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Bounty Dog【Science.Not,Magic】

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遠く、でもいずれ来るだろうこの世界の未来を先に走る、とある別の世界。人間達が覇権を握るその世界は、人間以外の全ての存在が滅びようとしていた。事態を重くみた人間は、『絶滅危惧種』達… もっと読む
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記事一覧

Bounty Dog【Science.Not,Magic】33-

33

 ファンタズマ(幽霊)になって12年間、此の世を漂っているが、人間として死んで12年経っても、闇は煩わしいだけの存在だった。
 望遠機能付きの暗視ゴーグルを目に掛けた小麦色の肌と黒髪を持つ青年は、監視対象(ターゲット)を丘の彼方此方にある林のひとつに紛れながら、遠隔で見つめていた。亜人らしき獣耳を生やした子供の姿を確認すると、”会ちょ”に連絡するか考える。
 若き西洋の隠密は、主人への連絡

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Bounty Dog【Science.Not,Magic】31-32

31

「あのな!オレ、お前と別れてから、実験に実験を重ねてだな!空気からは未だ反応出来ねえけど、兄貴の十八番の、物体を粉化させる操作術ならオレもマスターしたぜ!」
 カイ・ディスペルは寝巻きから黄色いローブのようなトップスにデニム半ズボン・ショートブーツの普段着に着替えており、白い布製のメッセンジャーバッグを肩に掛けていた。旅立ちの準備を整えてから行動していた人間の少年は、懐中電灯の光を前方に当

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Bounty Dog【Science.Not,Magic】30

30

(最初からヒュウラの邪魔をしてはいけないという事?)
(……御意。響きが美しい初めだけで良い。……だ)
(7体は、必ず死ぬって決まっているのね?)
(御意。そうだ。1体は俺の行動で生き物が変わる……だ。……そうか。
 名は教えない。生き物達に影響が出てしまうからな。次にビリビリバギュドゴーンを受けたら、俺にも喋れなくなる…………何とも思わない)

 カイ・ディスペルは、唯1人だけ支部の外に

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Bounty Dog【Science.Not,Magic】27-29

27

「生存しているなら、あの子はLランクじゃ無くてSランクよ。たった1体でも生きているのなら絶滅していない」
「確かにそうですが……でも何で突然姿を表したのでしょうか?何十年も世界中を探しても発見されなかったのに、突然。しかも本人は生きている他の同種の事を全く知りません」
「確かに妙ね。でも記憶喪失以外にも、可能性は幾つかある。それにあの子は姿も能力も間違い無くローグ。原子操作術という、人間に

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Bounty Dog【Science.Not,Magic】25-26

25

 ーー伝言に複雑な暗号を使うのは、解き方が余りにも知れ渡り過ぎて現実では意味が無くなった、創作御伽噺でしかもう使われていない空想のスパイのやり方だ。祖国の機密組織は真逆で、ワザと分かりやすい方法を訓練でスパイ達に身に付けさせる。
 但し分かりやすいは、”過去の人間”にとって分かりやすいという事だ。使う道具は骨董品。カセットテープ、ビデオテープ、レコード、ラジオ、フロッピーディスク、ポケット

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Bounty Dog【Science.Not,Magic】24

24

 ーー18歳になると、出来る事が大幅に増える。祖国では酒と煙草を人前で堂々と飲み吸い出来る。保護者が居なくても恋人との合意だけで結婚出来るし、娼婦も男娼も思う存分に買える。車も家も己だけの名義で買えるし、全ての乗り物の運転免許が取得出来る。ーー
 飛行機の操縦免許は持っていないものの、”彼”は3種の運転免許を取得していた。但し彼が持つ免許証は正規品では無く偽名での偽造品である。20人分の免

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Bounty Dog【Science.Not,Magic】22-23

22

「本当、お前もクレイジーだよ」
 セグルメント・カッティーナが呟いた。『世界生物保護連合』3班・亜人課の現場保護部隊専用支部の一角にある班長室で、班長用の執務机の上に足を組んで座っている彼は、班長室に置かれた赤いロココ調の椅子に座っている、仏頂面の亜人に向かって話し掛けた。
「犬だからなのか?どうしてあの眼鏡を何時迄もご主人様として神格化させてるんだよ。ありゃあ、唯のクレイジーなデジタルオ

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Bounty Dog【Science.Not,Magic】21

 他の生き物が其れをするのは、己の命を此の世に繋ぐ為。人間が其れをすると、最も簡単に名声と大金が得られるが、勘付かれると罪になり、名声と大金を瞬時に失う。

21

 人間達が己達と”都合の良い存在”だけを生き物として扱っている人間の世界では、今から10ヶ月前に2週間に渡って起こった超大量連続殺人爆破テロ事件は、3つの大陸と1つの島国でおよそ200万の人間が悲惨な形で殺されたにも関わらず、過去の事

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Bounty Dog【Science.Not,Magic】18-20

18

 半月前に伝えられた通り、カロルとシルフィ・コルクラートは交信出来なくなった。シルフィはヒュウラに直接尋ねるという方法を用いてみたが、ヒュウラも「頭の中がずっと空っぽになっている」と、何時もの5W1Hが無い喋り方で答えてきた。
 シルフィは、毎夜寝る前にメモを見直す。ヒュウラの身内だろう冥土の魔犬が半月前に予言した、此れから起こる未来を確認してから毎日眠る習慣が出来ていた。
 ヒュウラに、

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Bounty Dog【Science.Not,Magic】17

17

 鼬は犬への復讐を諦めた訳ではない。人間が使うコトワザというモノを用いると『急がば回れ』を彼はしている。
 彼は亜人2体と人間1人を犠牲にした。だが崖と激流の川も多いが、なだらかな丘と林もある故郷に帰る前に、己の自由を10ヶ月間も奪った”クソ犬野郎”をボコボコに殴ってキャンキャンクーンクーン言わせると決めている。
 鼬は滑るように岩から岩へ、人間達が住む『箱』から『箱』に移動しながら考えた

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Bounty Dog【Science.Not,Magic】14-15

14

 猫が爆睡している鳥と鮫を檻越しに見ながら、大きな声でニャーと鳴いた。己が今居る故郷の地で、数え切れない程多く居た仲間達と一緒に群れを作って暮らしていた時から、鮫の亜人に関しては相手に子猫を時々食べられる事もあったが、大人の猫は戦闘力が高く無くても、どの個体も易々と退治出来ると認識している。
 陸鮫族はボール遊びのボールにすると楽しいが、刺身には出来ず、焼いても煮ても生臭くて全然美味しく無

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Bounty Dog【Science.Not,Magic】12-13

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 カイ・ディスペルは、念願のトマトを食べた。本当は大きなトマトを大口で丸齧りしたかったが、文句吐きは我儘でエゴイスチックで、スーパーハイパー最低な行為である。加えて誰かに善意で物を貰ったのに相手の前で平然と文句を吐く行為は、肉体から魂までの全てがスーパーハイパーウルトラ、ミラクルスペシャルアルティメット、ダサい。
 陸鮫の歯で開封された細切れトマトの缶詰が、焚き火の上で煮立っている。鼬は移

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Bounty Dog【Science.Not,Magic】10-11

10

 味方を囮にして犠牲にする事も、策略の内だった。最後の脱走亜人はロープを引っ張ってから離すと同時に岩陰から飛び出して、計画に組み込んでいた道具を拾った。
 鮫の亜人が生え変わらせて口から落とした、鋸のような大きな歯を地面から1本手に入れる。ついでに猫の亜人が鮫を調理中に地面に置いていた、人間の道具も1つ拾って手に掴み持った。
 “彼”は足が遅く持久力も無いが、瞬発的に動く事に関しては狼の亜

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Bounty Dog【Science.Not,Magic】9

9

 カイ・ディスペルが倒れている岩の隙間の横を通って、ヒュウラとリングは地面に落ちている羽根を追っていた。羽根は大型の鳥のモノで、1枚ずつ縦に並んで置かれている。あからさまに分かりやすい罠だった。
 あからさまに分かりやすい罠だが、2体の亜人は共に何も考えずに追い続けていた。片方は本当に何も考えていない。もう片方は、必要を感じなかったのでワザと何も考えていなかった。
『あからさまに分かりやすい

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