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いつのまにピスタチオ

鎌倉特集、などというと、ほぼかならず東口の《小町通り》商店街がテレビに映し出される。

鎌倉には小町通りしか存在しないのかと思うくらい、つねに人でごった返しているのは事実だ。

むかしながらの店に加え、ジャンルをとわず新進気鋭の店が続々とオープンするから、話題や被写体に事欠かないのだろう。

反対側の西口にも、《御成通り》という商店街が広がっている。
観光客より地元民のほうが多く、比較的落ち着いていて歩きやすい。

とはいえ、路地を入ればユニークなカフェやおしゃれなパン屋さんがたたずんでいるから、あなどれない。

コクリコのクレープを食べるなら、小町通り店よりも御成通り店のほうが空いていておすすめだ。

鎌倉生まれなので知ったような口をきいているが、御成通りの一本奥にある《今小路》に、カフェ併設のパン屋ができていたことをいまさら知った。

いつの間に。

パンとスープとスプレッドの《PLUSOUPLE》は、2022年7月7日にオープンしたという。

お店のインスタにも上がっていた「自家製ピスタチオフランス」が気になってしかたがなかったので、さっそく足を運んだ。

チャコールグレーと白のあかぬけた外観、ウッドデッキにテラス席。

いかにも湘南のパン屋さんという出で立ちだ。
由比ガ浜からの潮風が吹き抜けていきそうである。

カフェでは、旬の素材でつくるスープとパンのセットがいただけるらしい。平日の昼下がりでも、店内はそれなりに席が埋まっていた。

洗練された外観にいささか気後れしたものの、勇気ひとつを友にして、もとい、食い気ひとつを共にして、めあてのピスタチオフランスを購入。

ロゴが食パン型でかわいい

テレビのリモコンくらいの小ぶりなフランスパンに、緑の宝石とも呼ばれるピスタチオが、端から端までつぶつぶつぶつぶ。

翡翠のようなピスタチオ

そのままでもおいしそうだが、トースターで温めることにした。

!!!

自家製だというピスタチオバタークリームが、パンの底面まで染み込んでいるのと、じんわりとろけているのがお分かりいただけるだろうか。

ハード系のパンと思いきや、フランスパンは見た目に反しもっちりふわふわだ。
こんがりキツネ色の皮も、パリッとサクサクでとても食べやすい。

なにより、この自家製ピスタチオバタークリームが罪深い。

ピスタチオのまったりとした甘みと、ナッツ特有の香ばしさとコク深さが、とろとろじゅわっと語彙力と思考力をうばっていく。

そういうハチミツだと言われたら、疑いようなないくらい、深くて濃厚な甘み。

すこし温めてから食べたのは大正解のようだ。

それにしても、ここ数年のピスタチオブームはすさまじい。
わずか5年前は、お酒のつまみやケーキ天面の飾りでしか見かけなかったのに。

街中には、ピスタチオのクッキーやピスタチオのケーキが当たり前のように並んでいる。すっかり主役級だ。

いつの間に。

菓子は白や茶色や暖色が多いから、緑色は全体を引きしめる彩りとしても活躍する。

菓子につかわれる緑色というと、抹茶やマスカット、メロンが思い浮かぶ。
けれど、扱いやすさや味の組み合わせを考えると、どれも汎用性には欠けるのかもしれない。

一方で、ピスタチオはナッツである。

果物をはじめいろいろな食材と組み合わせやすいし、青果にくらべれば保管もしやすい。
おまけに、健康や美肌にもいい成分が含まれているとか。

あっという間に緑色スイーツ界の第一線におどり出るのも納得だ。

その知名度の上がり方、M-1で優勝したのかと錯覚するくらい。

一部のコアなファンから愛されていたのが、一夜にして万人に知られ、好感度と汎用性の高さもあいまって帯番組のメインMCに抜擢されたかのような。

と書きつつ、お笑いコンビにもピスタチオがいるからややこしいなと思っていたら、こちらは2022年5月末で解散していた。

いつの間に。

白目をむくほどではないが驚いた。

Wikipediaによると、ピスタチオの和名は「ふすだしゅう」だという。

真偽のほどは定かではないが、「What time is it now? ー ほったいもいじるな」的な派生だろうか。

ピスタチオ、ピスターシュ、フスターシュ、ふすだしゅう…。

「ふすだしゅう」のほうがよっぽどピン芸人っぽい。


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