病院嫌いの娘を病院へ連れていく。
#20240423-388
2024年4月23日(火)
このところ、ノコ(娘小5)の鼻の調子が悪い。
ズビズビとすすったと思えば、ゲホガホと咳込む。
「ほら、鼻かんで。耳を傷めないように、片方ずつ鼻の穴を押さえてね」
「でも、出ないし!」
ノコはティッシュペーパーを受け取り、唇を尖らせた。
小学5年生にもなって、という言葉を飲み込み、鼻をかむのを手伝おうと手を伸ばすとノコは逃げてしまう。乳児から育てていれば、鼻水吸引器を使う機会もあるのだろうが、里子のノコが我が家に委託されたのは幼稚園年長児だ。幸いなことに丈夫で、たいていの風邪っぽい症状は様子を見ているうちに治ってしまう。鼻水吸引器の購入を考えることなく、月日が流れた。
今回の不調はちょっと長い。
ノコにせがまれ、ぎゅうと抱きあったり、頬へのキスを交わしあったりするのが日常茶飯事の私はノコの風邪をもらうことが多い。だが、鼻と咳がひどいわりに、今回は私にうつっていない。また私の花粉症が重い日にノコも辛そうなので、アレルギーの可能性が浮かんだ。
鼻の通りが悪いので、口呼吸になっている。
睡眠時も息苦しそうだ。
もうすぐゴールデンウィークがはじまる。平日、学校はあるが習い事は休講。
それまで不調が続いたら、放課後に病院へ連れて行こう。予定でいっぱいのカレンダーを見ながら、そう計画していた。
ふがッ!
ノコが苦しそうに息をしている。
最近では見る度に、口がぽかんと開いている。
新学期がはじまり、習い事が遅くまであるため、睡眠不足も続いている。呼吸が苦しければ、体を動かすのも、頭を使うのも、思うようにできない。
ゴールデンウィークまで待つのは中止。今日は習い事を休ませて、放課後に病院に行くことにした。
ノコは「病院に行く」と告げると、全力で拒む。
下校も行きたくない気持ちが足取りを重くさせるのか、なかなか帰ってこない。
やっと帰宅し、病院へ向かおうとすれば、亀の子のように丸くなってうずくまる。
「お腹痛い……」
ノコと2人で行こうと思っていたが、仕事から帰ったむーくん(夫)も同行してくれるという。私とだと甘えなのか、ノコは拒みが激しくなる。むーくんがいてくれたほうが助かる。
そうはいっても、本当にお腹が痛いのなら無理はできない。
「お医者さんに行くと思ったら、お腹痛くなっちゃったかな」
丸まった背をなでると、諦めたのか、ノコがのっそり立ち上がった。
夕方の混んだ耳鼻科に子どもの絶叫が響き渡る。
よその子の泣き叫びを聞いて身を強張らせて怯える子もいれば、聞こえているのかいないのか、キッズコーナーで黙々と玩具で遊んでいる子もいる。
ノコはといえば、自分よりだいぶ幼い子たちの泣き叫びに硬直している。診察室から出てきた子が涙で濡れた顔で母親を見上げた。
「もーおしまい? もーやンない? かえる? かえる?」
診察が進み、ノコの名前が呼ばれる。
診察室の頭あてとリクライニング機能がついた大仰な仕様の椅子にノコはおじけづく。
「じゃあ、鼻のなかを診ましょうか」
男性医師の明るい呼び掛けにノコは睨みで返した。
「マスク、取らないから!」
小学5年生。立派なお姉ちゃんに見えるが、ノコの頑固さはピカイチだ。
「うん、取らないよー。取らないからお鼻のなか診せてねー」
医師が少しだけノコのマスクを下げて、手早く診察器具を鼻の穴に突っ込んだ。
右、左、そしてマスクを戻す。
「鼻、詰まってるねぇ。今度は喉を診せてねー」
「マスク、取らないから!」
ノコは頑として、マスクを外そうとしない。
「うん、マスクしたままでいいからねー。そのままでいいからねー。はい、アーして」
マスクを外さずにどうやって喉を診察するのだろうか、と思っていたら、医師はサッとノコのマスクを鼻のときより深く下げ、ノコの開いた口のなかを覗き込んだ。
そして、また何事もなかったかのようにマスクを戻す。
「うーん、レントゲン撮ってみようか」
「レントゲン撮った後、どうする? 何かする?」
歯科でのレントゲンで撮影そのものは痛くないことをノコは知っている。問題はその後。それによっては、レントゲンも許さない勢いだ。
「撮ったら、おしまい。それだけだよ」
医師にそういわれたら、拒む理由がない。
結果、副鼻腔炎を起こしていた。
霧状にした薬を吸入するネブライザーを3分して診察は終了。あとは処方していただいた薬を薬局で受け取る。
「にがっ! ママ、にがっ!」
吸い込んだ薬が鼻から喉へ流れたのだろう。薬の苦みにノコが顔をしかめる。
自販機でジュースを買うよう硬貨を渡せば、にんまりする。
「甘いなぁ」
むーくんがつぶやく。
「甘くていいの!」
即、ノコが叫ぶ。こういうやりとりも阿吽の呼吸になってきた。
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