かわいらしくて、かわいらしくて、笑っちゃうのよ。
#20240228-366
2024年2月28日(水)
学習塾の日なので、早めの夕飯を食べてから家を出る。
「ママママー、終わったから丸つけしてー!」
豚肉をフライパンに入れたところで、ノコ(娘小4)がいった。
ガスコンロの火を止めて、私は振り返る。学校の宿題である計算ドリルは親が丸つけをせねばならない。ドリルの後ろのページにある解答を見ながら、赤ペンで丸をつけるが、ちょこちょこ足りない。設問には「あてはまるものをすべて書き出せ」とあるのに、4つあるところを2つしか書いていない。
「この2つはあってるけど、まだあるよ。3問目と5問目もそう。あってるけど、足りない」
ノコにドリルノートを返し、コンロの火をつける。
肉の焼ける具合を見ていたが、どうも背後が静かすぎる。「ママ、わからなーい」「教えてぇ」「ヒント、ちょーだい!」といういつもの声がしない。
振り返ると、ノコが身をかがめて、ドリルに差し込んだ定規をそっと持ち上げている。
「ノーコーさぁーん」
ノコがびっくんと体を震わせた。
ドリルの巻末にある解答をこっそり書き写していたのだ。定規を解答のページに挟み、そっと持ち上げて覗いていた。
静かだと思ったら!
「ノコさん、答えを見るのはナシだよ。わからないのなら、いうこと」
「はぁーい」
亀の子のようにノコは首をすくめた。
「写したところに丸はつけられないよ。そこは鉛筆ではなく、青で書き直して」
「はぁーい」
学習塾から帰ったノコがバッグからお便りやプリントを出した。
「はい、ママ」
そのなかに添削済みの作文が5枚あった。
ほぼ毎回授業で書く作文は、先生の赤ペンで真っ赤になって返却される。
よい個所には波線と花丸、そしてお手紙への返事のような先生からのコメントがぎっしり。助詞が抜けていたり、改行後に1マスをあけていなかったりすれば指摘が入るが、文章が多少おかしくてもそこについては触れない。そのおかげか、思わず笑ってしまうのびのびとした文章が綴られている。
2週間前に書かれた自由作文に吹き出してしまった。
親に見付かった隠し事。
夜、就寝時刻が過ぎたのにベッドで本を読んでいたことが見付かってしまった。間違えた宿題をこっそり書き直して丸をつけたら見付かってしまった。
太い鉛筆の字が韻を踏むように、リズミカルに紙面で躍る。
あっ、ばれた!
あっ、ばれた!
今日の夕方――学習塾に行く前にあった「ばれた」も重なり、おかしくてならない。
まだノコの隠し事はわかりやすくて、怒る気が失せる。
返却された5枚の作文ぜんぶぜんぶにおかしみがある。むーくん(夫)に教えたくて読み上げると、照れくさいのかノコが身をよじる。
思えば、少し前のノコならば、かわいらしくて笑うと、バカにされたと感じてよく怒っていた。
いつからだろう。
怒らなくなった。
私が作文を手に「いいね、いいね、たまらないねぇ」と笑い転げると、ノコは私にくっつき、押し倒し、一緒に笑う。
「これも読んで。パパパパ、聞いてて。ちゃんと聞いてて」
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