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自分自身になれる場所

「人の意見を聞き入れるのは大事なことだけれど、けっして、左右されてはダメよ」とは、私が人間関係で悩んでいることを伝える度に、母が諭してくれた言葉だった。
 ある人は、「富士子さんは真面目で優しいから、誰の言葉も真に受けてしまうのよ。ああこの人は、こう言う人だ、って折り合いを付けられれば良いんだけどね」と言ってくれたこともあった。その人は、私と同い年の女性で、おおらかで人当たりも良い人で、私が行きつけの天珠のお店の店員さん。彼女は優しいけれど、瞳の奥にしっかりと人には左右されない強いものを持っている。
 私だってもう20年以上、社会で働いてきたし、詩も書いて20年になる。だから、もう少し自分に自信を持って生きていかなくてはと思ってはいた。
 今年の春は寒暖差が激しく、私自身もそれにやられて、体調やメンタルが弱まってしまう事があった。今だってそうだ。今日は好きなお酒を抜いて、朝にはパン一枚、昼は小さなカップ麺、夜はカレイの煮付けしか食べていない。けれど、頭だけはしっかり動いている。こうして文章を書いていると、心のなかが整理されて、癒やしすら感じている。
 私は争いを好まない。だから、何を言われてもその人には牙を向かない。そのかわりに、私が心の生業にしている詩やエッセイを書いて私は自分を立たせている。争いは浅はかだ。感情的になって相手を傷つけるなら、自分自身の心の声に耳を澄ましていたい。
 私にとって、最も自分らしくいられること、いられる場所とは、文章のなかなのだろう。あらゆるイマージュや記憶の声を振り切って、自分自身と向き合う時間が文芸なのだ。私には「書くこと」がある。そのことが何よりの私の支えになっている。

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