スキゾフレニアワールド 第十九話「輝」

「あれから五日……」
 僕は重い腰を上げた。時刻は昼零時。幸いニートの予定は何も無い。今日も無意味にハローワークへ通う日々だ。溜息の癖は相変わらず学生時代の時から変わらない。気怠い日常。遣る瀬無い毎日。自分が何故生きているか判らない。でも、心な中のあいつが言う様な気がする。「そんな事言わないで」今でもあいつは病院のベッドで蹲っている。僕に出来る最大限の事をするだけだ。あいつが笑った気がした。僕は自転車に乗って雪解け道の春の長閑な昼下がりを駆けて行った。遣る事など決まっている。出来る事など決まっている。僕がそうしたいからそうする。其れだけだ。
 僕は図書館に辿り着いた。其処で有りっ丈の精神障害の統合失調症に関する参考書や医学本を読み漁った。文章を一文残らず自分の脳内保管庫の本棚に記憶してデータをセーブした。薬の図鑑では雨宮が服用している向精神薬が載っていた。スマホへ情報を全て移し彼女へ送る言葉を考えていた。図書館の用事が済んだ後、僕は気合を入れてとある家へ向った。何を隠そう雨宮の実家である。
 おばさんが笑顔で迎え入れた。事情を話すと一瞬顔色を曇らせたが気兼ねしない僕の事を信頼してくれているみたいに見えた。雨宮が今現在飲んでいる精神安定剤をスマホの情報と照らし合わせて彼女に又もう一度LINEを送った。さっき借りた医学本をおばさんに渡して僕の用事は終った。自転車を横切る初春の風が冷たかったが、雨宮の背負う物と比べたらへっちゃらだと思えた。全てが彼女の為だけに有る世界に思えて成らなかった。僕は雨宮に恋をしている。其れは間違えようの無い事実。怖いくらい静かな街並みは穏やかさと打って変わって平静さの裏の凄惨な激情を隠し通していると感じた。僕はこう見えて勘が鋭い。彼女なら大丈夫。僕のLINEの文章の思いに気付いてくれている筈。僕等は深い意識の中で繋がっている。苦しい時も喜ぶ時も一緒だ。僕なら大丈夫と何故か思えた。そんな時が一日でも早く来て欲しいと願って成らなかった。希望。世界は其の息吹を感じている。春のやって来ない冬は無い。何処かの偉人が言った言葉を彼女の下へ届けたかった。こうして僕の変哲も無い一日が終った。明日も雨宮を想うのだろう。気付けば毎日LINEを送り合って居た。

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