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映画『情婦』(1957)アガサ・クリスティの傑作戯曲「検察側の証人」の映画化

こんばんわ、唐崎夜雨です。日曜の夕べは映画のご案内。

このところアガサ・クリスティ原作ものの映画を続けてみているので、今夜もクリスティのミステリーをご案内。
数あるアガサ・クリスティ原作の映画化作品のなかでも、いちばん好きな作品『情婦』です。ミステリーとしても充分堪能できるし、映画としても見ごたえがある。

映画『情婦』は、アガサ・クリスティの戯曲『検察側の証人(原題:Witness for the Prosecution)』が原作。
オリジナルのタイトルも戯曲と同じ『検察側の証人』。

戦前に書かれた短編小説を、後にクリスティ本人が戯曲化。舞台の初演は1953年。映画の原作はこの戯曲。そのため舞台は法廷と弁護士の事務所がほとんど。モノクロ映画。

それにしても「Witness for the Prosecution」が何故「情婦」になったのでしょうね。

これは想像の域を出ませんが、公開当時、アガサ・クリスティの作品はそれほど一般的ではなかったのかもしれません。「検察側の証人」という題名では堅苦しい作品と思われて敬遠されてしまうと判断したのでしょう。好奇心をもっていただくには、もう少しくだけた題名が望ましい。
この題で慣れてしまっているせいもありますが、見終わってみれば『情婦』という邦題もまんざら悪くはないと思っています。

あらすじ

舞台は英国ロンドン。病院から退院したばかりの法廷弁護士ウィルフリッド(チャールズ・ロートン)の事務所に殺人事件の容疑者レナード・ボール(タイロン・パワー)が事務弁護士メイヒューに伴われて訪れる。
レナードは好感の持てる青年だが、アリバイを証明してくれるのは彼の妻だけで、状況はきわめて不利。最愛の妻の証言では法廷は採用しない。
レナードはすぐに警察に逮捕されてしまう。
その後、レナードの妻クリスティーネ(マレーネ・ディートリッヒ)がウィルフリッド弁護士の事務所にあらわれる。悲しみに打ちひしがれた妻を想像していた弁護士らの前にあらわれた女性は毅然とした態度であり、しかも彼女の態度はどこか不審なものがあった…。

さて、『情婦』には名探偵ポワロもミス・マープルも登場しません。法廷が舞台のサスペンスです。
その法廷では証人と検事や弁護士の台詞の応酬は、アクション映画と言ってもいいくらいの緊張感に満ちています。
それでいてユーモアが随所にちりばめられている。クライマックスのどんでん返しもクリスティならではの魅力がある。

監督は名匠という言葉がふさわしいビリー・ワイルダー。ビリー・ワイルダー監督の作品は好きな作品が多い。それに映画やシナリオを勉強したいならワイルダーは外せません。

ワイルダー監督は本作『情婦』の翌年に『お熱いのがお好き』(1958)、さらに1959年には『アパートの鍵貸します』を監督しています。
『アパートの鍵貸します』では自身2度めのアカデミー賞監督賞を受賞。この時期は1906年生まれのビリー・ワイルダー監督にとって円熟期。

『情婦』はこの年のアカデミー賞ではオスカーを手にすることはできませんでしたが、作品賞・監督賞はじめ6部門にノミネートされています。
クリスティ映画、ミステリー映画という枠を外しても『情婦』は名作と呼んでも差し支えありますまい。
ちなみにこの年は大作『戦場にかける橋』がアカデミー賞では圧勝で、作品賞他7部門のオスカーに輝いています。

ビリー・ワイルダー監督の小道具

ウィルフリッド弁護士は片眼鏡を愛用している。
彼は人物判断のテストとして片眼鏡の反射を相手に当てる。その様子をみて人物を判断する。
レナードは合格だが、妻のクリスティーネには疑問符がつく。なぜ彼女は弁護士が疑念を抱くような素振りをするのか。
しかも、この片眼鏡はクライマックスでウィルフリッドの意志に反して凶器となったナイフを照らしている。

またウィルフリッドは退院したばかりのため、定時に薬を服用する。
裁判中、この錠剤をテーブルに並べている。この錠剤の減りぐあいで、観客は時間の経過を知る。
老弁護士は裁判中に錠剤を並べ直したりして遊んでいるところをみると、この裁判は勝てると考えていたのかもしれない。余裕があるから錠剤で戯れていたと思われる。
検察側の証人として妻のクリスティーネが呼ばれるまでは。
そうなんです!!!
レナードの最愛の妻クリスティーネは、弁護側の証人ではなく、検察側の証人として出廷するのです。

名優の縁起に惹きつけられる

実質的な主人公、古狸のようなベテラン弁護士ウィルフリッド役はチャールズ・ロートン。よく舌のまわる付き添い看護人役にエルザ・ランチェスター。この二人のやり取りは緊迫したミステリーの中のコメディの要素を担ってる。老弁護士は病み上がりですが、タバコとお酒が大好きで看護人の目を盗んでは、とおちゃめなところも披露する。

二人はアカデミー賞でそれぞれ主演男優賞と助演女優賞にノミネートされた。実は、この二人は実生活でご夫婦。ご夫婦揃ってオスカーにノミネートされていたことになる。

女性には好かれそうな好青年レナード役には、このときすでに40歳を超えているタイロン・パワー。青年とはいいがたい年齢なのですが、かえって芝居に説得力が出たように思う。
残念ながら彼は本作『情婦』が遺作となります。翌年の1958年に心臓麻痺を起こし亡くなっています。

レナードの年上の妻クリスティーネ役にはマレーネ・ディートリッヒ。
1901年生まれですから、このとき56歳になる。それでいてこのお美しさ。
タイトな感じのジャケットとスカート、それに帽子がクリスティーネ役の基本スタイルですが、回想シーンでは歌と美脚を披露してくれます。

老弁護士役のチャールズ・ロートンが1899年生まれですから、ディートリッヒと実年齢はたいして違わない。

『情婦』(1957)
Witness for the Prosecution
監督:ビリー・ワイルダー
原作:アガサ・クリスティ『検察側の証人』
脚本:ビリー・ワイルダー、ハリー・カーニッツ
撮影:ラッセル・ハーラン
出演:タイロン・パワー(レナード・ボール)
 マレーネ・ディートリッヒ(クリスティーネ)
 チャールズ・ロートン(ウィルフリッド・ロバーツ)
 エルザ・ランチェスター(看護人プリムソル)
 トリン・サッチャー(マイヤーズ検事)
 ジョン・ウィリアムス(ブローガンムーア弁護士)
 ヘンリー・ダニエル(メイヒュー事務弁護士)
 ウナ・オコナー(ジャネット・マッケンジー)
 フランシス・コンプトン(裁判長)

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