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いつか終わる夢

「今日の9時に市役所に婚姻届を出してきました!^^」
満面の笑みで、個人的世界ランキング1位(2020年9月18日時点)の可愛さを誇る同僚は言った。

ん?
んんんんん??
んんんんんんんんんんんん???

脳みそは混乱していた。
彼女いたって一言も聞いたことないんだが・・・。
いつの間に?というか、やっぱりノンケ(異性愛者)だったんね。
とにかく、変に間があったり悲しい表情を見せてはダメだ!とにかくあの言葉を言わなければ・・・・!

「お、おめでとう・・・・。」
なんとか声を振り絞った。

「ありがとうございます!^^」
幸せそうだ。本当に幸せそうだ。

12時40分。
僕は、今自宅から遠く離れた県のとある定食屋にいる。
なぜか?

退職の意向を伝えたら、社長が、直接話したいことがあるから本社に来い!と僕に命じたことが発端だ。
朝7時起床。10時社長と面談開始。12時終了。12時40分、片想いしている同僚に結婚したことを伝えられる。
なんと素晴らしいタイムテーブルだろうか。
エグみしかない。

「マッチングアプリで出会って、結構長いこと付き合ってたんですよ。^^」

ま、ま、ま、マッチングアプリだと・・・?
俺は、お前への叶わぬ思いを払拭するために、マッチングアプリガチ勢を目指し、心の隙間を埋める幸せを求めてたというのに、すでにお前は、俺より先に幸せを見つけていたなんて。しかも、その幸せに俺はいない!

脳みそが叫び声を上げた。が、悟られてはいけない。
ちょっと待て。さっきまで、密室で社長とこの世の終わりのようなテンションで2時間会話してた俺に、どんだけ追い討ちかけてくんの?
油断したら、素の自分が出ちまいそうだ。もう、ほんと勘弁してくれよ。
なんつーか、油断したら告白しちまいそうだわ。お前のこと好きだった。というか今も普通に好きだけど諦めようと努力してるって。

「2人で写ってる写真ある?」
意地でもどんな人と結婚したかを確認しなければならない。
誰がなんと言おうと、世界ランキング1位の可愛さを誇る人間の伴侶を知る権利が俺にはある。

「ありますよ〜。^^」
この感じ・・・。めちゃくちゃ好きというか、奥さん絶対可愛いパターンや。
辛えわ、辛え・・・。やはり、可愛さは正義だ。否定しようがない。

「はい。^^」
満面の笑みで携帯の画面をこちらに向けてきた。

まず目に入ったのは、同僚だった。
いつもとは違ってプライベートモードなのか、ゆるい感じで無精髭も生えていた。

か、か、か、可愛すぎる・・・。


ダメだ。どうして、こんなにも可愛いのだろうか。
そして、どうしてこんなにも可愛い人間が遠いところに行ってしまうのか。
アイドルが結婚してもノーダメージな人生を歩んできたが、今初めてアイドルの結婚で喪失感を感じる人の気持ちが分かった気がする。
お金も、時間もそれほど捧げていない自分ですらこれだ。
もう、テレビで発狂しているアイドルファン達を冷めた目で見ることはできない。


同僚に見惚れている場合ではない、と我にかえり覚悟を決め視線を横にずらした。

え・・・?


イメージと違う女性がそこにはいた。
日本人形のような黒髪。色白の肌。大人しそうだが、芯は強そうな女性が微笑んでいた。

美人とは言い難かった。
はっきり言って、地味な印象を受けた。
本音を言うと、同僚がなぜこの人を選んだのかわからなかった。

そう。
これから、自分は酷いことを書くだろう。

正直同僚には、不釣り合いな女性だと思った。

全くもって呆れる。
話したことも、背景も知らない人を第一印象で勝手に評価している。
でも、否定できない感情だった。

「意外だったわ。こういう人好きなんやね」思わず言ってしまった。

「そうです?^^」さらっと同僚は流し、
「社長と2時間どんな話をしたのかを聞かせてくださいよ^^」の言葉を皮切りに、結婚相手の話をすることはなかった。

帰路につく間、自分の中の最低さと戦っていた。
もっと、祝福すれば良かった。もっと、奥さんを褒めれば良かった。
もっと、どれだけ奥さんを愛しているか聞けば良かった。

まぁ、でもそんなことは無理だ。
だって、いまだになんだかんだ好きなのは否定できないから。

幼稚な好きだなぁと思う。
でも、自分を否定してもしょうがないしなとも思う。
感傷的ではあるんだけど妙に冷めている自分もいた。

時間が経てばきっと心の底から祝える日も来るだろう。
少し涼しくなってきた風を感じながら、そんなことを思っていた。

職場に戻る途中に、とても可愛いデブさんを見た。
でも、なぜか頭に浮かんだのは同僚の姿だった。

マッチングアプリを開いてみた。
みんな、自分にとっての1番を探し求めているのだろう。
いつか出会えると信じて。

マッチングアプリの画面をフリックして、ワイヤレスイヤフォンをオンにした。
こんな気分になった時にいつも聴く曲がある。
いつまで経っても変わらないな、と自嘲気味に笑い職場に戻った。



大好きなカリカリ梅や、勉強の書籍代に使わせていただきます。^^