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源氏、読むしか!(仮)#0

「源氏、読むしか!(仮)」は、古典の素養がない二人が『源氏物語』の完読を目指す企画です。「光る君へ」の話をしたりマンガの話をしたりと脱線しつつ、ゆるゆるとお喋りしていきます。月二回更新予定。

登場人物紹介

高橋
東京在住。往来堂書店の文芸・文庫・海外文学・フードカルチャー棚担当。

小腹(こばら。以下「ばら」)
京都在住。イラスト・デザイン業。
最近BLを2000冊読みました。『のみものZINE: なくてもいいもの』秋に新刊が出ます!


(収録日:2024年1月12日)

ふたりの『源氏』現在地

高橋
まず現時点でお互いどれくらい知識があるのか、把握しておきたいね。

ばら
高校の古典の授業でやったくらいかなあ。

高橋
同じく。でももうほとんど覚えてないね。光源氏とあと何人かの人物名くらい。あと書き出しの更衣、女御、とか。

ばら
この間、実家帰って教科書とか持ってきたんだけど、3帖くらいはがっつり授業受けてたみたい。抜粋だけど。藤壺の宮の入内、夕顔の死、明石の君との出会い…そのへんをやってたみたいだ。でも本当に覚えてなかったわ。当時も、古文を読むための知識くらいしか覚えようとしてなかったし、受験のための勉強って感じだったね。

高橋
うちは附属校で受験はなかったから、古文の授業ではやらなかった気がする。たしか高三の時の選択授業でやったんだったかな。週1コマで全15回とか。成績つけるのが甘めってことで人気の授業だったんだけど、半分以上は聞いてないか寝てるかで、興味のある数人だけが熱心に聴いてるって感じだった。自分は熱心なほうの生徒だったと思うんだけど、びっくりするほど何も覚えてない。

ばら
(笑)

高橋
でもそこで自分の『源氏物語』観が形成された気がする。人物造形の深さ・多様さとか、いろんな読みに耐えうる物語の強さとか。だからいつかはちゃんと読みたいと思っていたんだけど、日々書店員として働いてるとなかなか古典に手をつけられなくて。だからこうして人を巻き込んで一緒に読んでいけるのはありがたい。
ばらちゃんはマンガをたくさん読む人だけど、『あさきゆめみし』とかは読んでなかった?

ばら
お母さんの実家にはあったんだけど、ぱらぱら眺めてたくらいで読んでないんだよね。「ド級のイケメンが色んな女性と関係を持つ」ということだけは子どもながらに知ってて、自分好みの話じゃないと思っていて…。正直、今でも好みじゃないだろうなって予想してるけど。

高橋
一年くらいかけてなんとか最後まで読み通せたらいいね。


どの訳文で読むか

高橋
原文ですらすら読めたらいいけど、我々にそんな技能はあるわけないので、必然的に現代語訳されたものを読むことになるね。ばらちゃんは文庫化真っ只中の角田訳で読むんだっけ?

ばら
そう、角田光代訳。いま3巻まで刊行されていて、全8巻だね。大河ドラマもあるし、さすがに今年の早めの段階で文庫版も完結するでしょう、と。お値段的にもありがたい。そっちは?

高橋
左右社のアーサー・ウェイリー版。一昨年くらいに買ったんだけどね、いちおう100ページくらいは読んだ形跡がある。

ばら
お、表紙がキレイなやつだ。これは、最後まで持ってるの?

高橋
持ってる持ってる。

ばら
すげーな…鈍器じゃん!

高橋
そう、鈍器四つあるよ。ずーっと枕元にあって。

ばら
変質者入ってきたら、さっと手にとって……

高橋
攻撃にも防御にも使えるからね。

ばら
(笑)

高橋
ウェイリー版は、いわゆる〈戻し訳〉なんだよね。

ばら
〈戻し訳〉って?

高橋
二つ以上の言語を介した翻訳、つまり翻訳の翻訳は〈重訳〉と呼ばれるけれど、これはアーサー・ウェイリーが英訳したものを日本語に訳しなおしたもの。ウェイリーの翻訳のクセがそのまま訳文にも反映されていて、全体的にエキゾチックな雰囲気だね。「光君」が「シャイニング・プリンス」になってたり、「帝」が「エンペラー」だったり。カタカナの本文に漢字のルビが振ってあったりね。

ばら
へええ、おもしろい。

高橋
あと、注釈がとても丁寧で助かるね。そもそもが海外の読者に向けた翻訳だから、前提知識がなくても問題なく読めるようになってる。現代の日本人ではピンとこないような箇所とかも、こぼさず明瞭に説明してくれているからありがたいね。

ばら
ニッチだけど新しい解釈とか生まれそうだね。ちなみになんでこれを買おうと思ったの?

高橋
かっこいいから。クリムト+箔押しの装丁がツボでね。それに尽きる。

ばら
たしかにね(笑)。本屋でバイトしてた頃に売った記憶があるなあ。


副読本について

高橋
関連書もごまんと出ているよね。書店に行っても、数が多すぎてどれを手にとっていいか戸惑うレベル。その辺りの情報交換もここで随時していけたらと思っています。ちなみにもう持っているものとかある?

ばら
この前買ったのは『源氏物語解剖図鑑』。エクスナレッジから出ている「解剖図鑑」シリーズのひとつだね。

高橋
はいはい、角田訳の河出文庫と一緒に買ったって言ってたね。お店でもパラパラ見たけど、これは一冊持っておきたいなあ。

ばら
ストーリーとか家系図とか、ざっくり全体像を捉えてから読んだ方が入ってきやすいはず。これは持っておいていいんじゃない。

高橋
そうね、買っておこう。

ばら
あと持ってるのは図録類。ちょっと前に「源氏物語ミュージアム」(宇治市)と、「平安京創生館」(京都市)に行ったんだよね。で、展示の図録を買ってきました。

それから、以前イーストプレスから出ていた「まんがで読破」シリーズが去年学研から新装復刊されたんだけど、それの『源氏物語』は一応読んじゃった。

めちゃくちゃ端折りつつ、有名な登場人物だけを中心にサラーっといく感じだけど、大体の流れは掴めたかな。作品解説が『光る君へ』の脚本・大石静さんだね。先週『光る君へ』の第一話が放映されたけど、観た?

高橋
まだ観れてないんですよ。早く観ないともう次が放映されちゃう。どうだった?

ばら
私はかなり好きだった。長編少女漫画的な展開!白泉社・プリンセス・フラワーズを読んできた身としてはアツいです。

高橋
ツイッターでも熱心な皆さんの感想ツイートが流れてくるね。まだ自分で観てないから、薄目で流し見する程度だけど。

ばら
他に関係ありそうな本だと、『日本の装束解剖図鑑』ってのを持ってるね。これもエクスナレッジ。平安時代だけじゃなくて、古代から現代までの装束について解説してくれてるの。萌える…。

高橋
装束で思い出した、別冊太陽『源氏物語の色と装束』がよく売れてるね。伝統色研究の第一人者が当時の色彩を再現する、という本。ビジュアルでイメージを膨らませるのに良さそうで気になってたんだけど、往来堂では売り切れちゃってたな。次入荷したらじっくり見てみよう。

ばら
うわ、いいなこれ。欲しいなあ。

高橋
僕も今読んでる本があって。ハヤカワ新書の12月新刊『みんなで読む源氏物語』なんだけど。書評家の渡辺祐真さんが編者で、いろんな人が寄稿してる本。表紙見て、このわちゃわちゃしてる感じがいいなと思って買ってみた。

わちゃわちゃ

ばら
放課後みたいで楽しそう(笑)

高橋
まだ半分くらいしか読んでないけど、最初に『源氏物語』の大まかなあらすじと、紫式部と時代背景の解説があって、それから和歌だったり当時の身分・階級の話だったり、いろんなトピックに広がっていくようだね。後半ではChatGPTの話も出てくるみたい。

ばら
ほえ〜、これは読みたいな。山本さんとか三宅さんとか、普段から読んでる人も書いてるし!

高橋
実は、編者の渡辺さんが以前YouTubeでウェイリー版の紹介をされてて、それで知ったんだよね。あと円城塔さんと対談されてる毬谷まりえさんと森山恵さん、このお二人は姉妹なんだけど、左右社のウェイリー版の翻訳を手がけた方々なんだよね。それもあって迷わず手にとってしまった。

ばら
なるほど、ウェイリー版をジャケ買いする前に潜在意識に入り込んでいたんだね。そういえば、三宅香帆さんが『源氏』について語ってる本を私も一冊持ってました。『(読んだふりしたけど)ぶっちゃけよく分からん、あの名作小説を面白く読む方法』ってやつ。

高橋
あーはいはい! この前角川文庫に入ったやつだ。読んだよ。

ばら
「本の楽しみ方」を提案してくれる本でもあるし、『源氏物語』も取り上げられているし、今年はすごくお世話になりそうだな。

高橋
そうか、この本にも『源氏』の章があったね。いろんな人の「解釈合戦」を見るのが楽しい、というやつ。ハヤカワ新書の方では、「身分階級で読む」みたいなトピックで、これも面白かった。これから登場人物の造形がわかってきてからもう一回読みたいね。

ばら
『更級日記』の引用から始まるやつだね。東洋経済の記事で読んだよ。なぜ菅原孝標女はそれほど身分の高くない「夕顔」や「浮舟」になりたいのか、という話。

気になる本・コンテンツの話

高橋
他になにか気になってる本とかコンテンツはあるかい?

ばら
山崎ナオコーラさんの『ミライの源氏物語』は、いろんな人が2023年の良かった本として挙げてて、気になってるんだよね。現代的な視点で源氏を読み解く本。

高橋
Bunkamuraドゥマゴ文学賞を受賞して話題になってたね。俵万智さんの推薦で。せっかくだしある程度知識が溜まってきてから読もうかなあ。買い物リストにイン!

この前角川文庫から復刊された田辺聖子の『光源氏ものがたり』も気になってる。厳密な現代語訳ではなくて、あらすじに沿ってだーっと語り下ろしたような感じでライトに楽しめそう。けど500ページ近い分厚い文庫で二分冊だから、ちょっと尻込みしてるね。

あと、原文、で合ってるのかな、もともとの古語も傍らに置いておきたさあるんだよね。岩波文庫のが注たっぷりでいいかも。一冊1500円くらいで全九巻、全部買っちゃうとなかなか高くつくから、試しに一冊買ってみようかと。

ばら
青空文庫にはないんだっけ?

高橋
(パソコンカタカタ…)あるね。いや、これ与謝野晶子訳だ。古文のはないね。底本が一つに定まらないから、という理由もあるのかな。ますます買っておかねばだ。買いたい本・読みたい本は無限にあるねえ。

ばら
あ、そういえば。一応「国語便覧」は持ってます。

高橋
懐かし!

ばら
これは源氏とか関係なく、普段使いしてます。いいよ、これ。平安京をモデルにした小説とかマンガとか好きだから、妄想用の相棒としてお世話になってます。

高橋
いいねえ。実家に残ってるかな、持ってくるか。御茶ノ水の丸善とかにも売ってた気がする。

ばら
あと気になってるのが、片渕須直監督の『つるばみ色のなぎ子たち』。これはまだ公開日が決まってないんだけど、「清少納言の生きた時代の話」とのことで、すごく楽しみにしてるんだよね。トレーラー見てびっくりしたよ、「蚊」を描いたんですね…!?という衝撃。衝撃というか納得というか…。トレーラーだけですでに目頭があついんですが。

高橋
トレンドもあるし、今年中には公開するだろうねえ。平安時代のフィクション作品か、今までほとんど触れてこなかったなあ。

ばら
『応天の門』は読んでるからたまに話に挙げるかも。菅原道真と在原業平のバディ漫画ですね。コミックバンチで連載してるやつ。あと、古川日出男さんの現代語訳が底本になったTVアニメ『平家物語』とアニメ映画『犬王』ね。演出の違いもすごく楽しんで観ていたよ。

高橋
いいねえいいねえ。

ちょっと個人的な話をすると、少し前から文芸担当も受け持ったというのもあって、読むべき本、読まなくてはいけない本がだいぶ増えたんだよね。ゲラとかプルーフとか。そのこと自体はうれしい悲鳴って感じなんだけど、そのかわり他の鑑賞にあんまりリソースを割けなくなったのよ。時間はあっても、集中して観るキャパシティがない。本当は腰を据えて映画とかドラマとか観れたらいいんだけど。だから今回の大河も、完走できるか不安ではあるのよね。

ばら
本読むのにも体力使うしね。私は在宅ワークでずっと手作業してるから、その間にずっとドラマとか映画とか観ちゃうんだよね。だから集中して観れてるわけではないんだけど。

あとは……無事にこの企画が継続できたらの話なんだけどさ。

高橋
できる前提で話そうよ(笑)

ばら
『烏に単は似合わない』の話をしたくて。

高橋
あ〜〜阿部智里さん。文春文庫ね。アニメもやったんだっけ?

ばら
文春から単行本も文庫も出てます! 春からアニメ化されるんだよね。アニメになるのは『烏に単は似合わない』の別視点のお話。おおまかなストーリーは一緒なはずだけど。
『烏に単』はシリーズの第一巻なんだけど、コミカライズしている松崎夏未先生のことばをお借りすると、「平安っぽい異世界で四人のお姫さまがバチェラージャパンする」って話。宮廷ロマンスかと思って読み始めると酷い目に遭う(笑)
女たちの表象がすごい好きだから、その話はしたいと思ってて。優美で可愛らしいだけではない、どちらかといえばドロドロしている、でもそれだけじゃない一筋縄ではいかない女の子たちが描かれてるんだよね。源氏物語にあわせて、一巻だけでも読んでほしいなあ。

高橋
おっけ。ひとまず小説を買っておこう。『源氏』を読み進める過程で平安の知識がついてきたら、満を辞して読んでみる。コミカライズもよいの?

ばら
よいよ。私が知る限り、この世の中で最も完璧なコミカライズ…。あいや、「完璧」っていうのはちょっと違うかも…? 文字通りの「原作に忠実」って意味ではなくて、それ以上なんだよね…。その話もしたいな。

高橋
なかなか自分からは手に取らないジャンルだから、こうして紹介してもらえるのは嬉しいなあ。

ばら
たしかに。どちらかといえば女性向けだろうしね。読んでくれたらうれしい!そして、「『烏に単』回」をしたい!


どんな読み方をすればいい?

ばら
どういう視点で読んでいくか、みたいなの決める?

高橋
うーん。まだ読み始める前の段階だからなんともいえないなあ。

ばら
決めてもその通りにはいかないと思うんだけどね。読み進めていくうちにどうしても変わってきてしまうと思うし、お互い気になるところも違うだろうし。

高橋
そうねえ。毎回、お互いに2-3個ずつ気になるトピックを持ってきて、適当に走り出す感じかなあ。読み方の傾向の違いとかも、見えてくると面白くなりそうだね。

ばら
そうだね。

高橋
読む前の段階で、気になってることとかある?

ばら
ざっくばらんなトピックになっちゃうけど、「出家について」と「平安時代の身体性」と、あと「不細工とはなにか」かなあ…。おぼろげな記憶だけど、『源氏』にもあんまり見た目がよくないキャラクターがいたなと。それでも光源氏と関係を持ってるんだよね。その辺がどういうふうに描かれてるか気になってる。

高橋
光源氏のストライクゾーンが存外に広い、みたいな? あるいは外見以上の魅力があるのか。

ばら
ううん、というよりは、「見た目がよくない」というのは平安時代の貴族社会でどういうふうに作用するのか?ってところかな。描かれてないかもしれないけどね。
最近トミヤマユキコ先生の『少女漫画のブサイク女子考』読んでて。ちょっと「ブサイク」とか、人の見た目とかに注目するアンテナが育っています。


「出家について」は、源氏物語に限らずだけれども、昔の物語ってやたら「出家」する人が出てくるじゃない? 学生時代から、友達同士で「出家してえな〜」と言いまくってきた身としては、一度真剣に考えてみようかと。

「身体性」でいうと、たとえば、とくに十二単って重くない!?っていう。あんな重いもの着てどうやって過ごしてたんだろうか、外に出るのもかなり面倒だったんじゃないか、脱いだときの開放感かなりあったんじゃないか…とか。

高橋
その辺の知識がからきしなんだけど、十二単ってどれくらいの階級の人が着るものなんだっけ。

ばら
貴族社会のお姫様だったら着てると思うな。それこそ女御とか更衣とかも。

高橋
ほうほう。そういうのもあれだね、さっきの『解剖図鑑』が役立ちそうだね。いやあ、読むべき本は尽きないですなあ。

(追記:『日本の装束解剖図鑑』によれば、十二単は女房が勤務時に着る装束。身分の高い后妃たちは十二単は日常的には着ておらず、帝の御前に出るときに着用していたとのこと。ばら)

ばら
むしろ副読本に夢中になっちゃったらどうしよう。
こんな記事にしちゃってるくらいだし、本当に全帖完走したいよ!(笑)


高橋が読む源氏 ギラギラでかっこいい
ばらちゃんが読む源氏 この表紙も綺麗だ

次回は4月上旬ごろに更新予定です! お楽しみに!

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