【検証】読者は情報弱者なのか:『土偶を読む』な!
サントリー学芸賞を受賞!!
NHKで取り上げられる!
全国紙で掲載!
このような売り文句で発売された書籍はさぞ”良書”なのでしょう。
しかし、それが大学生の手抜きレポート並だったら…?
そんなことがあるのです。
『土偶を読む』
世間で話題となりベストセラーとして大型書店で展開され、
権威ある新聞=毎日新聞、朝日新聞に掲載され、
権威ある公共放送=NHKで紹介され、
権威ある賞=サントリー学芸賞を受賞しました。
「権威的」をもっとも嫌った作者が、権威あるメディアのお墨付きを得たのが本書・『土偶を読む』でした。
しかしその実は、
恣意的なデータの引用、結論ありきの論理構成による「夏休みの自由研究」のようなものだったのです。
読者としてはたまったものではありません。
高い値段で購入した本が、学術的を装って売られているのですから!
(ちなみに私も彼の言説を面白がり翻弄されたひとりです……)
読者=情報弱者?
上記の経緯を持つのが『土偶を読む』でした。
そして『土偶を読むを読む』は前書のデタラメさをアカデミックな視点から検証した力作です。
それだけでも読む価値はあるのですが、その内容は読んで確かめてください。
ここで問題にしたいのは、そのような毒書が出回り、メディアによって拡散されてしまったという事態です。
そして無批判に消費してしまう読者が大いに存在したこと。
問題は発信者側(版元、書店、メディア)にあるのか。
受信者側=読者にあるのか
それを「かるく」「単なる考察として」検証していきたいと思います。
よい書籍の探し方
読者は基本的に情報弱者です。
専門知を持っていないし、吟味する時間も十分ではない。
だからこそ、識者やメディアの声によって「良書か否か」を判断する必要があるのです。
みなさんはどのように、その本の妥当性を判断していますか?
私の場合は以下の手法をとっています。
1.アマゾンレビュー
2.権威ある賞の受賞歴
3.新聞の書評
上記の手段はノンフィクション・フィクションに関わらず便利な物差しになります。しかし今回は、新聞もメディアも受賞歴も何も役に立たなかった。
サントリー学芸賞は”優れた研究”に贈呈されるそうですよ……。
(https://www.suntory.co.jp/sfnd/prize_ssah/)
また知識人らも『土偶を読む』を絶賛している始末。
アマゾンレビューは小説などでは有効ですが、投稿者が匿名化されている点などで、学術的な判断を★の数で判断することはできないでしょう。
義務教育や大学でも「書籍はネットより信頼できる」と口を酸っぱくして言われてきました。
書籍だから、大手の版元だから……と、バイアスがかかっているのもあります。
つまり、
読者は圧倒的に不利な立場からしか妥当性を認識できない
よい書籍の探し方~Deep版~
いや、待てと。
他にも書籍の信頼性を知識を持たない一般人が判断する方法はあるんじゃないのか、という声が聞こえてきます。
たしかにその通りで、例えばこのような手段が考えられるでしょう。
1.著者の経歴(学歴、所属学会、査読論文等)
2.版元の信頼性
3.学術的な書評
4.Cコード
(1)については、ネットで調べれば出てくるし、研究者として登録されているならresearch mapで確認することができます。
著書・竹倉史人さんを検索しても、出てきませんね。
学歴的に考古学の素養は見られず、学会にも所属していないようです。管見の限り、査読論文も0です。
著者自身が「独立研究者」と名乗っているのがそもそも香ばしいですね。
大学で勉強したことがある人なら覚えがあるかもしれませんが、何かしらの学会に所属したり大学などのポストがないかぎり、最先端の学術に追いつくことは出来ません。これは、高度な計算機や実験器具を必要としない文系学問でも、です。
その意味で、「独立」している方が、”新説”を掲げられるのか……?
*独立研究者でも目覚ましい成果を出して認められる人もいます。また、アマチュア研究者が成果(新種の発見等)しています。しかし著者は”自称”独立研究者という文脈で使っているようです。知識の持たない我々からすると、独立研究者という単語はまず疑うのが適当ではないでしょうか。
(2)次に版元の信頼性です。(1)の手段は無用の長物でしたね。さて、出版社から判断する、というのもいくらかの効果はあります。
いわゆる版元フィルターです。岩波なら、筑摩なら信頼できるとかそのような類の判断手法です。一定の効果はあります。
『土偶を読む』は晶文社です。続刊『土偶を読む図鑑』は小学館です。前者は置いておいても、大手でかつ図鑑に力を入れている小学館が版元になっているのはヤバイですね。
校閲する体力のある小学館から刊行されているとなると、読者は信頼せざるを得ません。しかしこの体たらく……。
(セクシー田中さんの件もあるし、大丈夫か小学館?)
さて、こうなったら(3)学術的な書評に頼る、しかありません。
新聞の書評は研究者が関わるわけではないので、必ずしも頼りになるわけではないです。
しかし学術誌に寄稿された書評は、専門家の知見で判断され信頼出来ます。
しかもすごく簡単なやり方で確認できるのです!!
どうやるか
Ciniiで「著作 書評」で検索する
学術誌の種類が分からなくてもCiniiでは学術的な書評の掲載元を提示してくれます。中にはWebで公開されているのもあり、非常に便利で信頼できます。
(4)Cコードを確認するというのが一番手軽ですね。
Cコードとは、書籍のジャンルを判別する番号だと思ってください。
書籍の背表紙に記載されています。
『土偶を読む』のCコードは C0021です。
解読すると、一般書で単行本で日本歴史を扱っているとわかります。
問題は千の位が0であること。
学術書であるならば3の番号が振られていなくてはなりません。
⬇ Cコードの判別表
https://honno.info/category/reference/ccode_description.html
すごいでしょ?
Cコード知ってると知識人っぽくなりますね笑
ただCコードには課題もあります。
第一に客観的ではなく出版社の恣意性が介入することです。
つまり事実として受け取ることはちょっとむずかしい。
*専門家を交えた『土偶を読むを読む』も、怪しい『土偶を読む』もC0021ですから、あまり参考にはならないかもしれません。その意味では『土偶を読むを読む』も検証される必要があるでしょう。
まとめ
総括します。
情報弱者たる我々読者が書籍の妥当性を判断するのは
極めて難しい
この記事ではいくつかの指標を示しました。
・アマゾンレビュー
・受賞歴
・書評(新聞)
・著者の経歴
・版元フィルター
・書評(学術誌)
・Cコード
しかしこれらを総合的に読者が吟味しても、その本が正しいのかは判断できません。
もっと言えば、こんな手間のかかる時間が読者にあるのか?
読者にそんな手間を強いることは妥当なのか?
つまり、このように議論が紛糾するコト事態が、発信者側の責任なのです。
余談:小学館はヤバイのか
出版社はもう少し慎重になるべきでした。
特に小学館は大手であり業界をリードする会社であり、図鑑をウリにしています。それなのにファクトベースの視点が欠けていたのではないでしょうか。
書店、図書館はどうでしょう。
著者によると、書店・図書館は『土偶を読む』を批判的に検証した『土偶を読むを読む』の陳列・配架をためらっていたようです。
書店は苦境で売上重視になるので本の選定が恣意的になるのも仕方ない部分もあるでしょう。
しかし図書館はどうでしょう。
図書館は公共のため、知の収集のために「良書」を選定する必要があります(かつて大学の教授が言っていました)。
図書館法にも以下の言及があります。
であるならば、図書館が、学術的中立的立場で『土偶を読む』を検証した『土偶を読むを読む』の配架を躊躇うのは明らかに不適切だと感じます。
大学図書館はしっかりせぇ!
私が一番問題だと声を上げたいのが、大学図書館の蔵書です。
大学図書館は特に、”怪しくない”書籍を吟味して所蔵しなくてはなりません。それなのに『土偶を読む』を蔵書する大学は193件。『図鑑』は61件。
一方、学術的に検証した『土偶を読むを読む』を蔵書する大学はたったの78件。(Cinii books調べ)
学術的ではない書籍が、多くの大学図書館に所蔵されている。これは学生のためを思っても、改善すべきです。
それでいて検証する『土偶を読むを読む』の所蔵数を比較すると圧倒的に非対称です。公立図書館ならまだしも、大学図書館でこれとは……。
メディアが『土偶を読む』を担ぎ上げるのも妥当とは言えません。
NHKもそうですし、全国紙がそのような態度に走ったのは残念です。
何よりこうしたマスメディアにはいわゆる「高学歴」の方が多く、大学で研究活動もしっかり取り組んできたことでしょう。ならば『土偶を読む』に慎重になる考古学界の反応を鑑みる必要はあったはずです。その後だんまりを決め込むのも良くないです。(こういうところからオールドメディアへの不信やポスト真実が横行することになるのでは)
結論
われわれは情報弱者です。
読者は、学界や版元、メディアの権威を信じて書籍を選ぶしかない。
それなのに彼らによって、歯止めがかからず学芸賞や書評で担ぎ上げられ、読者は翻弄されました。
間違った説をそのまま信じてしまう人もいるでしょう。
私も『土偶を読むを読む』を読まなければ、竹倉氏の新説に飛びついてしまうだけでした。
これは、ひとえに発信者側の責任です。
すくなくとも、彼らには何かしらの反応を示す義務があるのではないでしょうか。
主要参考文献
・図書館法
・『土偶を読む』
・『土偶を読むを読む』
・『土偶を読むを読む』出版後、四方山話