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カーテンコール 〜人馬の絆キーストン

人馬の絆…「キーストン」感動の物語


昭和40年、第32回「日本ダービー」を勝ったキーストンは、
その年、最優秀4歳牡馬最良スプリンターのタイトルを受賞するなど、
24戦18勝、2着3回、連対率(2着以内率).875という、
中距離では圧倒的な強さを誇った快速馬であった。

昭和42年12月17日、「阪神大賞典」(GⅡ)。
キーストンは、鞍上にダービーでも手綱を取った
主戦 山本正司 騎手を迎え、当然のごとく1番人気で出走した。
大方の予想通りスタートから小気味よくとばす小柄な快速馬は、
向こう正面では8馬身差をつける展開。
最終コーナーを回っても、手綱を持ったままで先頭をしっかりキープ。
誰もがこのままゴール板を駆け抜けると思っていた。

しかし、悲劇は、突然やってきた…。

直線を向いてスパートをかけたとき、
ゴール手前300m地点で故障を発生…。
キーストンは前のめりにバランスを崩し、
そのはずみで落馬した山本騎手は頭を強打して脳震盪を起こし、
一時的に意識を失った
キーストンも、惰性で数十メートルを進んだ後に転倒した。

皮膚だけでつながった前脚をブラブラさせる痛々しいキーストンの姿…。
予後不良(回復の見込みがなく安楽死処分になること)は、容易に想像できた。
突然の悲劇に静まり返る観衆

その時、(激痛で暴れてもおかしくない状態だったが)
キーストンは痛みに耐え、再び立ち上がった。

気絶して動かない山本騎手を見つけると、
左前脚を引きずりながら
3本脚で山本騎手のもとへ歩み寄って行った。
そして、倒れこんで動かない山本騎手を気遣い、鼻をすり寄せた
自分の命が消えようとしていることも知らずに…。

一時的に意識を取り戻した山本騎手は、
キーストンを見て、すぐに全てを察した…。
そして、キーストンの首に手を伸ばし、万感の想いで優しくなでた

キーストンと山本騎手

山本騎手は、その時の事を次のように語っている。

「あー、えらいことになった、と思いましたが、気がつくとすぐそばにキーストンがいたんです。…ということは、そこから離れていったのに、また僕のところに帰ってきたわけですよね。そういうことは、おぼろげに理解できました。
それからキーストンは膝をついて、僕の胸のところに顔を持ってきて、鼻面を押しつけてきました。ぼくはもう……、夢中でその顔を抱きました
そのあと誰かが来たので(中略)その人に手綱を渡して『頼むわ』と言ったまでは覚えてるんですが、また意識がなくなりました。」

出典:渡辺敬一郎『強すぎた名馬たち』
キーストンと山本騎手

既にレースは終わっていたが、
見守る観衆にとって、レースの事などもうどうでもよかった
全ての観衆が2人の姿をただじっと見つめ……、泣いた・・・。

キーストンは山本騎手の手を離れ、馬運車に収容された後、
左第一指関節完全脱臼による予後不良と診断され、
直後に安楽死の処置を施された(回復の見込みがない場合、馬を苦しめないよう安楽死にする)。
山本騎手が再び意識を回復したのは、
キーストンが薬殺された後であった…。

もしかしたら、キーストンが痛みに耐えながら、
山本騎手のもとに歩み寄り鼻をすり寄せたのは、
彼への心配ばかりでなく、最後のお別れを……、
そう思わずにはいられない。

カーテンコール 〜競馬はロマン


競馬はギャンブルである。
そして、力と報酬に裏付けられたビジネスである。
これは疑いようのない事実であるが、
「競馬はロマン」
そう信じて疑わない人が多いのはなぜだろうか……。

一頭のにはたくさんの人々が関わっている。
牧場の生産者、育生者、馬主、調教師、厩務員、騎手…。
その馬を取り巻く人の数だけドラマがあり、たくさんの感動がある。


一族の悲運を背負い、それを振り払うかのようにひた向きに走り続け、
自らもまた悲運に散ったテンポイント
立ちはだかる天馬トウショウボーイをついに破り、
悲願を達成したのもつかの間、致命的なケガが彼を襲う。
そして、そこから本当の死闘が始まった・・・。

テンポイント

エリザベス女王杯を勝ったGⅠ馬であるにも関わらず、
中央から地方へと流れていったホクトベガ
日の当たらぬ地方のレースで、競馬界の常識をことごとく覆し
砂の女王」と呼ばれるまでにのぼりつめた。
そして、日本から遠く離れた砂漠の地で、彼女は星になった・・・。

出典:Number

地方競馬出身でありながら、
数々の名勝負を演じたスターホース、
芦毛の怪物オグリキャップ
その人気ゆえの使われ過ぎから、
「もう終わった」と評され臨んだ引退レース「有馬記念」
最後に手綱を託したのは、
それまでライバルとして戦ってきた名手 武 豊
「オグリはまだ終わっていない!」
彼の言葉に応えるように、最後の直線……奇跡の復活
17万観衆が送ったカーテンコールは、
「競馬はロマン」であることを教えてくれた。

出典:東京中日スポーツ

感動、興奮、奇跡、悲劇……
彼らが織り成す様々なドラマは、多くの人の心を動かしてきた。
イギリスの元首相ノーベル文学賞チャーチル
『恩讐の彼方に』や『文藝春秋』の創刊で知られる菊池 寛
『宮本武蔵』『三国志』などの長編歴史小説で人気の作家 吉川 英治 など、
競馬を愛した文豪は、枚挙にいとまがない。

血統という宿命に立ち向かいひた向きに走り続けた馬。
人間の夢を背負いながら走り続け悲運に散った馬。
彼らは、ただひたすらに走った。
そのことに何らかの意味や価値を見出すこともせず、
ただひた向きに……

「競馬はロマン」
それは、“何かに感動する心”が見せるなのかもしれない。

だとしたら……
私はその蜃気楼を、いつまでも見ていたいと思う。


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