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舞台は葉緑体

前回は呼吸(異化)の説明をしたので、今回は同化(光合成)の説明です。光合成で行われる大まかな化学反応は、中学校まででしっかり学習します。しかし、高校で学習する光合成のしくみは、びっくりするほど複雑です。そこで、葉緑体の構造からゆっくり説明していきます。では、話に入る前に光合成の反応を確認します。二酸化炭素と水と光でグルコース(ブドウ糖)を作ることが目的ですよね。

二酸化炭素+水→(光エネルギー)→ブドウ糖+酸素+水

液体と膜

光合成の場である葉緑体は、ミトコンドリアと同じく二重膜です。ただ、ミトコンドリアのような外側の膜と内側の膜ではなく、外側の膜と袋状の膜でできています。そして、膜の内側は液体状の成分で満たされています。そして、袋状の膜をチラコイド液体成分をストロマと呼んでいます。

袋状の膜をチラコイド、液体成分をストロマです。

葉緑体といえば緑色なのです。色がついているのは、他の細胞小器官と比べて特殊です。先の記事でもお話ししましたが、細胞は基本的に半透明で色がついていません。では、なぜ葉緑体に色がついているのかというと、光合成が光を使うためです。光(可視光)は大きく7色にわかれており、太陽の光や部屋の照明の光には全色含まれています。それが、ある物に当たった時、光は基本的にその物に吸収されます。しかし、一部吸収されない色があり、その色が反射されて私たちの目に入ってきます。すなわち、植物の葉が緑色に見えるのは、葉緑体が緑色以外の色を吸収して光合成に利用し、緑色は使えないので反射して私たちの目に入ってくるためです。ちなみに、白色の物はほぼ全ての色の光を反射し、黒色の物はほぼ全ての色を吸収しています。学校の制服が、夏は白色、冬は濃い色なのはこれが理由ですよね。

第一膜:チラコイド

チラコイドという膜の表面にはクロロフィルなどの光合成色素というタンパク質が並んでいます。これらのタンパク質に光が当たると光化学系Ⅱという仕組みが働きます。光化学系Ⅱに光があたると活性化して、電子を膜上にあるシトクロムに送ります。電子がなくなると水を分解し、水から電子を取り出すので、この時酸素が発生します。私たちにとって欠かせない酸素は、光合成の排気ガスなんですよね。
シトクロムに電子が通ると、シトクロムの形が変わって水素イオンが通過できるようになります。これによって、チラコイドの中の水素イオンの量が増えます。シトクロムを通り過ぎた電子はある物質に受け取られるのですが、同時に光が当たることで活性化した光化学系Ⅰが、その物質から電子をとります。そして、光化学系Ⅰはその電子を使ってNADPという酵素に水素イオンを結合させる役割をはたします。(これには酸化還元が関係しているのですが、ここでは水素を結合させることで。あと、呼吸のクエン酸回路での水素の移動も同様の理屈です。)
この膜上のタンパク質の働きによって、チラコイド内の水素イオンの量が増えます。すると、水素イオンはチラコイドの外にでようとするのですが、チラコイドの膜やシトクロムを通り抜けることができません。そんな水素イオンの通り道として、ATP合成酵素があり、水素イオンがここを通ってチラコイドの膜の外に出る時にATPが合成されます。呼吸の電子伝達系と一緒ですよね。光合成はブドウ糖を作る反応なのですが、まだグルコースが出てきていませんよね。チラコイドでの役割は、「ブドウ糖合成のために必要なATPと水素を作る過程」になっています。

チラコイドで起こっている現象を簡単に図示するとこんな感じになります。

第二膜:ストロマ

ストロマにはカルビン・ベンソン回路という化学反応系があります。図には、”ホスホグリセリン酸””グリセルアルデヒドリン酸””リブロース二リン酸”の3つの物質をあげていますが、まずはこれを覚えておけば大丈夫です。また、この3つを押さえておくと、カルビン・ベンソン回路を理解できます。ブドウ糖(炭水化物)の原料である炭素と酸素は二酸化炭素から得られます。この二酸化炭素は、リブロース二リン酸がホスホグリセリン酸に変化する過程で取り込まれます。呼吸でブドウ糖からエネルギーを取り出せるのは、ブドウ糖の中にエネルギーがあるからです。つまり、グルコースを作るにあたっては、エネルギーをブドウ糖の中に加えなければなりません。ホスホグリセリン酸からグリセルアルデヒドリン酸に変わる反応で、チラコイドで作られたATPが使われます。その後、グリセルアルデヒドリン酸からリブロース二リン酸に変化していく中で、ブドウ糖が作られます。細かいところは省いていますが、大体こんな感じです。

カルビン・ベンソン回路を図で示すとこんな感じです。

明暗くっきり!?

中学理科では光がないと光合成はできないと学びますが、光はなくても光合成の反応はおきます。というのも、光合成で光が必要なのは最初のチラコイドだけです。最近の教科書ではあまりみかけませんが、こんな実験があります。植物を次のように条件を変えた部屋に移していきます。(1:光なし&二酸化炭素あり, 2:光&二酸化炭素あり. 3:光なし&二酸化炭素あり, 4:光&二酸化炭素あり)それぞれの条件で、植物がどれくらい二酸化炭素を吸い込むか確かめます。

縦軸が二酸化炭素吸収量で、横軸が時間です。

1の部屋では、二酸化炭素を吸い込みません2の部屋でも、二酸化炭素を吸い込みません。これは、1の部屋で光がなかったため二酸化炭素を取り込むカルビン・ベンソン回路に必要なATPや水素がないためです。ある程度時間が経てば、二酸化炭素を吸収するようになるはずですが、その前に光のない3の部屋に移します。しかし、2の部屋に光があったため、ここで作られたATPと水素イオンでカルビン・ベンソン回路が働くため、二酸化炭素を吸収します。ただし、光がないことから2の部屋でできたATPと水素のストックが無くなりしだい、吸収しなくなります。そして、4の部屋で反応が進むのは当たり前ですよね。


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