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論文が出版されました3

今年2本目の論文が出版されました。この論文は、日本動物学会の学会誌”Species Diversity ”に掲載された”Description of a New Species, Microcotyle pacinkar n. sp. (Monogenea: Microcotylidae), Parasitic on Gills of Sebastes taczanowskii (Sebastidae) from off Usujiri, Hokkaido, Northern Japan “です。日本語訳は、「北海道臼尻沖で採集したエゾメバルのエラに寄生していた新種Microcotyle pacinkarの記載」となります。内容も、タイトルのまんまで北海道臼尻沖のエゾメバルからMicrocotyle pacinkarという新種の寄生虫を見つけたというものです。

どんな寄生虫?

今回発見したMicrocotyle pacinkar は、Microcotyle属(日本語でコガタツカミムシ)というグループに属する寄生虫です。コガタツカミムシは、海産魚のエラに寄生して、宿主の血液を吸って生きている外部寄生虫です。養殖場などで大発生して貧血症などの魚病の原因となることがあります。コガタツカミムシ属というグループに属している種類は、単生類の中で最も多いものの1つです。他のグループには2,3〜10種くらいしか属していないのですが、コガタツカミムシは今回の新種を含めて74種類います。これは、このコガタツカミムシは特定の種類の魚にしか寄生しないという、宿主特異性と呼ばれる性質があるためだと考えられます。

北海道から送られてきたエゾメバルです。

宿主について

宿主のエゾメバルは、北海道の沿岸でよく取れるメバル科の魚類です。すごい簡単にとれることから、”ガヤ”とよばれているようです。エゾメバルは他のメバル科の魚類に比べて小型なため、飼育が容易で、長期的な生理的変化を観察できるモデル生物として利用されています。そのため、11月頃にメスはオスの精子を取り込み、3〜4月にメスの体内で受精し、5月に仔魚が放出されるという生活サイクルがわかっています。

尾鰭の端に白い線があるのが特徴です。英名は、White-edged rockfishとなっています。

一目見た時から

今回の新種は細長いため、標本を譲り受けたとき一目で新種と確信しました。しかし、冷凍された標本だったため論文に必要なスケッチが描けず、2年ほどほったらかしになっていました。その間にも、北海道の知人に連絡をとって標本を集めていましたが、冷凍で送られてくるため良い標本を増やすことができませんでした。かといって、いつまでもそのままにしておくわけにはいかず、手元にある標本だけで論文を書くことにしました。論文を書くときには、研究材料を採集した場所、今回の場合だとエゾメバルを採集した北海道臼尻の緯度と経度を書くのですが、メモにある採集場所を調べてみたところ、知り合い(教え子)が住んでいるところの近くであることがわかりました。そこで、彼に連絡したところ、「卒業してそこにはいないが、エゾメバルで良ければすぐに取れるから送ります。」と返事がありました。これによって研究が一気に進むことになりました。私の論文は、謝辞がやたらと長くなっています。ある方から、私の論文の謝辞の長さは、いろんな人が私を支えてくれた証拠だと言われたことがあります。これからも、感謝を忘れず過ごして生きたと思います。

連絡をとった週末に送られてきたエゾメバルのかたまり。これが2つ送られてきました。

アイヌの寄生虫?

さて、最後に新種の学名のpacinkarの話です。北海道で見つけた新種ということから、地元に根付いた名前をつけたいと考えていました。詳しくはないのですが、大学時代に北海道に住んでいたときに、北海道にはアイヌという北海道の自然と共に生きていた民族がいる話を聞いていました。今回見つかった単生類も、存在は知られていなかったものの、北海道の地で生きてきたわけですから、アイヌの言葉で名前をつけたいと思っていました。そこで、SNSでアイヌ語を教えてほしいと声を上げると、ある方が相談に乗ってくれました。
その方が教えてくれたアイヌ語の辞書的なサイトで検索すると、エゾメバルを意味するpacinkarは一発で出てきました。これは、エゾメバルはアイヌの間でも有名な魚だったということでしょうか。

今回発見した単生類の写真です。魚1匹に10匹近く寄生してあるものもありました。

今年は、沖縄と北海道という日本の両端の寄生虫の報告をすることができました。どちらも、新種でまだまだ調べられていない寄生虫がいると考えられます。もっとじっくり調べてみたいなぁ〜。


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