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「傲慢と善良」~自分視点だけでなく、親視点でも考えさせられる本~_読書#8

※ストーリーのネタバレはないようにしています。

本の情報

傲慢と善良
辻村深月(著)
2022年9月30日 初版発行

最初に

内容はストーリーもの、小説なので
気になって先を読み進めるのですが、
同時に、辻村さんの人間に対する洞察力、
そこを読みたくなっていきました。

辻村さんのエッセイを
読んでいるかのようでもありました。

人間の内面・深層心理を突き詰めて
表現されている、凄い作品だと思います。

本の帯に記載されていた
作家・朝井リョウさんの解説が
僕にはピッタリでしたので、ここで引用します。

この小説はベビーなのである。
それは恋愛や婚活にまつわる
紆余曲折が描かれているからーーーーというよりも、
何か・誰かを”選ぶ”とき、私たちの身に起きていることを
極限まで解像度を高めて描写することを主題としているからだ。
作家・朝井リョウ(解説より)

本の帯より

思ったことを、3つの観点で。

傲慢と善良は、自分も持っている

僕は婚活中ではない身ですが、
どこか思い当たる節があって怖くなりました。

本の帯にあるように、
人生のパートナー探しに限らず、
「何か・誰かを”選ぶ”とき」

値踏みするような傲慢さ。

値踏みするまではしなくとも、
自己愛やプライドから
相対的に自分に釣り合う・釣り合わないで
見ていないか。

意識的にやることはないにしても
無意識レベルではあるのではないか…

しかし、傲慢さは気を付けようと思えば
何とかなるだろうと思えます。

もっと怖いのは、「善良」の弊害ではないかと。

この本の中の「善良」とは何か。
親の言いつけを守り、
誰かに決めてもらうことが多すぎて
「自分の意思がない」、
「自分で決めることができない」こと。

善良なのに傲慢。
一見矛盾しそうな両者が、
同じ人の中に矛盾なく存在するのが
今の世の中。
この本の主張に、考えさせられます…

善良。
過保護な親の存在は、
昔に比べて最近よく言われるようになりました。

例えば、昨今は情報社会となり、
子供より情報強者である親が
色々調べてあげる、
選択肢を提示してあげる、
ことは多いと思います。

やり過ぎると、
自分で決めないゆえに
「不正解のない人生」を
子供は歩んでいきます…
正解することもなければ、
不正解にもならない。

傲慢。
多様性が言われ、認められるようになり、
「ありのままの自分で良い」と思える、
つまりは自己愛や自己肯定感を抱きやすく
なりました。(これ自体は良いこと)

露骨に相手を値踏みすることはないにしろ、
自分への評価の高さは
相手を(相対的に)評価することに
つながる可能性を示唆しています。

そして、善良からくる傲慢。
これまで自分で選択せず
不正解のない人生を歩んできて、
自分で相手を選ぶことができない、
でも自己愛は強い。

相手に「ピンとこない」ので、
結果として「自分にはふさわしくない」
と判断する。

僕の中にも傲慢と善良は多分あり、
人との付き合いの中で
気を付けねばならない、と思いました。

親の過保護がもたらす善良

息子(中3)がいますので、
親の視点でも考えさせられました。

この本に出てくる過保護な親は、
読んでいても明らかな過保護っぷりです。

自分たちは
ここまでではないと思えましたけれど、
程度の差はあれ、
過保護な行動を色々やっていないか、
息子が大人になった時に影響は出ないか、
よくよく考えないと、と思います…

前述の通り、子供かわいさに、
親が選択肢を全部用意して上げたり
失敗にならないように、傷つかないように
前もって準備をしてあげたり…

自分(親)自身の視野も気をつけないと。
狭い範囲の常識と知識で生き、
それを子供に押し付けるような行動を
していないか…

子供が子供のうちは良いのですが、
大人になった時、
自分で何も選択できない大人にはならないように。


もう1つ、
善良の対比として記述があったのは、
「悪意を知り、打算を学ぶ」ことの必要性です。

現実の負の側面ですが、
確かに現実にあるものだと思います。

ポジティブには、
「経験が豊富」、「要領が良い」
などに言い換えられるでしょうか。

この本の中では、

親がお膳立てした苦労のない道を歩んだ子供は、
「悪意を知り、打算を学ぶ」ことはない。
そもそも教えてもらえるものではなく、
巻き込まれてどうしようもなく悟るもの。

とあり、確かにそうだと思います。
わかっていても、子供には苦労させたくないけど…

子供が自分で調べ、自分で考えて選択し、
小さな失敗はたくさん経験する。
親としては、子供を信じて見守ることが
大事なのだと思います。

辻村さんの深掘りの力、構成力

深掘りの力は、
noteで記事を書く自分にとっても
参考にしたい部分でした。

1人の人間についての心理を深く追求、
1つの事象について色々な角度からの観察、
大変勉強になる一冊だと思います。

物語としての面白さ、
ストーリーの構成力にも引き込まれました。

物語が進む中で、ここでは
誰の傲慢さ、誰の善良さが描かれているか、
を考えながら読むと面白いです。

大きく第一章と第二章に分かれており、
そこでも視点を大きく変えて描かれています。

ネタバレにならないよう、内容はこの位で😄

最後に

話題になっていたのと、
タイトルが気になったのとで
読んでみました。

ストーリーは面白く、
色々なことを考えさせられる点も良く、
オススメの一冊になりました。

人間の傲慢さと善良さに関して
考えさせられましたが、
この本で明確な解はなく、
自分で考えて乗り越えていく、
消化していくことなんだろうなと思います。


大変深いテーマであり、
読書レビューの初心者にはキツい本でした😅

最後までお付き合い、ありがとうございました。



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