【ss】鈍感


鈍感って言葉は誰かに使うものだとばかり思っていた。


どうして気付いてくれないの?

普通分かるでしょ?


これをまさか…、
自分に言いたくなる日が来るなんて。


──本日、私は失恋した。


しかも告白する事すら出来ず、

なんなら恋をしていた自覚すら後からじわじわやってきたのだ。


「本当最悪だ。…アホすぎる…」


静かな夜の公園で、少しでも気を抜けば涙が零れそうになる。


そんな私の隣に居てくれるのは、
唯一の親友ではなくて……


「なんでアンタが慰めてんのよ…」


何故かニコニコしながら私の頭をポンポンと優しく撫でる失恋相手の親友くんだった。


「なんで?俺じゃ嫌だ?」

「嫌っていうか…、そもそも仲良くないし。
なのに…、こんな情けない所見られたくないに決まってるでしょ」


そう言うと彼は私の頭から手を退けて、
並んで座っていたベンチを降りると、私の目線の下に入る様に正面の地べたに腰を下ろした。


「情けなくないよ。
失恋ぐらい誰でも経験するんだし」


「でも…、私はそういうのって親しい一部の人にしか知られたくないの」


「じゃあその親しい一部に俺も入れてよ」


「なんで…!」


「鈍感」



……なに?

…………どういう事?



今の言葉の意味を理解出来ずに必死に頭をフル回転させようとしていた矢先、彼はスっと立ち上がって──



「俺はずっと好きだったんだよ」


真剣な瞳でそう告げられた。



「……う、そ…」


あまりの事に思考も、
口すら上手く回らない。


「本当。
なんならお前がアイツの事を好きなんだろうなーってのは大分前から分かってたし。
で、今日アイツに彼女が出来たって知って泣きそうになってたのも見てた。
…それでも諦めきれないから、こうして駆け付けてはみたんだけど…」


“ まさかこんなに鈍感だったとはね ”って、呆れたような言葉とは裏腹にすごく優しい笑顔で。



「なんか…、ごめんなさい」


「そのごめんなさいは俺フラれたってこと?」


「違っ…」


「じゃあ付き合ってくれる?」


「それは…っ」


あー、もうこんな時に…!


嫌ってくらいに実感する。


私は本当にアホだ。

自分の心の声が聞こえないんだ。


「…分からない」


最悪の返事なのは百も承知だけど、
これが今の正直な答え。


あの人を好きだった事もついさっき気付いた様な間抜けっぷりに我ながら呆れているけど、
あの人とはもう付き合えるはずないからって“ 好き ”の気持ちがすぐに消える事は無い。


でもこんな私を好きだと言ってくれた目の前の彼を、どんな人かさえ知らないままお断りするのは相当おこがましい気もして。



「今はあの人を好きになったのと失恋が同時にきたような感覚で、自分でも気持ちがめちゃくちゃで定まらなくて。
そんな中、想定外の告白に正直余計パニクってるの。
……だから好きとか嫌いとか以前に、もっと知りたいって思う。
あなたの事と、私自身の気持ち」


いつまでも鈍感なままじゃ嫌だ。


もう二度と大切なものを失わない為にも。



とはいえ、こんな自己中な返答はワガママ過ぎるだろうかと恐る恐る正面の彼を見上げると…


見た事ないくらい柔らかな笑顔で。


「良かったー!
速攻でフラれたらどうしようかと思ってた」

そう言うと、さっきまで座ってたベンチに腰を下ろして、私の両手を掴み向き合う様な体勢をとらされて。


「これから二人で沢山会って、沢山話そう。
そしたらきっと分かるよ。
自分の気持ちも、俺がどれだけお前を好きかも」


ドキドキ鼓動が速くなるのを感じながら、
恋に不慣れな私は頷くだけで精一杯だった。



*end*



(もっと知りたい。そう思った。)
お読み頂きありがとうございました。

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