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シニアのデジタル浸透 -中国、北欧、インドから(ADInspiration Letter vol.16)

日本のデジタル化が進まない一つの大きな理由に、デジタルに慣れていないシニア層が人口動態として大きいことがよく挙げられますよね。

企業の視点では、人口動態だけでなくシニア層がお金を抱えているため、その市場の重要度が高く、デジタルに移行しても逆に儲からなくなる、という構造に見えています。

それでもデジタル化を推し進めるにあたり、「如何にシニアにまでデジタルを浸透させるか、どうやったら使えるようになるのか」という質問を多くいただきます。


急に雑になる「シニア」のユーザ理解

これだけ大きな市場であると言われているのに、不思議なことにシニアのユーザ理解には投資がされないことが多く、あまり知見がありません。

20代であれば、まず男女を分け、場合によっては5年よりももっと細かく年代を切って、各セグメントの特性を理解しようとするにもかかわらず、シニアになると「65歳以上」みたいな設定になってしまうことが多く見られます。

20~30年くらいの年代を、男女ごちゃ混ぜでくくった上で、「この人たちにどうやってデジタルを浸透させようか」という姿勢も、如何なものだろうか、と。

加えて、シニアがデジタルを使わないというのも結構幻想だったりします。

以下はデジタル庁創設時に行なわれたシニアのデジタル利用調査ですが、65~99歳の555名のうち、7割が毎日インターネットを使っていて、EC利用も半数を超えている、という結果になっています。

ちなみに先日、Facebook申請が来て「誰だろう?」と思ったら、92歳のおばあちゃんでした。私が書籍を出したりしている活躍を見たい、という気持ちで、周りに手伝ってもらいながらではありますが登録してくれたそうです。たまにインスタで「いいね」も来ます。ちなみに知り合いの母親(75歳)は、オンラインゲームに10代のふりをして参加しているそうです。


中国でアリペイは何故シニア層に広まったのか

さて本題ですが、海外事例を見ていくと、「地道に人の縁を使ってシニアに学んでもらっている」という事例ばかりです。

中国都市部で現金使用率が3%を切った、みたいな話が3~4年前から聞かれていますが、「アリペイがどのようにしてシニアに拡大していったか」には学びがあります。彼らは「子アカウント」を作る機能を追加し、家族の縁をうまく使うという方法を取りました。

30~40代の人を思い浮かべると、街中でどんどんキャッシュレス化が進む中、70代の自分の親のことが心配になります。この時、自分のアリペイアカウントで、別の人に譲渡できる子アカウントが作れるようになると、そこにお金を適当に入れておきます。その上で帰省した時にこんな会話をするわけですね。

「お父さん、お母さん、アリペイのアカウント作っておいたから、これから外で使う時はこれを使いな。お金もちょっと入れておいたよ。アプリはダウンロードしておいてあげるから、携帯貸して。はい、これで使えるから、アプリ開いてこのボタン押せば支払えるよ。」

便利な生活をさせてあげるだけでなく、お金を送りやすくもなるので、親孝行をしている実感にもつながります。このように「家族の縁や想い」をテコにして、シニアに広めていくという手法を使っているのは、非常に面白いアイデアであると感じます。ちなみに、使い方を教えてもらったシニア層が迷わないよう、圧倒的に使いやすくてステップ数が短いことは大前提になります。


最先端のデジタル国家エストニアはどうしたのか

新著『アフターデジタルセッションズ』にも載っていますが、エストニアにおいてシニアのデジタル浸透が進んだのも、こうした「縁を通じて、パソコン教室的な形で使い方を教える」という手法を使ってのことだそうです。

エストニアは人口130万人程度しかおらず、知り合いの知り合いくらいで大体皆つながるような狭い国だそうです。こうした環境では、例えば行政の中心にいる人とスタートアップのエンジニアが普通に知り合いだったりして距離が近いため、互いに助け合ったり一緒に何かをしたり、と言ったことが起きやすいそうです。

実際に、大学生が行政にボランティアで協力し、シニア層のデジタルが苦手な方々に教えて回る、といったことも頻繁に行われたそうで、その結果十分に広まったのだ、とおっしゃっていました。

アフターデジタルシリーズには、平安グッドドクターという医療アプリが、平安保険の保険営業マンによる営業時の説明によってシニアにも使われていくことや、メルカリがドコモショップや郵便局で「メルカリ教室」を開いたことでシニアが高いLTVで使うようになったことも書いていますが、どれもこれも、「愚直にリアルで使い方を教える」という手法が取られています。


インドに学ぶ地方創生

先日「限界集落のような場所がどんどん生まれてくる中、デジタルはそういった状況に対応できるのか」という質問も頂きました。その時にお答えしたのが、インドのCityMallというサービスの事例です。

インドは13億人という人数を抱えながら、インターネット人口がようやく5億人に達すると言われています。中国の場合14億人のうち、インターネット人口が10億人に上ると言われているので、インドではまだまだ広まっていません。実際、田舎に行けばいくほどスマホがまだ使われていなかったり、利用に慣れていなかったりするそうです。

そんな中、CityMallというサービスはそういった地方にインターネットの恩恵を授けるために存在しているそうです。

それぞれの地域において「コミュニティリーダー」なる人達がハブになって、周りのインターネット慣れしていない人たちから注文を集めて一括発注するわけです。インターネットに慣れておらず、購入できるものが限定される人たちが、この仕組みを通じてネット上の様々な商品を買えるのはもちろんのこと、共同購入の形を取るため、値段もかなり安くなるという恩恵が同時に受けられるそうです。まるで、皆さんもよく知っている「生協」をデジタルサービサーが行なっている、みたいな事例ですよね。

インドは言語や宗教が多様化しているため、なかなかインフラが一律に整わず、オンライン浸透にもまだまだ課題があるそうです。しかしこうしたサービスのように、オフラインでの縁をうまく使うことで、オンラインの恩恵を広く届けていくようなことは、日本の限界集落においても十分に真似ができる仕組みであると言えるでしょう。


誰も取り残さないための努力

「誰も取り残さない」という言葉、よく耳にしますが、どの国をとっても温かみを持って、人の縁を如何に使えるかがそれらの成否を決めているように感じます。地縁が薄れ、人口規模も大きすぎる難しさを抱えますが、CityMallのような事例は「地道なオフラインの努力」を超えている側面もあります。

言葉だけにならないために、如何に皆がアフターデジタル的な恩恵を信じて動けるか、それを掲げて人の共感を集められるリーダーシップを持てるか、そのあたりが重要になってくるのでしょうね。

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本記事は、ビービットで私が定期配信しているニュースレター"After Digital Inspiration Letter" の過去記事です。

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