見出し画像

企画盤再考

ヒップホップとロックのコラボレーションを実現させた企画盤『Judgment Night』(1993年作)は、後に爆発的に流行化するミクスチャー・ロックの土台を作り、ヒップホップ/ロックの最良なクロスオーバーを生み出せた奇跡的な作品として語り継がれている名盤だ。収録曲はどれも素晴らしいが、特にHelmet & House of Pain「Just Another Victim」やBiohazard & Onyx「Judgment Night」は双方のコアなサウンド/スタイルがぶつかり合って生まれた名曲で、この曲を生み出しただけでも『Judgment Night』は価値がある。

『Judgment Night』の成功によって異なったジャンルを掛け合わせた企画盤がトレンドとなり、1997年にリリースされた『Spawn: The Album』はロック~メタルとテクノ~ブレイクビーツの融合をテーマにSlayer & Atari Teenage Riot、The Prodigy & Tom Morello、Orbital & Kirk Hammett、 Henry Rollins & Goldieなどのコラボレーション曲を収録。デジロックやビックビートのムーブメントを象徴する作品の一つとして『Spawn: The Album』は大きなインパクトと影響を与えた。

個人的にもこういった企画盤が好きで昔からよく聴いているのだが、商業的なものも含め、制作側の意図が完璧に反映されたり、アーティスト側が伝えたかったことが評価されることは少ないように思える。だが、そんな企画盤の中でも大きな可能性を秘めている見逃せないものは多数あるので、個人的に気に入っている良質な企画盤を選んで紹介してみよう。

V.A.『Tektonics』(2000)

アンダーグラウンドな視点からオルタナティブ・ヒップホップを展開し続けたレーベルOM Recordsが発表したターンテーブリストとブレイクビーツ/ドラムンベース・プロデューサーをコラボレーションさせたコンピレーション。
Photek x Scratch Perverts、Wagon Christ x Rob Swift、Howie B x DJ Apolloといったスキルとセンスと世界観が整っている凄腕職人達の素晴らしい組手が体感できる。自身の技量を見せつけるだけのエゴイスティックなスクラッチではなく、トラックに寄り添う楽器としてのスクラッチが披露され、両者の良さが重なり合っている。ターンテーブリズムとドラムンベースの深い関係性が形となった良質な企画盤だ。

V.A.『Loud Rocks』(2000)

Wu-Tang Clan、Xzibit、M.O.P.が所属する名門ヒップホップ・レーベルLoudが企画したラッパーとロック/ミクスチャーバンドのコラボレーション・アルバム。Loudからリリースされたヒップホップ・クラシックをロック/ミクスチャーバンドと共に再録するという形となっており、カバーアルバム的な内容といえる。
Static-X & Dead Prez「Hip Hop」、Endo & Xzibit「Los Angeles Times」、Sick of It All & Mobb Deep「Survival of the Fittest」などのバンドアレンジによる再録とCrazy Town「Only When I'm Drunk」やEverlast「Shook Ones, Part II」といったカバーを収録。原曲を超えるのは難しいが、全曲に箇所箇所で光るものがある。Incubus & Big Pun「Still Not a Player」とSystem of a Down & RZA「Shame」は素晴らしいアレンジとボーカルにより、原曲に並ぶ良さがある。日本盤にはYKZ & The Beatnuts「Reign of the Tec 2000」が追加収録され、CDでシングルカットもされた。

V.A.『Soul Scramble: Tribute Collaboration Album』(2001)

Sony Musicによるエンターテイメント・コラボレーション・プロジェクトTRIBUTE linkが発表したコンピレーションCD。Pushim feat DJ Premier、Dev Large feat 椎名純平、Makoto feat Lori Fineなど、ダンスミュージックをプッシュしていたSony Musicらしい全方位に向けたゴージャスなラインナップが揃っている。
Satoshi Tomiie feat Chara「Atari」、Hiroshi Fujiwara + Shinichi Osawa feat Crystal Kay「Lost Child」はタイアップもあって発売当時はTVで頻繁に流れていたので、覚えている人も少なくないかもしれない。個人的には、Suiken feat NUMB「Think One (Think Twice) (Numb Remix)」のレフトフィールドな鬼アブストラクト・ヒップホップを推したい。Suikenのアルバムに収録されているバージョンよりも聴きやすく、NUMBの重工な音世界が広がっている。こういった景気の良い企画版がまたメジャーレーベルから出てくるといいのだが。

V.A.『Blade II: The Soundtrack』(2002)

アシッド・テクノが鳴り響く仲、吸血鬼達が血のシャワーを浴びる「Blood Rave」シーンでダンスミュージック好きにも知られているホラー映画『Blade』の続編サウンドトラックは、ドラムンベース/テクノ系アーティストとヒップホップ・アーティストをコラボレーションさせている。
MVも作られたRoni Size & Cypress Hill「Child of the Wild West」、ルーツに根付いたコンシャスな姿勢が共鳴したMassive Attack & Mos Def「I Against Iは12"レコードがリリースされ、当時アンダーグラウンドなクラブでもプレイされていた。Dub Pistols, Busta Rhymes & Silkk the Shocker「The One」やDanny Saber, Fabolous & Jadakiss「We Be Like This」など、何か新しいものが産まれそうではあるが、微妙な距離感で止まっているものには謎の心地よい違和感がある。ディープ・ハウスやテクノなどのダンスミュージックを取り入れている昨今のヒップホップを先取りしている内容であり、未だこの企画盤には大きな可能性が残っていると思う。


Craig Connor 『Manhunt Remixes』(2003)

Rockstar Gamesから発売されたビデオ・ゲーム『MANHUNT』のテーマソングをAphex TwinのレーベルであるRephlexに所属していたアーティスト達がリミックスしたリミックス・アルバム。Aleksi Perälä(Ovuca)、Bogdan Raczynski、Cylob、D'Arcangelo、EDMX(DMX Krew)、Soundmurderer、The Bugなどが参加している。Rephlexはブリープ・テクノとアシッド・ハウスを母体としたブレインダンスというスタイルを提示し、メロディアスで毒っ気のあるユニークなブレインダンスの名盤を多数残している。Rephlexのブレインダンスの源流にはビデオゲームからの影響もかなり大きく、今作に収録されている曲を聴くとそれが実感できる。

V.A.『Def Jamaica』(2003)

Def Jam所属ラッパーとジャマイカのレゲエ・ディージェイ/シンガーをコラボレーションさせたコンピレーション。今作は自分がダンスホール・レゲエにのめり込んでいた時期にリリースされた作品なのもあり、特に個人的な思い入れが強い。
Capone -N- Noreaga, Wayne Wonder & Lexxus「Anything Goes」やMethod Man & Redman & Damian "Jr. Gong" Marley「Lyrical .44」はヒップホップ~ダンスホール双方のDJがプレイしていたし、いつもとは違ったGFKの雰囲気が味わい部会Ghostface Killah & Elephant Man「Girls Callin'」など、良質なコラボレーションを作り上げており、ヒップホップ/レゲエのクロスオーバーを高いレベルで実現できていたのではないだろうか。少なくとも、当時ヒップホップとダンスホールに夢中だったキッズの自分には最高のコンピレーションであった。ダンスホール・リディムのうえでレゲエ・ネタのみでスクラッチしたThe X-Ecutioners & Delano Thomas「Nah Mean」もターンテーブリズム・クラシックの一つとしてオススメしておきたい。

Method Of Defiance『Inamorata』(2007)

ジャズを主体にドラムンベース、ダブ、メタル、ワールドミュージックをバンド形態でミックスするBill LaswellによるMethod Of Defianceのアルバム。今作はダーク/ハードなドラムンベースをクリエイトしているプロデューサーを招いて作られており、フリージャズの狂気性をドラムンベースを通じて表現しているようだ。SPL x John Zorn x Masada String Trio、Amit x 近藤等則 x Buckethead、Paradox x Herbie Hancocというドラムンベースとジャズ界の達人達のカオスに振り切ったセッションが曲となって収められている。ダーク/ハード・ドラムンベースとジャズの融合を果たした名盤だ。

V.A.『Vocals And Versions Vol. 1』(2009)

グライムとダブステップにダンスホール・レゲエの要素を強く反映させたトラックを多数リリースしていたSenseless Recordsのコンピレーション。
Senseless Recordsの看板アーティストであったSarantisをメインにSasquatchやDeVilleといったプロデューサーとWarrior Queen、Foreign Beggars、Bunnington Judah、YT、Sick Sense Crewなどのレゲエ・ディージェイやグライムMCがコラボレーションしている。続編『Vocals And Versions Vol. 2』もほとんど同時期に発表されていた。UKベースミュージックにおけるダンスホール・レゲエの重要度をパッケージングしており、Cotti『Sumting New』と共にオススメしたい作品である。

V.A.『キラキラ♡魔女ッ娘♡Cluv』(2010)

キラキラ・魔女ッ娘・CLUV / 田代さやか × 真保☆タイディスコ, バニラビーンズ × Sexy-Synthesizer, 里見茜 × BOOTSY COLLINS, バニラビーンズ × 石井マサユキ(TICA), 宮地真緒 × PLASTIC OPERATOR, NO COLOR ×Lightaman Jr, 滝口ミラ × Sexy-Synthesizer, 鈴木凛 × cherryboy function, 真凛 × 真保☆タイディスコ, 篠原ともえ × CHRISTOPHER JUST, 杉本有美 × bymski, 横田美紀 × Electrocute, 加護亜依 × Mr.Hardgroove(Public Enemy), 杏さゆり × bymski, 杏さゆり × Mr.Hardgroove(Public Enemy), 杉本有美 × 矢野博康, 喜屋武ちあき × dj scotch egg, 朝倉えりか × Latin Quarter(Pan Pacific Playa), 山本梓 × Lightaman Jr, 田代さやか × dj scotch egg, 真凛 × Paolo Scotti, 篠原ともえ, 加護亜依 × Paolo Scotti, 喜屋武ちあき × Carlos Aoki(Pan Pacific Playa), 小嶺麗奈 × BOOTSY COLLINS, La Pafait☆Princess × B-Club, 磯山さやか × STRINGS BURN(Pan Pacific Playa), chiaki × Electrocute on OTOTOY Music Store 「魔法使いチャッピー」など全30曲の試聴・ダウンロード:ハイレゾ音楽配信と音楽記事はOTOTOYで! 地球史に残る永遠の名 ototoy.jp

里見茜 × BOOTSY COLLINS、加護亜依 × Mr.Hardgroove(Public Enemy)、田代さやか × DJ Scotch Egg、朝倉えりか × Latin Quarterといった異色なアイドルとダンスミュージック系クリエイターによるカバーアルバム。「ラムのラブソング」「魔女っ子メグちゃん」「見知らぬ国のトリッパー」「ひみつのアッコちゃん」といったアニメソングをカバーしている。2010年代に巻き起こるアイドルと異ジャンルの異種格闘技合戦を予見していたような作品。

V.A.『Greensleeves Dubstep』(2011)

イギリスの老舗名門レゲエ・レーベルGreensleevesの音源をダブステップ系プロデューサー達がリミックス/リメイクした企画。
Pampidoo「Synthesizer Voice(GOTH-TRAD Remix)」、Barrington Levy「Here I Come (Kromestar Remix)」、Yellowman「Zungguzugguguzungguzeng (Horsepower Productions Remix)」からDing Dong「Badman Forward Bad Man Pull Up (The Bug Feat. Flowdan Remix)」、Busy Signal & Mavado「Badman Place (Coki / Digital Mystikz Remix)」といった新旧のレゲエ・クラシックをダブステップ化。さらに、2007年にブートレグでリリースされ当時ヘヴィープレイされていたMavado「Weh Dem A Do (Coki / Digital Mystikz Remix)」がオフィシャルで収録。2011年前後にレゲエ・サイドからダブステップに接近した企画盤が幾つか作られたが、今作はその中でも最上位の出来栄えだといえる。

V.A.『Scientist Launches Dubstep Into Outer Space』(2011)

DJ Pinch主宰レーベルTectonic Recordingsから発表されたジャマイカのダブ・エンジニア/プロデューサーScientistがベースミュージック・アーティスト達の楽曲をダブ化させた企画盤。
Pinch & Emika、Shackleton、Kind Midas Sound、Kode 9 & Spaceape、Mala (Digital Mystikz)などのオリジナル・トラックとそれらをScientistがダブミックスした2部構成となっており、『Greensleeves Dubstep』とは逆の内容となっている。Scientistによる解体によってダブステップのトライバルな側面が強化されて原始的なビート・ミュージックとして生まれ変わっている曲や、デュレイとリバーブの魔術によるサイケデリアが広がりまったく違った表情となった曲など、非常に多くの気づきと発見がある。Armour(Roly Porter)の「The Long Way」のダブ・バージョンは80'sポスト・パンク/インダストリアルな雰囲気もあり、ドローン・メタルにもシンクロする部分がある。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?