おみやげ、グミ、文鳥
会社のひとが、つぎつぎと夏休みをとっている。
それにともない、おみやげ文化も復活した。
新発売だという花形のかわいらしいラングドシャや、鹿児島みやげのかるかん。
出社すると、なにかしらが机のうえに置かれている日が続いた。
職場におみやげを買っていく義務はないし、むしろそのお金で現地のおいしいものを食べたほうがいいと思うが、いただけるとやはりうれしいものだ。
職場へのおみやげというと、個包装のクッキーや、おまんじゅうをひとつずつ配って回る、というイメージがある。
今回手渡されたのは、手のひらほどのグミひと袋。
はじめて見る赤い袋に、「なにこれ~!?」と沸き立つ関東民。
一方、「ああ~勝尾寺ね!うち実家近所!」と沸き立つ関西民。
寺、グミ、だるま。
無作為の言葉の組み合わせが、ワットスリーワーズを彷彿とさせる。
世界中を3メートル四方に区切り、3つの単語だけで特定するという、あれ。よくわからないテレビCM、そういえば全然見なくなった。
関連性が薄いスリーワーズのわりに、情報量と謎が多い。
まずは、はじめましての勝尾寺である。
大阪府箕面市にある勝尾寺は、古来から「勝運の寺」として信仰されている。
ここでいう勝運とは、他者を打ち負かすのではなく、自分に打ち勝つという意味合いだという。
受験や病気など、人生のあらゆる場面で自分と向き合うため、願いと片目を書きいれた、いわば誓約書的な「だるま」が敷地の随所にいることで有名なのだ。
創建は平安時代だというから、そうとう歴史のあるお寺である。
といいながら、YouTube動画があったり、ドローンによる空撮映像があったり
インスタをやっていたり
画像素材がGoogleドライブで配布されていたりするので、なかなか枠にとらわれず、今を生きているお寺だとわかった。
一瞬、会社のフォルダにアクセスしたかと思った。
メーカーとコラボして、グミを発売するのもうなずける。
お寺と相性がよさそうな、せんべいやまんじゅうではなくて。
その克己心を宿らせた勝ちだるまをモチーフにした、だるま型グミ。
チャックがついているし、とても軽いので持ち運びが容易。開封しても取っ手のような部分がやぶれない、粋なデザイン。
糖分も補給できるから、受験や就職活動のお守りにはもってこいだ。
わたしが受験生のときはキットカットを持ち歩いていたが、「きっと」よりも「勝ちグミ」のほうが屈強な気がする。
グミ、弾力があるからつぶれないし、季節をえらばない。
内容量は25g表記だが、個数にすると約10粒。
おなかに大きく「勝」と描かれた、指先ほどの、ちいさなだるま。
ちいさな朱色を鼻先に近づけると、少し酸味のある桃の香りが鼻をくすぐる。
香料だけかと思ったが、桃とりんごの濃縮果汁もつかわれている。
すこしかためのグミは弾力があり、桃というよりは、スモモのようなキュッとした酸味も感じられる。
甘すぎないから、勝負前の景気づけにはうってつけだ。
箕面まで足を運べないひとのために勝運パワーを届ける、というコンセプトで、全国のコンビニで数年前から販売されているというが、視界に入っていなかったのかもしれない。
おみやげというのは、旅先の風景や思い出だけでなく、見えていない風景まで見せてくれるのか。
ところで、このグミの絶妙な軽さと透き通った朱色、なにか見覚えがある。
先日からお世話している、この小さな生きものだ。
父がこっそり飼っていたのだが、急に入院したので(無事退院した)、面倒をみていた(退院したのにまだ面倒をみている)。
左目のうえに、コーテーションマークみたいな白い模様がある。
勝ちグミの内容量は25g。奇しくも、文鳥の重さも約25gだった。そんなに軽いのか。
とても軽いけれど、手や肩に乗っていると、ほんのり温かい重みを感じる。
くちばしの絶妙な朱色グラデーションも、勝ちグミの朱色に似ている。
とりたてて克己心を奮い立たせるような案件がないため、勝ちグミは父にあげようかと思ったが、しばらく消化のよいものしか食べられないという。
だから、グミはかわりに食べた。
わたしももうすぐ夏休みである。
旅先で、なにか消化のいいおみやげが見つかるといい。
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