スキゾフレニアワールド 第二十一話「一人」

 私は夢を見ていた。
 学生時代の高校生活に戻った夢。其の席に私は居ない。私の居ない学級の教室のクラスメイトは皆楽しげだ。共に笑い合い、励まし合い慰め合い称え合っている。其処には小倉も居る。担任の先生含め生徒も全員私の存在を忘れ、盛り上がって話を続けていた。仲間との青春の話、切磋琢磨して励む勉強の話、チームプレーで挑む部活の話、取って置きの恋の話……例を上げれば切りが無い。小倉は彼に似合わず羽目を外し梅澤や仲の良い男子と談笑している。何故私を思わないのか、私の事が気掛りじゃ無いのかが解らない。教室中何処に居ても其処に有る物は愉しさと安らぎと穏やかさ、健やかさと朗らかさで有って悲しみや憂いの欠片など微塵も感じ取れない。このクラスは平和だ。マイナスや負の感情など何処にも無い。全てが健康的で健全で何一つ不自由無い、言うなればパーフェクトワールドだ。その世界に私は居る? 答えは、誰も言ってくれない。小倉教えて。どうして私と貴方は一緒じゃないの? 何故手を取り合い分かり合おうとしないの? ねえ、小倉。行かないで。私を置いて行かないで。私も其の温もりに触れたい。暖まりたい。私は駄目なの? 小倉。私じゃ駄目? 小倉、ねえ小倉。
「輝っ!」
 自分でも判るくらい哀しみと切なさが滲み出ている叫びだった。時間は現実に戻り天地は逆転するかの様で、やがて世界が感嘆した。目の覚める思い。あれが現実なら此れは何? 悪夢? 明晰夢? 其れ共……。
 私の目から涙が滴っていた。夕暮れの病室で相容れぬ様な怪訝な足取りでナースがくしゃくしゃな顔の私に言った。
「雨宮さん、どうされました⁉」
 沈黙が空気を包む。太陽の光が反射したカーテンは日を遮って幻想的に部屋を只照らす。其処に彼は居ない。無機質な部屋には掛け時計と乾燥しかけた花の入った花瓶とベッドのみ……。夢の時間は終った。残された者の末路は最早解読不能。絶対零度。地盤地下が起きた天変地異は足下の牙城を崩して瓦礫の山に心変わりしては孤独な時間を嘲笑う。視界は一変し闇の世界が訪れる。暗夜を名付けるならブラック・ホールの様でその『無』に只慄く。否。私が無であったのかも知れない。この揺蕩う虚ろで空っぽな空間に命として存在している限り幸せと呼べる保証は在るのだから。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?