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特別支援学校の生徒を新卒採用したい:現場実習編(知的障害・発達障害のある社員のためのお仕事ライフハック)~ 総務からはじめる、障害者雇用ノウハウ ~

はじめに(チームより)

フローレンスは、親子を取り巻く社会課題の解決を目指しているNPOで、現在、約700名が所属しています。多様なメンバーの「働く」を支えているのがバックオフィス業務を主に担っている働き方革命事業部、通称「ハタカク」です。
ハタカクは人事、経理、法務、総務、といった業務で構成されていて、障害者雇用チームも含まれています。フローレンスの事業を裏で支えるハタカクメンバーの業務や仕事への思いをnoteに投稿しています。


認定NPO法人フローレンスの総務関連チームで障害者雇用のスタッフのサポートを担当しているジョブコーチ*1の和田です。自己紹介はこちら>>

知的障害・発達障害のある社員が持つ悩みに対して、本人やサポーターが今日から取り入れられる「ちょっとした、お仕事ライフハック」をご紹介しています。記事執筆の背景>>


▼本日のお悩み
「特別支援学校を卒業する生徒を新卒採用したいと思い、現場実習を行いたいのですが、何からしたらよいでしょうか」

新卒採用での障害者雇用を検討する場合、「特別支援学校」を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。
現在、特別支援学校は、知的障害、聴覚障害、視覚障害、肢体不自由の障害、身体虚弱や病弱者などに分かれており、幼稚部から高等部が設けられています。
「特別支援学校の生徒を新卒採用したい:企業担当者向け学校見学会編」では東京都立特別支援学校(知的障害)高等部の特徴や、企業担当者向け学校見学会についてご紹介をしました。

ライフハック①現場実習実施までの流れを知ろう

「来週から1週間、実習に来てもらえますか?」ではありません。

「特別支援学校の生徒を新卒採用したい:企業担当者向け学校見学会編」から進み、「さて、うちの会社(団体)でも、生徒を迎えて現場実習を行いたい」と考えている方もいるでしょう。

特別支援学校の現場実習は「来週から1週間来てもらえますか?」と電話1本で進むわけではありません。

下記のようにいくつかステップがあります。

■特別支援学校の現場実習実施までの流れ(例)

①学校の教員による企業訪問や相談
現場実習を受け入れたい旨を学校に相談します。企業(団体)双方の準備が整い次第、実習受け入れの2ヶ月前程度を目安に、企業(団体)と担任の先生や就職指導担当の先生との事前打ち合わせの場を設けます。

②職務設計(本人に適した職務の開発など)
企業側は実習生に行ってもらう業務をピックアップします。この時点では詳細な業務内容でなく「オフィス清掃」「印刷作業」「PC入力」等ざっくりとした内容でかまいません。

③対象となる生徒と事前面談
対象となる生徒が決まったら、生徒と先生、企業(団体)担当者と3者面談(事前の打ち合わせ)をして、業務内容や実習日程等を決めます。

④現場実習
現場実習中は業務の指導をしつつ、生徒が実習日誌に書いたコメントに返信を行うなどの作業をします。

⑤企業による生徒の評価
実習後は、企業(団体)内で生徒の評価を行い、学校にフィードバックします。

⑥評価を受けて進路面談/事後指導への反映
企業からのフィードバックを元に、先生は生徒へ指導をしてくれます。

1、2、3年生の春ぐらいまでは、複数社で実習を行いますが、3年生の夏以降では、就職に向けてのステップに移っていきます。
それまでに実習した企業の中から、生徒と企業(団体)の双方が「あの会社に行きたい、あの生徒に来てもらいたい」とマッチングした企業(団体)に再度実習に行き、採用選考(面接)を行います。
※3年生の夏以降にはじめて実習した会社に就職する場合もあります。

■実習期間(例)

(例1)
2年生の9月(3日間)A社
3年生の5月(1週間)B社
3年生の7月(2週間)A社

(例2)
2年生の9月(3日間)A社
3年生の5月(1週間)B社

ライフハック②現場実習の実習内容を決めよう

実習はリアルな作業内容で組もう

では、実習が決まったら、どのような仕事を準備すれば良いのでしょうか。できれば、実際に採用したらやってもらいたい仕事を準備しましょう。

実習生用に準備する新しい業務だと、実際に採用した時に生徒は「実習の時の仕事と違う。こんなに大変な仕事だと思わなかった」となりますし、企業(団体)側も「実習では上手く出来ていたのに…」とミスマッチになりがちです。

もちろん、実習期間の短い中で、専門ツールの使い方を覚えたりするのは難しいかもしれませんし、ミスを起こしがちかもしれませんが、時間をかけ、実際の作業をやってもらうことが双方のギャップを埋めることに繋がります。

■特別支援学校 現場実習 スケジュール例

こちらは、フローレンスで実際に現場実習を行った生徒の業務スケジュールです。

郵便仕分けなどの総務業務や、部署から依頼された切り出し作業の発送業務や清掃業務など、全て、先輩の障害者雇用スタッフと同じ作業内容です。採用後も同じようなスケジュールで働くことになるので「イメージと違った」となりにくいと感じています。

また、実習生への業務のレクチャーも、障害者雇用の先輩スタッフにお願いしています。入社後は私のようなサポートスタッフよりも先輩スタッフに質問することが多くなるため、先輩スタッフと生徒が関係性を構築できるかも、実習での重要な見極めポイントです。

ライフハック③現場実習から内定後実習までの流れ

■特別支援学校の現場実習から採用内定までの流れ(例)

現場実習を終えたら、求人票を出すことになります。一般的に7月頃に求人票を作成し、9月頃初旬に生徒から求人への応募があります。9月中旬頃から採用選考(面接)を組み、結果は1週間程度でお知らせします。

もっと詳しく特別支援学校について知りたい方は、初めての障害者雇用 特別支援学校編をご覧ください

最後に

就職しないかもしれない企業に実習をする(それも1社だけでなく、何社も、そして1社に何度も実習にする)という特別支援学校の就職支援の方法に、はじめは驚きました。
しかし、実習生の受け入れを実際に行ってみて、何度も実習の機会を設けることは、生徒の良さや特性を知ることができるという企業側のメリット、また、企業(団体)や仕事のリアルな情報に触れることができるという学校・生徒側のメリットの双方がある優れた仕組みであることを実感しています。

これからも、支援学校との連携や実習受け入れによる丁寧なコミュニケーションを重ねることが、就職後の安定した就労に繋がることを願っています。

*1「ジョブコーチ」 企業に在籍し、同じ企業に雇用されている障害のある労働者が職場適応できるよう様々な支援を行う人を、企業在籍型ジョブコーチといいます。

執筆の背景

障害者雇用関連の情報は、採用・育成の事例やノウハウばかりで、採用した障害者雇用の社員に「どのような業務を、どうやってもらうのか」のノウハウが足りていません。

そこで、実務ノウハウや、障害者雇用チームの立ち上げ経緯などを公開することで、障害のある社員自身や総務担当者が、はじめの一歩を踏み出せるシリーズを立ち上げました

▼過去記事一覧はこちら

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