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細胞にとって大事なこと

中学の理科でも学習することですが、細胞は分裂して増えます。ただ、細胞はいつでも分裂できるわけではなく、ちゃんと準備をしなければなりません。まず、細胞の一生についてお話しします。

細胞の一生

分裂して新たな細胞ができてから、また細胞するまでのことを”細胞周期”と呼んでいます。中学生相手には、「細胞の一生」ということもありますが、分裂した元の細胞が死ぬわけではないので、正確ではありません。人間の成長に段階があるように、細胞にも大きく4の段階(期間)があるため、それをイメージさせるために一生という言葉を使うことがあります。
細胞周期の最初はG1期という細胞が成長・仕事をする期間です。分裂したての細胞はサイズが小さいため成長するのと同時に、与えられた仕事(胃の細胞であれば消化酵素をつくるとか)を行います。
次が、S期という”DNA複製”を行う期間になります。細胞は分裂する前に自分のDNAをもう1つ用意して、分裂した後にできる2つの細胞に完璧なDNAが含まれるようになっていないといけません。そのために複製を行うのですが、ここで行われていることはとても重要なので、あとで詳しく話をします。
S期の次がG2期という”分裂準備”の期間になっています。分裂した後も細胞が仕事ができるように、細胞小器官を増やしておく必要があります。最後は、M期という”分裂”を行う期間です。中学でも学習していることですが、あとでまた詳細をお話しします。

複製の方法

細胞が分裂する前にDNAが複製されるわけですが、どのように複製されているのでしょうか?この話をする前に、確認しておきたいのが、DNAは2本のヌクレオチド鎖が水素結合でひっついているということです。DNAの構造が分かってから、複製のされ方が議論されていたようです。「DNAは大事なので一切触れず、新しいDNAを用意する」「2本のヌクレオチド鎖は相補的な関係になっているので、片方のヌクレオチド鎖をもとに新しいのを作る」などです。これを解明したのが、メセルソンとスタールです。
彼らは、大腸菌を特殊な条件で育て、DNAに含まれる窒素が全て同位体になるようにしました。そして、DNAの窒素が同位体になった大腸菌を、普通の条件で育てます。すると、新しくできたDNAの窒素は普通の(同位体ではない)窒素になります。ちなみに、普通の窒素と同位体の窒素の違いは何かというと、同位体は中性子の数が多いため少し重たくなっています。しかし、重たいと言っても測定できないくらいわずかな差です。そこで、遠心分離機を利用します。遠心分離機を用いると、わずかな差でも重たい物は沈殿し、軽い物は浮きます。そのため、DNAの窒素が同位体になった大腸菌のDNAは遠心分離機にかけると沈殿し、普通の大腸菌のDNAは浮きます
彼らの実験の結果、新しくできたDNAは沈澱するわけでも、浮くわけでもなく、真ん中にとどまりました。ここから、DNAは半分は元(親)のDNAで、もう半分は新しくできたDNAであることがわかりました。このようなDNAの複製のされ方を“半保存的複製”とよんでいます。

メセルソンとスタールの実験を簡単に図示しました。

複製の過程

DNAの複製は、次の3段階をおさえてください。

  1. DNAの水素結合を切る

  2. プライマーが結合する

  3. DNAを複製する

先述したように、DNAの複製は半保存的に行われています。つまり、親のDNAを1本のヌクレオチド鎖にして、コピーしていきます。そのため、複製をするためにまずは、塩基どうしの水素結合を切る必要があります。この水素結合を切る時に、DNAヘリカーゼという酵素が働きます。これが、1番目の段階です。
2番目の段階では、水素結合が切られて1本になったヌクレオチド鎖にプライマーが結合します。このプライマーは、このあとDNAを複製する酵素であるDNAポリメラーゼがヌクレオチド鎖に結合するための足場になっています。このプライマーは、プライマーゼという酵素によって作られる短いRNAです。前回の記事でお話ししましたが、RNAはすぐに分解されてしまうので、最終的にはDNAに置き換えられます。
3段階目の複製は、DNAポリメラーゼが鋳型(親の片方)のヌクレオチド鎖に結合して、相補的な塩基を持つヌクレオチドを次々につなげていきます。この時に、DNAポリメラーゼは5’方向にしか進みません。この方向に関しては、次の話題になるので頭の片隅に置いてください。
この生物の解説を始めた時にも言いましたが、高校の生物を理解する上で大事なことは、大まかな流れをすることです。このDNAの複製の過程はとても大雑把なのですが、これが分かっていればPCR検査のしくみについても理解することができます。

複製の過程を簡単に図示しました。

複製をもう少し詳しく

実は、先述した複製の過程は大事なことを飛ばしています。それは、DNAの複製には時間差があるということで、これには日本人科学者も関わっていることから話さないわけにはいきません。
DNAは複製する時に2本のヌクレオチド鎖に分離されます。この時に、DNAヘリカーゼが塩基どうしをつなぐ水素結合を切り離していくわけですが、片方のヌクレオチド鎖にとってはDNAポリメラーゼの進行方向の5’側が開けているのですが、もう片方のヌクレオチド鎖にとっては、進行方向と反対側が開いていきます。すると、DNAポリメラーゼの進行方向が開いていくヌクレオチド鎖では、どんどんDNAが複製されていきます。しかし、反対側では少し複製したら、水素結合が切られるまでしばらく待たなくてはいけないので、複製に時間がかかる上に、短いDNAしか作られません。そのため、DNAポリメラーゼの進行方向が開いていくヌクレオチド鎖を”リーディング鎖”、進行方向の反対側が開いていくヌクレオチド鎖を”ラギング鎖”と呼んでいます。
もう一度言いますが、ラギング鎖では短いDNAしか複製されません。複製の過程を発見した時には、短いDNAがあったことを発見したことが大きかったようです。この短いDNAのことを、発見者の名前をとって”岡崎フラグメント”とよんでいます。この短いDNAは、DNAリガーゼという酵素によってひっつけられています。

リーディング鎖とラギング鎖の簡単な関係

最近Youtubeで調査の様子を配信し始めました。興味がありましたら、チャンネル登録していただけると嬉しいです。まだ、2つしかありませんが、これから増やしていきます。


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