酒その2

詩が浮かばない。

きのうも、こんな状態だった。で、苦し紛れに「酒」というエッセイを書いた。そしたら!普段よりもたくさんスキが集まったのだ。なんだか、複雑である。

Aさんの事を考える。Aさんは、両目に十円をはめる、という荒業が得意だった。その状態で、よくナンパしてた。よくよく考えると、彼は出納係をしていた。職場の。だから、あんなに小銭の扱いになれていたのか。なるほど。

普段は、大人しいひとだった、という記憶がある。でも、よく思い出してみると、初対面のとき、彼が片目に五円玉をはめて微笑んでいたことを思い出した。あれ?普段から陽気な人だったっけ?おれの記憶は、あやふやだ。

Aさんの自宅で、鍋パーティーをした記憶も、ある。酔って陽気になった彼は、鍋のなかに鼻糞をいれ、腹がへっていた俺たちは、さすがに抗議した。照れ笑いを浮かべて、彼は、闇鍋だよ、と小さくつぶやいた。部屋は明るかった。

穏やかな印象があったけど、そういえば雨の降るなか、外で奥さんと口論をしていたな。彼の家に泊まった次の日の朝のことだった。お互いずぶ濡れだった。

一度だけ、Aさんと口論になったことがある。居酒屋の入口で。お互い激しく言い合いになった。で、おれの記憶は途中で消えた。


気がつくと、居酒屋の入口で、おれは仰向けになっていた。殴られたのかな?とおもい、顔を撫でたが、痛くない。記憶がまったく、なかった。どうしてだか分からない。

居酒屋のなかから、Aさんの唄う「津軽海峡冬景色」が聴こえてくる。かれの十八番だ。おれは、ぼんやり冬の空を見つめていた。仰向けのままで。

酒の話のはずが、Aさんの話になってしまった。彼との思い出は、もう、ない。

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