見出し画像

糞フェミでも恋がしたい (その15)

私の名は能條まどか。糞フェミだ。

糞フェミだって時にはやさしくされる、やさしくされればうれしいのだ、雌なんだもの、それはうれしいのだ、私もうれしかった、綺羅君は、ふたつの玉から絞り出すように、濃厚で粘り気のある白濁を、何度も何度も、力いっぱいに発射すると、絶頂と興奮で息を切らせながら、彼の精液でぐちゃぐちゃになった私の身体を見下ろした、綺羅君の男性器は、射精を終えたあとも、まだひとしきり反り返って、反応を続けている、ああ、なんて男らしいんだろう、いいな、雄ってすごい、すごいな、私が朦朧とした意識のなかでぼんやりとそんなことを考えていると、ようやく身を焦がす欲望から冷めたらしい綺羅君が、状況が呑み込めないような顔でつぶやいた。
「………おねえさん…。」
私は力なく微笑むと、綺羅君に言った。
「綺羅君………好き……好きだよ………。」

なんだかわからない気持ちがどんどん溢れてくる、これはなんだろう、気持ちといっしょに涙もあふれてくる、これはなんだろう、私はゆっくり綺羅君に手を伸ばした、綺羅君は膝をついて私の手を握りしめた。
「………おねえさん…ごめん…。」
私の顔と、自分の男性器を交互に見つめ、泣きそうな顔で、綺羅君が言う。
「ごめん……おねえさん…ごめん…。」

綺羅君も、なにか溢れ出して来るものをこらえるかのように、うつむき、下唇を噛んで、眉を寄せている、言葉をかけるのもためらわれる時間、やがて、慌てたような表情で振り返ると、汚れたものを脱ぎ捨て、雄の遺伝子の匂いにまみれた私の身体を丁寧にふいて、抱きしめてくれた、全身の筋肉が強ばって、動くこともままならない私には、膝枕に頭を乗せて、ただ微笑むことしかできなかったけど、そのぬくもりは本当にうれしかった。

日が傾くころになって、ようやく動けるようになると、綺羅君に助け起こされた私は、あたりいちめん、まき散らされた生臭い雄の遺伝子を、ふたりでいっしょに掃除して、汚れた衣装を片付けて、その間も、私の処女穴は濡れて我慢ができないと疼くんだけど、それはそれ、ちょっと黙っておいでとたしなめて、綺羅君の真摯な眼差しに、言葉にならない情愛を感じて、不思議な共同作業を、それはなんだか、確かめ合うような行為に似ていたけども、最後まで丁寧に拭き取って、痕跡を、ふたりの記憶の中におさめていく、匂いも、温度も、手触りも、もう永遠だ。

そして静かに、静かに、お互い言葉を交わすことなく、荷物を詰めて、車に乗って、館を後にする、あたりはもう薄暗くなって、山の空気はひんやりと冷たい、流れる街路樹、遠い街の灯り、峠のドライブインで夕食をとる間も、綺羅君と会話はなかった、スパゲティも、サラダも、黙って食べた、静かに、静かに、車に戻り、ドライブインの駐車場で、長い長い長いキスをした、言葉にならない、お互いの気持ちが全部詰まったキスだった、キスの後で、身体を触りながら、今日のできごとを、ちょっと話して、少しだけ笑って、風が冷たいねと言って、抱き合って、もっと抱き合って、もっともっと抱き合って、私が、綺羅君の男性器にもキスをしたいと言うと、綺羅君は戸惑って、泣きそうな顔で駄目だと言った、また、あいつが現れて、おねえさんを殺してしまうかもしれないから、怖いのだと言った、おねえさんを失うのが、怖いのだと言った。

「………おねえさん…ごめん…ごめんね。」

確かに、もういちどあの綺羅君と出会ったら、私は今度こそ死ぬかもしれない、それが望ましい死かどうか、その時になってみなければわからない、金色の髪、綺羅君のまだ細い肩が、ちょっと震える、私はそれを、とてもとても綺麗だと思った、愛おしいと思った、手をのばし、綺羅君の頬を撫でながらつぶやいた。

「…おねえさん、綺羅君になら殺されてもいいんだよ…。」

綺羅君はビックリしたように、そんなの駄目だと言った、おねえさんのことがとても大事なのだと言った、それは私の心にまっすぐ響いたし、それはとてもうれしい言葉で、物心ついた時から、暗闇と呪いと満たされない欲望の中に生きてきた私にとって、ちょっとした宝物のように輝いた、もちろん、今すぐ綺羅君の男性器でぶっ壊してもらえないのは、とても残念ではあるけど、綺羅君と、あの綺羅君の狭間に立つ私にしか、できないこともあるに違いない、そう思うと、なんだか誇らしいような気持ちもした、そして再び長い長いキスをすると、しっとりとした夜の静寂の中に、唇だけが熱かった。

綺羅君を助手席に乗せ、ハンドルを握り、キーを入れ、東京へのナビを確かめる、低い、エンジンの鼓動を聞きながら、綺羅君と私は気付いていた。

もう離れられない雄と雌だということを。

つづき→ https://note.mu/feministicbitch/n/n4dace8800702

サポートしてくれる気持ちがうれしいっす!合い言葉はノーフューチャー!(๑˃̵ᴗ˂̵)و