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【映画批評】「ジョーカー」と「絶望死」【コラム】

「世界サブカルチャー史」というNHKのドキュメンタリーを観て、興味惹かれて今更ながらホアキン•フェニックスの「ジョーカー」を観たが、先日読んだ「絶望死」と相通ずるものを感じた。



歴史家アーノルド・トインビーの言葉「文明は他者に殺されるのではなく、自殺する」が引用されている本書だが、アメリカ社会の深刻な分断と病理について、忌憚なく書かれている。

「アメリカでは毎年、約6万8000人が薬物の過剰摂取で命を落とし8万8000人がアルコールの乱用で死亡し、4万7000人が自殺する」。薬物、アルコールの過剰摂取による死亡、自殺を「絶望死」と呼ぶ。

アメリカの金持ち3人の資産額が、下位50%全員の総資産額と並ぶという。

貧乏人は薬物とアルコールに溺れ、無茶な自動車の運転やバイクによる暴走であっさりと死んでしまう。またアメリカの子供たちの8人に1人が物質使用障害(アル中やヤク中の医学的呼称)のある親と一緒に暮らしている。アメリカ人の7人に1人が貧困線を下回る生活を送っている。

現在のアメリカの不平等は19世紀の南北戦争直後よりも拡大していると明らかになっている。

資本主義は富を分配する方法を知らず、社会主義者は富を大きくする方法を知らない。資本主義を疑問視する声はとくに若いアメリカ人に共通している。現在は社会主義により共鳴する若者が増えている。これはアメリカに限らず先進国に共通に見られる現象だ。

現在のアメリカは労働者層の自己破壊的なふるまいを嘆く傾向にある。労働者階級の多数の生徒が高校を中退し、未婚のまま出産しており、これが貧困のパスポートとなっている。伝統的な3つのルール、高校を卒業し、フルタイムの仕事に就き、結婚してから子供を持つ、に従う人々のうち、貧困生活を送っているのはわずか2%だった。つまり、「成功の順序」と呼ばれるこのルールを実行すれば総じて貧困は避けられるーーーー

↑は日本社会でもある程度当てはまるかも。

逆に上の3つのルールを一つも守っていない人の79%は貧困の中で暮らしていることがわかっている。

末期ソビエトが似た状態にあったことも示唆されている。男たちは昼前にはウォッカに手を伸ばし、午後には霞の中にいた。工場は無断欠勤し、政府はそれを無視した。ロシアにおける国民の平均寿命の短縮は体制崩壊のサインだった。

まさに今アメリカで似た現象が起こっている。ジョーカーはまさに負け、落ちぶれ、薬物に耽溺し、車を暴走させる早死にの労働者階級の象徴として造形されている。

彼が銃を持ち実力行使の末にエリートや金持ちを殺し、クズどもの英雄となって祭り上げられる、、、、そんな妄想をする負け犬の姿を情緒たっぷりに描いた、、なんともはや、敗者にとっては共感するしかない映画である。

それでいてとても悲しい。無言になる映画だ。

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