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細胞の役割分担

私たちヒトの体は、約60兆個の細胞でできていると言われています。ちなみに、この60兆個の細胞は、もともと1つの受精卵という細胞が、何回も細胞分裂を行って増えていきます。当然、中に含まれているDNAはすべて同じです。しかし、私たちの体は多様な器官があります。これは細胞の種類が異なっているためで、ヒトの場合約270種類あると言われています。同じDNAを持っている細胞なのになぜ種類が違っているのでしょう?

どんな細胞がいるの?

そもそも、細胞の種類と言われてもピンとこない方がほとんどだと思います。そこで、私たちの体の中の変わった細胞をいくつか紹介します。

筋細胞
筋肉をつくる細胞は、体を動かすためにバネのように伸び縮みします。複数の細胞が融合してできていることに加え、体にしましまの模様があるのも特徴です。

水晶体
目の中心にある黒いところですが、ここには水晶体と呼ばれる透明な組織があります。透明すぎて、眼球の奥の黒いところが見えています。この水晶体は透明な細胞が集まっていできています。

皮膚の細胞
私たちの皮膚は、体の中の組織の中ではトップクラスで硬くなっています。イメージがしにくいかもしれませんが、皮が剥けてしまった患部を考えてみればわかってもらえるのではないでしょうか?これは、ケラチンと呼ばれるタンパク質をつくっているためです。ちなみに、このケラチンをたくさんつくると爪になります。

皮膚の細胞が硬いのはケラチンというタンパク質によるためですが、筋肉の細胞のしましまは”アクチンとミオシン”というタンパク質で、水晶体が透明なのは”クリスタリン”というタンパク質によるものです。細胞といえば、楕円形のふにゃっとしたスライム(ドラクエならバブルスライム)のようなものをイメージすると思います。多くの細胞の形状はそれで間違いありませんが、胃や十二指腸の細胞は”消化酵素(ペプシンやアミラーゼ)”というタンパク質を作っています。つまり、細胞の種類とは作っているタンパク質の違いといったところです。

役割が決まる様子のイメージ

役割が決まることと・・・

私達の体の細胞はすべて同じDNAをもっているため、筋肉の細胞もクリスタリンの遺伝子を持っていますし、水晶体の細胞もケラチンをつくる遺伝子を持っています。これは受精してしばらくの間は、それぞれの細胞が何になるか決まっていないため、何にでもなれるように全ての遺伝子を持っています。しかし、ある時期が来てそれぞれの細胞の役割が決まると、皮膚の細胞はケラチンを作るようになり、他のタンパク質の遺伝子にロックがかかって作れなくなります。この役割が決まることを”分化”といいます
ちなみに、ヒトの場合は役割が決まってしまうと死ぬまでそのままです。筋肉の細胞が分裂したら、次は骨の細胞になるということはありません。「だからどうした?」と思われるかもしれませんが、そのせいでヒトは再生ができません両生類の中には、脚が切れても再びもとに戻る種類がいます。これは、切り口の筋肉や血管や骨の細胞が、一度役割(分化)を解除して、何にでもなれる細胞に戻り、分裂して数を増やしたのち、役割を決め直すということをしています。また、どこを切っても再生するプラナリアは、体の中に役割の決まっていない細胞があり、切断面にその細胞が集まって、分裂して数を増やしてから、役割を決めています。このように、何にでもなれるという性質を”全能性”とよんでいます。
ヒトの細胞では、受精卵のみ全能性があるのですが、先述したように分化してしまうと、役割以外の遺伝子にロックがかかっていまい外れません。そのため、ヒトは体の一部が欠損してしまうと元に戻りません。移植などにより元に戻す方法もありますが、拒絶反応などの問題があります。ヒトの体を再生できれば多くの人を助けられるという考えは多くの人が持っていたようで、ES細胞という細胞が1980年代のアメリカで作られました。

両生類の再生の様子のイメージ
プラナリアの再生のイメージ

問題山積

ES細胞は、マウスの胚(受精後なんどか分裂しただけの細胞の塊)を取り出して作ります。特殊な条件下で培養することで、全能性は保ったまま数を増やすことができました。これによって、胚の細胞にある大人の細胞の核を入れて全能性を持たせ、培養して増やしたのち、再生させたい臓器に変える、みたいなことが可能になります。ただ、これには大きな問題があって、全能性を持たせるために使用するマウスの胚はそのまま育てると、別のマウスになるということです。きつい言い方をすれば、「xxxさんを助けるために、お前のお腹の赤ちゃん(まだ細胞の塊の状態)の細胞をよこせ。まだ細胞のかたまりでしょ?」みたいな感じです。
ヒトを助けるためとはいえ、他の命を奪ってしまっては意味がありません。やはり、理想は自分の細胞を初期化して、目的の器官にかえることでしょう。それを可能にしたのが、山中伸弥博士らによって作られたiPS細胞です。これは、すでに分化したマウスの細胞に外部から遺伝子を複数入れてやることで、さまざまな細胞に分化する能力をもつようにした細胞です。これを応用すれば、自分の体の細胞を初期化して作った人工臓器の利用などが可能になります。といっても、どのように臓器を作るのかなど、まだまだ研究していく必要はあるようですが。

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