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ブリの虫

あけましておめでとうございます。今年最初のお話は、内輪の忘年会で食べたブリについてです。魚に興味がなくい人でも名前を知っているくらい有名な魚ですので、寄生虫の研究もしっかり行われています。寄生虫の研究がなされている1番の理由は養殖がさかんに行われているためで、ブリにはアニサキスを除けばヒトに害を与える寄生虫はいません。私もこれまでの調査でブリの寄生虫をいくらか見つけているので、少し紹介します。

ブリってどんな魚?

ブリといえば出世魚で、大きさによって名前が変わります。しかも、地域によって異なっており、私が住んでいる兵庫県では、モジャコ→ツバス→ハマチ→ブリと変化していると記憶しています。念の為にWikipediaで調べてみたところ、モジャコ(稚魚)→ ワカナ(兵庫県瀬戸内海側)→ ツバスヤズ(40 cm以下)→ ハマチ (40-60 cm) → メジロ (60-80 cm) → ブリ(80 cm以上)となっていました。
食用として有名で、多くの地域で食べられてきました。お刺身でいただくもよし、ぶり大根にするもよし、しゃぶしゃぶもよし、何で食べても美味しいです。ブリの寄生虫の話を書くにあたって、初めて知ったのですが、私の母方の家系の者が好きなハマチを好んで食べるのは瀬戸内特有らしいです。しかも、香川県で行われたハマチの養殖が海水養殖の始まりだそうで、ブリハダムシブリエラムシの初めて発見された地域が瀬戸内海なのも関係してそうです。

12月の魚を食べる会で出されたぶり大根です。ブリといえばぶり大根というわけではなく、単にブリと大根があったからという感じです。

ブリの寄生虫といえば

ブリの寄生虫といえば、ブリ糸状虫という真っ赤な糸のような虫がもっとも有名ではないでしょうか?美味しく食べようと購入したブリからミミズのような虫が出てきたという苦情が多いようです。ブリ糸状虫のいたところ以外は問題なく食べるのですが、不快感が残ってしまい、食べる気はおきませんよね。海水温が低い時期にはほとんどなく、温度が上昇すると現れるようで、ブリ糸状虫がでてきたらブリの旬が終わったと判断するお寿司屋さんの話を聞いたことがあります。

https://www.city.kyoto.lg.jp/hokenfukushi/cmsfiles/contents/0000009/9037/105-3.pdf

ツバスの寄生虫

私の手元にはブリの寄生虫の標本がいくらかあるのですが、全てツバス(40 cm以下)から発見したものです。残念ながら1m前後のブリを1匹買う余裕はありません。和名がついている生物は有名であると定義すれば、ツバス(ブリ)の体表に寄生するブリハダムシBenedenia seriolae)とエラに寄生するブリエラムシHeteraxine heterocerca )はとても有名です。両種とも単生類とよばれるグループの動物なのですが、ハダムシはブリの体表に寄生して体の粘液を食べエラムシはエラに寄生して血液を吸います。数匹程度寄生するのであれば、何の問題もないのですが、養殖場などでは魚が密集するため、単生類の産んだ卵がほぼ確実に近くの魚に付着するため、感染拡大がおこります。その結果、粘液を大量に食べられた魚は皮膚病になり、血を吸われすぎた魚は貧血をおこします。

ブリエラムシの写真です。体の後ろに小さな吸盤がたくさんあるのが特徴です。

海水魚の養殖場などでは、ハダムシやエラムシのように体の外側に付着する寄生虫を除去するために淡水浴を行います。海水魚を真水につけることで、海水魚の体表についている寄生虫は浸透圧の変化に対応できず死んでしまいます。この性質を利用して、ハダムシやエラムシのように体の外側に付着する寄生虫を除去するのが淡水浴です。もう少しわかりやすく言い換えると、ナメクジに塩をかけると、塩を薄めるために体の中の水が出て行ってしまうため、ナメクジは縮んでしまうのと逆の理屈です。ハダムシやエラムシのような海の虫に淡水を入れると、ナメクジと反対に真水が体の中に入ってきて破裂してしまいます。

ブリハダムシの標本がなかったので、マハタハダムシの標本の写真を載せています。エラムシとことなり、大きな吸盤があるのが特徴です。

腹の中にも

腸管の中にも寄生虫はいます。腸管の中に寄生する動物としては、扁形動物門に属する吸虫類と条虫類アニサキスが属している線虫類(線形動物門)、鉤頭虫でしょうか?これまで何度かブリ(ツバス)の腸管の中を調べたことがあるのですが、吸虫類しか見つけることができませんでした。といっても、とてつもない個体数が出てきています。吸虫類に感染している魚は、吸虫の幼虫(メタセルカリア)を持った甲殻類か小魚を食べている可能性があります。実際、ブリは肉食で甲殻類なんかをバンバン食べているので、吸虫がたくさんいたのはそれが原因でしょうか。また、ブリは回遊魚ですが、体が小さい頃は沿岸に止まって生活しているので、地域限定の吸虫に感染して、別の地域に回遊しているかもしれません。

名前はわかりませんが、ツバスの腸管の中からでてきた吸虫です。ここに載せる寄生虫の標本はほとんど、色がついているのですが、これは色をつける前のものです。基本的には色はないのですが、卵が黄色く見えています。
同じくツバスから出てきた吸虫です。やっぱり名前がわからないので、今年こそは単生類以外の寄生虫の勉強もしていこうと思います。

今年もいろんな魚を検査して、多くの寄生虫に出会いつつ、美味しく魚を食べられたらいいなと思っています。あと、単生類だけではなく、他の寄生虫の論文も書けるように勉強していきたいです!




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