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“あえて”モノクロになる、現代の映画たち

先日、金曜ロードショーで放映された『ローマの休日』。
実は本編を視聴したのは初めてでした。破天荒に見えて、気品に満ちあふれたアン王女を演じ切ったオードリー・ヘプバーンからずっと目が離せない118分。少し寂しさが残るエンドの塩梅も個人的にとても好きで……名作って本当〜に名作!!と中身のない感想を思わず漏らしてしまいました。
モノクロ映画が金ロー枠で放映されるのは珍しい気がしますが、ド定番の名作は逆に観る機会を逃し続けていることが多いので、これからも色々流してほしいなあ。

ちなみにローマの休日が製作された1954年では、映画の主流は既にカラーでした。昔は特に撮影用のカラーフィルムが高額だったため、ローマの休日は予算の都合でモノクロになったそう。

現代の映画の主流は言うまでもなくフルカラーですが、最近偶然にも、直近に制作されたモノクロ映画を連続で観る機会がありました。
一般的に、モノクロの映像は「時代感」を強く印象付けるものであると思いますが、現代作られるモノクロ映画は「モノクロにしたい、すべき理由」があって作られるので、作品ごとに感じる効果や印象も大きく異なってくることに気づきました。

せっかくなので観た作品を少し並べつつ、モノクロと言っても一括りに出来ないこだわりを紹介できればと思います。


C'MON C'MON (カモン カモン)

NYでラジオジャーナリストとして1人で暮らすジョニーは、妹から頼まれ、9歳の甥・ジェシーの面倒を数日間みることに。LAの妹の家で突然始まった共同生活は、戸惑いの連続。好奇心旺盛なジェシーは、ジョニーのぎこちない兄妹関係やいまだ独身でいる理由、自分の父親の病気に関する疑問をストレートに投げかけ、ジョニーを困らせる一方で、ジョニーの仕事や録音機材に興味を示し、二人は次第に距離を縮めていく。仕事のためNYに戻ることになったジョニーは、ジェシーを連れて行くことを決めるが…

公式サイトより https://happinet-phantom.com/cmoncmon/

2022年4月公開。『20センチュリー・ウーマン』『人生はビギナーズ』などを手がけたマイク・ミルズ監督&『ジョーカー』の演技が記憶に残るホアキン・フェニックスが主演ということで、これは観に行かないと…!と劇場に走りました。
大人も子供も「一人の人間」であること。大事なのは個人同士が、きちんとお互いの声に耳を傾けること。ついつい大人/子供の立場を優先してしまいがちな日々の生活にハッと気づきを与えてくれるような、優しい映画です。

この作品がモノクロになった大きな理由は、「フィクション性の提示」だと監督は語っています。
子供の面倒を見る、お風呂に入れる、読み聞かせをするなど…私たち視聴者と限りなく近い生活を本編で描いていることから、私たちがカラーで見ている世界と変えて「物語(映画)」に導く意図があっての選択だったそうです。

画面としては中間層のトーンが細かく再現され少し重みのある印象ですが、シーンによってはモノクロ映像の上にさりげないマゼンタの色味が足してある場面もあり、モノクロベースでありながらも本編の温かみを感じられる工夫がされていると感じました。

ハンドブックサイズのパンフレット。ワンシーンが印刷された製本テープが可愛い…!


ROMA

政治的混乱に揺れる1970年代のメキシコ。ひとりの家政婦と雇い主一家の関係を、アカデミー賞受賞監督アルフォンソ・キュアロンが鮮やかに、かつ感情豊かに描く。

Netflix公式サイトより

2019年3月にNetflixで公開。動画配信サービス主体という公開形態にも関わらず、同年のアカデミー賞で撮影賞、国際長編映画賞、監督賞をあざやかに受賞しました。日本でもいくつかの劇場で公開され、大きなスクリーンで観るROMAはさぞ美しかったろうな…と羨ましく思います。(私はNetflixで視聴しました)

主人公の家政婦クレオは、メキシコ人である監督のアルフォンソ・キュアロンが幼少期の時に世話をしてもらっていた女性がモデルとのこと。決して感情豊かに見えるタイプではないクレオと雇い主一家の絆、そして女性の生き様が美しく描かれています。
掃除のための水撒きをしたり、飲み水を汲んだり、海辺にいったりと、本作では生活には欠かせない「水」を本作では多く描写しており、その水面や飛沫の美しさが、モノクロにする事によってコントラストが際立ち、さらに魅力的に写っているのだと感じました。メキシコの強い日の光も美しいです。

詳しくはないのですが、本作はかなり良い撮影機材を使用しているそうで。
撮影やデジタルの技術が進歩したからこそモノクロを選択できたという、まさに現代のモノクロ映画だなと思います。


Lighthouse (※R15)

1890年代、ニューイングランドの孤島に2人の灯台守がやって来る。 彼らにはこれから4週間に渡って、灯台と島の管理を行う仕事が任されていた。 だが、年かさのベテラン、トーマス・ウェイクと未経験の若者イーフレイム・ウィンズローは、そりが合わずに初日から衝突を繰り返す。 険悪な雰囲気の中、やってきた嵐のせいで2人は島に孤立状態になってしまう。

公式サイトより https://transformer.co.jp/m/thelighthouse/

最後に紹介するのがこちら。2021年7月公開、“人間の狂気と恐怖”の根源に迫る、映画史に残る傑作スリラーとうたわれているライトハウスです。この春Amazon primeでの配信が開始されました。
孤島に取り残された2人の灯台守。食料は尽きていき、残るは酒だけ…という状況の中でどんどん狂っていく様を描いた作品。灯台の音の不安効果がすごい。怪演。
予告にはキツイ場面が写っていませんが、R15なのでグロが苦手な方は視聴にお気をつけください。

コントラストが強めのモノクロ画面は、本作のキーになる灯台の光を強く印象付けると同時に、閉じ込められた閉塞感や不安さも感じさせます。物語の展開上グロかったりゲロかったりなシーンもあるのですが、そんな刺激の強い描写はモノクロにすることで多少マイルドに見える印象で、モノクロであることでギリギリ視聴を継続できるという狙いがあるのでは…?と思いました。


さいごに

今回は動画配信サービスで視聴した映画が多くなりましたが、C'MON C'MONと同時期に上映されていた『パリ13区』、春頃は2022年アカデミー賞脚本賞を受賞した『ベルファスト』など、劇場で上映されているような新しい映画ラインナップに1つはモノクロ作品が入っていて、モノクロ映画の盛り上がりを勝手に感じています。この2作品は気になりつつも劇場に行けずじまいだったので、どこかのタイミングで観られるといいな。

モノクロの使われ方や印象の差を知るのも楽しい、そしてモノクロだからこそ感じる鮮やかさも魅力!これからも、気になった作品は色々観ていきたいなと思います。

それでは、今回はここまで。




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