの考えですが、物語を書くためには、まずは作者が何を表現したいかがあると思います。それは哲学的なものから通俗、娯楽的なものまで多種多様ですが、主題がが決まれば、あとは表現の仕方が大事です。物語の構成を考え、細部の組み立てを工夫します。主題を顕わにする適切な情景を吟味して、言葉という部品

          風の吹くまま、気の向くままに 6 (飛ぶ教室74「10編の超短編」から)

          風の吹くまま、気の向くまま に 5 (泉鏡花『春昼・春昼後刻』から)   

           現実なのか、夢幻なのか、泉鏡花の美しい情景描写の中で物語は展開します。のどかな春の昼下がり、主人公の散策士が聞きかじり、垣間見た世にも妖しい、この世じゃ結ばれぬ男女の恋の話です。    この小説を読んでみて、話の内容もさることながら、文章力と言おうか、物語全体が一枚の絵になったように美的に表現されていると感じました。文字で描いた絵と言おうか、微細なところまで作者は丹念に描き上げます。  余りにも平穏な、うとうとしそうな春の陽気だからこそ、それと裏腹にどこかに妖しの気配が出

          風の吹くまま、気の向くまま に 5 (泉鏡花『春昼・春昼後刻』から)   

          風の吹くまま、気の向くままに 4    (夏目漱石『草枕』から)    

           夏目漱石の『草枕』を読みました。小説の冒頭に「智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。とかくに人の世は住みにくい。住みにくさが高じると、引き越したくなる。どこへ越しても住みにくいと悟った時、詩が生まれて、画ができる。」との有名な文句があります。  作者の言わんとすることは、まさにこれに尽きると思います。けれども、これでは小説になりません。漱石は、自分を余という三十歳の画工を登場させ、この情景を実証しようとします。主な登場人物は、余の外には、出戻りの娘

          風の吹くまま、気の向くままに 4    (夏目漱石『草枕』から)    

          【短編小説】異常皆無の桃源郷   

                 ディスプレイ  空には白色の太陽がまばゆく輝き、大地を暑くしていた。ヒコタは大型のディスプレイから目を離し、ぼんやりと窓の外に広がる緑の林を眺めた。風に吹かれて、木の葉が揺れて、あたかも太陽の熱を振り払っているかのように見えた。  目の前の大型ディスプレイに目を戻したヒコタはちょっと見ただけで、背後の列に座っているエレヌに声をかけた。 「今日も何事もなく終わりそうだ。エレヌのほうはどうですか」 「私のほうも何もない。平穏無事です」  エレヌが自分のディ

          【短編小説】異常皆無の桃源郷   

          風の吹くまま、気の向くままに 3           (伊藤左千夫『野菊の墓』から)

          歌人でもあり小説家でもある伊藤左千夫の処女作『野菊の墓』を読んだことがあります。この小説は、十五歳の少年、斎藤政夫と十七歳の従姉、戸村民子の幼い二人の淡く悲しい、そして美しい恋物語ですが、大人たちの無理解により悲恋に終わります。 作者の伊藤左千夫は、1864年(元治元)の生まれで、1913年(大正2)49歳 で亡くなりました。私たちが生まれてもいない、はるかな昔の物語です。それでも時代を超えて胸に迫ってくるものがあります。それはなぜでしょうか。 その時代の価値観があります

          風の吹くまま、気の向くままに 3           (伊藤左千夫『野菊の墓』から)

          【短編小説】 秘密のペンダント

                 誰が持主  体育の授業が終わって教室に戻り、御崎美奈は、机の中からペンダントを取り出し首にかけ、その上から上着を被った。それを見ていた貝沼麗奈が、目ざとくペンダントに気が付き、とがった声を出した。 「そのペンダント。私のものよ。どこで拾ったの」 「えっ。何のこと」  美奈は訳が分からず、麗奈の顔を見返した。 「しらばっくれないで。ペンダント拾って知らんふりして」  麗奈の真剣な顔を見て、美奈はようやく事態の急迫を知る。 「何言ってるの。これは生まれ

          【短編小説】 秘密のペンダント

          風の吹くまま、気の向くままに 2 (佐藤厚志『荒地の家族』から)

           2011年3月11日に東日本大震災が太平洋岸に発生しました。今まで経験したことのない大きな地震で、大津波が発生して多くの人が亡くなりました。あの世での安らぎをお祈りします。  あの時の地震の揺れは、私の創作にも描写しておりますが、家の中にいると、はじめゴーという地鳴りの音が遠くから地中を伝わってきて、大きく揺れだすのです。この世の終わりかと思うような振動が、三回連続して襲ってきました。  千年に一度の地震です。もっと短周期の宮城県沖地震の発生は近くありうると注意喚起はさ

          風の吹くまま、気の向くままに 2 (佐藤厚志『荒地の家族』から)

          風の吹くまま、気の向くままに 1           (三島由紀夫『金閣寺』から)

           人は、何事も思いつめるのはよくないようです。そうなると多角的にものが見えなくなります。ただ一つのことを考えて、それだけを一直線に追及していくのは、客観性が失われ、気が付いた時には、迷路に落ち込み、後に戻れないということが起きてしまいがちです。やはり色々と比較する余裕を持つのも大事なのではないでしょうか。    昭和の敗戦直後、今から七十年余り前の話ですが、京都の金閣寺が同寺の若い修行僧により放火され消失するという事件がありました。動機はというと、取り調べでの供述によれば、「

          風の吹くまま、気の向くままに 1           (三島由紀夫『金閣寺』から)

             未知の国への門をたたく

                初めて投稿します。まるで未知の国の門から入るようにわくわくしています。肩肘の張らないようにリラックスして臨むつもりです。楽しみながら文章を書きたいと思いますのでよろしくお願いいたします。  何を書こうかと色々考えましたが、なかなか思いつきません。クリエイターとして、最初から創作小説をとも考えましたが、とてもとてもそんな勇気も出てきません。  日常生活の些事をとも考えたりしましたが、皆さんにお見せするようなこともないし、さっそく廃案となってしまいました。いざ書く

             未知の国への門をたたく