どうしてもハゲてる

 『どうしても生きてる』という朝井リョウの短編集を読んだ。『何者』などの他の作品にも共通しているが、やはり朝井リョウ氏は人間の感情の機微を描くのが上手い。誰もが心の内に抱えているモヤモヤ感のような漠然としたものを、はっきりと言語化する能力に長けている。


 数ヶ月前に『ハリーポッターと呪いの子』の舞台を観に行った時、第一幕と第二幕の間に休憩時間があったのだが、そこで第一幕中、舞台客席前方でずっと帽子を被っていたおじさんがスタッフの人に「上演中は帽子を脱いでご鑑賞ください」と注意されていた。
 おじさんは家族連れで妻と小学生ぐらいの息子と一緒に来ていたようだが、スタッフに注意されて仕方なしという感じで帽子を脱いだ。

 おもっくそハゲていた。

 それも完全なスキンヘッドというわけではなく、円形脱毛的な、瀕死の毛髪が最後の意地を振り絞って頭皮の上に乗っかってるような、どちらかといえば直視できない類のハゲ方をしていた。
 あ、なるほどね〜ハゲ隠したかったのね〜、という同情ともつかぬなんともいえない雰囲気がそのおじさんの周囲を包み込んだ。
 第二幕中、最初のあたりは舞台の内容よりもおじさんのハゲ頭の方が気になってしまった。

 朝井リョウ氏であればこの時のなんともいえないモヤモヤした感情を上手く言語化出来るのだろうな、と思った。


 話は変わるが、最近私生活の方で色々あって、というか物理的にはあんまり色々起きてないのだが精神的に鬱屈とし過ぎて、異性に対する興味というものがほとんどなくなってしまった(ただしFANZAの新作はしっかりチェックする)。というかそもそも元から少ない人間そのものに対する興味を喪失してしまった。

 今現在住んでいる家には約16年ぐらいいるのだが、先週初めて隣に住んでいる家族の苗字を知った。そしてもう忘れた。それぐらい人間に興味がない(一応補足しておくがニヒリスト気取りではない)。

 日々の中で感情が動かされる時といえば、最近ではdisney+のオリジナルドラマ『マンダロリアン』を観ている時ぐらいだ。グローグーが可愛くてディン・ジャリンがカッコいい、それだけで十分なのだ。This is the way.

 今日は気分転換にAmazon Prime Videoで『ブラック・フォン』という映画を観た。ホラー系のジャンルだが、思ったより怖くなくて拍子抜けした。
 以前の自分であればもう少し怖がれたのかもしれないが、もはやホラー映画をホラーとして楽しめない領域まで精神が病んできてしまっているのかもしれない(ただしFANZAの新作はしっかりチェックする)。まあもともと『ブラック・フォン』はホラーというよりジュブナイル寄りの映画なのでさもありなん、なのかもしれないが。

 上述した『どうしても生きてる』では、このように鬱屈とした感情を抱えながら生き抜く人間たちの姿が極めて現実的に描写されている(うつ状態になりながらもFANZAの新作を抜かりなくチェックするようなタイプの倒錯人間は登場しないが)。
 それは同じく鬱屈とした感情を抱えながら生きている人間にとって、劇的に回復する薬とは成り得ないまでも、それでもこの不条理で救いのない現実を生きていくしかないのだという示唆を与えてくれる。

 しかしやはり本音を言えば『マンダロリアン』のように見慣れぬ地を放浪してアドベンチャラスに生活したい。『アンチャーテッド』の主人公のようにトレジャーハンターみたいなライフを送るのも良い。

 せっかくの晴天に恵まれた日曜日に一歩も外に出ず、精神医学の本を読んだり転職サイトを血眼で閲覧したり、あまりにも非生産的なnote記事を書いていたりすると人間は非日常的な冒険を渇望するようになる。


This is the way(これが我ら独身異常子供部屋おじさんの道).


おわり


この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?