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【 ジョギング競走 】

 ジョギングの季節である。

 早朝6時、皇居周りを散歩していると、いつも対象的なジョギンガー二人と出くわす。

 一人は髪の長い妙齢の女性。妙に艶めかしいヒップをしており、確信的に自らのヒップラインを強調する食いこんだトランクスを履いている。横を駆け抜けると芳しいフローラルの香りが鼻をくすぐる。放っておくと思わず顔がニヤけてしまうのだが、節度わきまえた男性陣はみな自制によりそれを抑える。かえってそれが見え透き赤面するもしばしばだ。

 もう一人は髭の長い年齢不詳の老け顔のメガネ男性。常に劣化したズタボロの運動着を着ており、死にそうな悲壮感漂う苦渋に満ちた顔して、「ゼーハーゼーハー」ダースベイダーみたいなブレス音を漏らし、メガネ曇らせながら、カラダ斜めに走ってくる。無論、彼の通過後は、男性特有の加齢臭をぎゅっと凝縮したかのような不快な匂いが、ブワっと広がる。放っておくと思わず顔をしかめてしまうのだが、節度わきまえた女性陣はみな自制によりそれを抑える。こちらに関しては多少見抜かれても問題ないらしい。

だのになぜ 歯を食いしばり
君はゆくのか そんなにしてまで

Uta-Net

フォークで歌われる「若者たち」の歌詞を思い出しながら、走る事情を彼に問うてみたくなるが そこまで親しい間柄でもないし なりたいわけでもないので そっと見ている。


 そんな対象的な二人なのだが、当然意気投合するはずもない。しかし同じ皇居周りを走っているので タイミングにより どうしてもバッティングしてしまう非常事態に陥る。

 そして運が良ければ(双方にとっては悪ければ)、その相容れない二人が交わう奇跡のタイミングを目撃することができる。

 別段ライバル視しているわけでもないだろうが互いに意識し合ってはいるようで、後走の「男性ズタボロランナー」が追い抜かすかどうか逡巡しつつジリジリと距離を縮めていく。しかし前走の「女性フェロモンランナー」が背後の敵に気付くと、「追い抜かれてなるものか」と急にピッチを上げ始める。そしてしばらく熾烈なデッドヒートが続くのである。

 臭いんだか イイ匂いなんだか


 にしても世界で多様性が叫ばれるなかランナーひとつをとっても 人間こうまで価値意識が違うものかと 彼らを見ていていつも考えさせられる。

 コントラストが 異様に凄まじく 共生って本当に難しい問題なのだなぁ と目くそ鼻くそを笑う ではないが とても他人事と思えず オモロ哀しくなるのであった。

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