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デイヴィッド・ピーター・ストロー『社会変革のためのシステム思考 実践ガイド』(2018年、英治出版)を読んで。

タイトルにもなっているが、本書はシステム思考の実践ガイドである。
わたしはこの分野の知識がなく初学に近かったので、読むのに2週間ほどを要してしまった。しかし、課題を構造化して問題を捉えようとするときに、本書から、かなり有用な知識をインプットすることができると考える。

多くの社会課題や地域課題を生み出すことは、新たなブルーオーシャンの創造である。しかしその課題設定が間違っていたら、より大きな課題を生み出したり、単なる浪費に終わったり、社会的なコストを生み出すだけに終わることも考えられる。そうならないために、課題を見える化して、なにに取り組むべきか、レバレッジポイントと呼ばれるものを明らかにすることが必要になる。

おそらく本書を読んだけでは知識を得るだけに終わるだろう。実際に現場で活用してはじめて、理解も深まっていくはずである。実践ガイドとあるように、本書を活用して、実際のケースで使っていければと思う。

本書は、システム思考の基本書であり、この分野における必須の一冊だと考える。また良書に多く言えるのですが、本書の監訳者の解説もよい。解説を読むことで、実際のケースにどのように用いるべきか、思索が深まると言える。

◇気になった個所(付箋を貼った個所)

カニアらは、(コレクティブ・インパクトについて)次のように定義しています。
「異なるセクターから集まった重要なプレイヤーたちのグループが、特定の複雑な社会課題の解決のために、共通のアジェンダ委に対して行うコミットメントである」

(p5)

たとえば、これまでの協働は、同じ方向性や関心を持っている少数の組織同士の連携が主流でした。また、多くの場合、問題解決に向けた戦略の部分は特定の組織がリードして描き、他の組織には協力を依頼するという形がとられていました。ここに、新しい協働のかたちが求められるようになった背景があります。

(p6)

カニアらは、コレクティブ・インパクトの成功条件として、有名な五つのポイントを挙げています。上記の「共通のアジェンダ」に加えて、「共通の測定手法」「相互に補強し合う活動」「継続的なコミュニケーション」「バックボーン組織」というものです。

(p6)

システム思考という手法は、ソーシャルイノベーションにどのように役立つのでしょうか? 私は、大きく二つのポイントがあると考えています。一つは「(よくしたいのに)意図と異なる結果が生まれるパターンを紐解く」。もう一つは「個々の要素について、より深く理解ができるようになる」です。

(p10)

多くの変革プロセスは、多様な利害関係者をとりまとめようとする際に見過ごしてしまうことがある。それは、すべての関係者に対して、「自分たちの思考とそこから生じる挙動が、いかに無意識のうちに、システムにおける自分や他者のパフォーマンスと、システム全体の効果を損ねているか」を理解してもらうことだ。言い換えると、共通する懸念の周辺で共通の基盤を築くことはあっても、関係者たちが、何が起こっているかについてだけでなく、なぜ起こっているのかについての共通理解にいたることもない変革プロセスが多いのだ。根本原因を探す際、人々はたいてい、「自分は最善を尽くしていて、悪いのはほかの誰かだ」と思い込んでいる。リーダーシップ論の専門家であるビル・トルバートの言う「自分が問題の一部であることに気づかなければ、その解決策の一部になることはできない」とことがわかっていないのだ。それに対して、システム思考は、人々が、自分自身の思考と挙動を含めた根本原因に対する深い洞察を見いだし、レバレッジの利いた介入策を見つけられるようにする。

(p30-31)

(p45の図 1-1)

システム思考の用語で「良くなる前に悪くなる挙動」として知られている。これはつまり、長期的に成功するためには、短期的な投資または犠牲が必要な場合が多いということだ。長期的な成功を目指して努力するよう人々を動かしたければ、あなたがリーダーとして、あなた自身が最も実現したいと願う、長期的な志に従って行動しなければならない。

(p66-67)

メドウズの定義を発展させて、私はシステム思考を「望ましい目的を達成できるように、要素間の相互のつながりを理解する能力」と定義する。システム思考がもたらす利点の一つは、システムが達成しようとしている目的を私たちが理解するのに役立つことだ。これによって私たちは、自分が望んでいると思っている事(標榜する目的)と、実際に自分が生み出していること(実際の行動時に使っている目的)との違いについて、じっくりと考えるように促される。

(p48)

P57の図 2-1
 
p63の図 2-2

多くの場合、うまくいかない解決策になる可能性を減らすための最善の方法は、その症状を生み出す根本的な問題を解決することだ。人は多くの場合、より根本的な解決策が好ましいことはわかっているが、なぜそれをなかなか実行できないのかがわからない。その主な理由の一つは、問題の根本原因に対処するにはより長い時間とより多くの費用がかかるし、より多くのリスクと不確実性を伴う可能性があるからだ。
応急処置を実行することと、より根本的な解決策を目指すことの引っ張り合いこそが、いわゆる「慈善の難題」の中核にあるものだ。問題を今解決するのか、それとも長期間にわたって人々を支援するのか。システム用語では、応急処置に頼ることは問題のすり替わりと呼ばれており、時おり思い出したように問題の症状を和らげているために、問題が次第に悪化していくのが見えにくくなるという、うまくいかない解決策と似たようなパターンを生み出す。

(p105)

時間が経つうちに人々がますます応急処置に依存するようになり、中核的な解決策への投資がますます少なくなる。このような応急処置への依存の高まりは、中毒とも呼ばれる。よりよい選択肢がわかっているにもかかわらず、人々は応急処置の中毒になるのだ。

(p106)

問題のすり替わりに向かうこの傾向を打開するためのカギは、応急処置の知恵に疑問を呈すること、根本的な解決策への投資を阻む状況全体に異議を唱えること、この解決策を実施する意欲を起こさせる長期的なビジョンを確立することなどだ。

(p110)

私たちは、この創造的緊張のモデルをさらに広げて、四段階の変革プロセスに落とし込んだ。それはそれぞれの利害関係者が、以下のような段階を経ていくものである。

(p130-131、図5-2)

主要な利害関係者を巻き込むためには、招集者である組織やグループは、誰が積極的に関与すべきか、そして協力を得るための戦略を誰が策定すべきかを明確にする必要がある。次のような人たちを中心メンバーに加えるのがよいだろう。
・この問題と機会に深い利害をもつ、主要な支援団体の代表者やスポンサー
・この問題を我がことと捉え、情熱をかけて取り組む活動家
・患者、学生、路上生活者など、現在のシステムでは発言権をほとんど、あるいはまったくもたいない最終受益者
・プロのコンサルタントまたはファシリテーター

(p140)

「6 変革の基盤を築く」まとめ
・重要な利害関係者を特定し、その人たちを巻き込むことによって、変革の基盤構築に着手する。
・変化を後押しする人たちだけでなく、変化に抵抗する参加者たちも巻き込む方法がいくつもあることを認識する。
・共通の集まる理由を見つけ、共通の方向感覚を養い、今の現実について最初の全体像を描くことによって、共通の基盤を確立する。
・システム的に捉え、相違の橋渡しとなる対話のためのスキルやツールを活用することによって、参加者たちの協働する能力を構築する。
・問題に加担している責任(それが自分にあると納得できる場合)と、問題解決のためにどのような選択をしているかに関する責任という視点を養う。

(p154)

人々は、現在のシステムがどのように作用しているかはもとより、なぜそのように作用しているかを深く理解しないままに、解決策を論じることがあまりにも多い。そして、長期的に見ると成果を生まないどころか事態を悪化させることになる解決策に、限られたリソースを振り向けてばかりいるのだ。

(p155)

今の現実に向き合うためにすべき、最初の三つの作業を中心に紹介しよう。
1 現状に至るまでの過程を把握するためにインタビューすべき人を特定し、何を問うべきかを明確にする。
2 情報の質を高めるために、整理と精査を行う。
3 さまざまな要因が時間の経過の中でどのように相互に作用し、ビジョンの実現を後押しするか、または損なうかについて、システム分析の見立てを行う。

(p155-156)

これら二つのループ図のおかげで、合宿研修の参加者たちは、共通の難題に対処するそれぞれの取り組みについて包括的な共通理解を得ることができた。その結果、中には、過剰投獄を引き起こす恐怖―実際の犯罪数だけではなく、構造的な人種差別に基づく恐怖―をより強調的な方法で和らげる方法を発案し、開発しようとする人もいた。また、その根底にある状況とそれに拍車をかけている思考回路に対して、より幅広い人たちの関与を得られることを期待して、大量投獄の社会的コストkを政策立案者に伝える方法を発案する人もいた。

(p168)

「7 今の現実に向き合う」のまとめ
・多様な利害関係者のグループから学ぶことによって、共通理解が形成されるだけでなく、システムの動作の仕方を変えるために必要な関係性も構築される。
・気になることに耳を傾け、測定可能なデータと、そのデータに対する人々の解釈とを区別し主な変数を特定し、見覚えのあるストーリーの筋(つまり原型)を探すことによって、情報を整理する。
・利害関係者はシステム原型とバスタブモデルを用いて、なぜ自分たちの長期的かつ複雑な問題が存在しているかに対する洞察を深め始めることができる。
・人々が理解できるだけの単純さと、その多様な視点と経験の豊かさを表現するだけの複雑さを兼ね備えたシステムの分析を行う方法は、少なくとも六つある。

(p194)

人々が最善を尽くしているにもかかわらず、なぜシステムは現在のように動作しているのかを理解するには、非難から責任へ、孤立から相互依存へ、短期的思考から長期的思考へと変わる必要がある。その第一歩は、自分も現在の動態を生み出す原因になっていることを受け容れることだ。それが、相互依存と長期的な思考を支えるものだからだ。それは、自分に力を与える行為である。チャーチルが指摘したように、「力の代償は責任である」。

(p209)

「8 今の現実に向き合う」のまとめ
・システム図を描くことで、なぜ最善を尽くしているにもかかわらず失敗を繰り返してきたのかについての理解を深めることができる。一方で、得られた洞察に基づいて行動するよう人々を動機づけるのは必ずしも容易ではない。
・関係者がシステム思考の力を十分に活用できるよう支援するためには、できるだけ自身も分析を行うように関係者を巻き込むことが重要である。
・システム的な洞察を、この考え方になじみがない人たちにとって使いやすくする方法がある。
・システムの動態を形づくるメンタル・モデルを突き止めることで、分析に命が吹き込まれるだけではなく、こういった動態を変えるためのレバレッジの根源にたどり着ける。
・システム図を描くことの究極の目的は、触媒的な会話を創造することである。
・こういった会話は、それが気づきを深め、受容を培い、新たな選択肢を生み出すときに、もっとも生産的なものとなる。

(p211-212)

多くの人が、自分が一番大切に思っていることと、短期的な目標のどちらを優先するか、というジレンマを抱えている。私たちは、自分の神聖な善意を実現したい一方で、経済的安定、財産、承認といった、より基本的な欲求を確実に見たそうともしている。

(p214-215)

協調を生み出すためには、四段階のステップがある。
1 既存のシステムによる見返り、つまり現状を是認する議論を理解する。
2 現状維持の議論と、変化を支持する議論を対比する。
3 長期的な便益と短期的な便益の双方に寄与する解決策を生み出すーあるいは意味ある変化を起こすには、何かを手放す必要があることを認識して、いずれか一つを選択する。
4 現状維持の議論を弱め、変化を支持する議論を強めることによって、より高い目的を優先した意識的な選択を行う。

(p215-216)

人々が、変化を支持する議論を現状維持の議論と比べられるように支援するためには、表9-1に示すような便益・コストの表を完成させるとよい。

(p219) 図9-1

変化を起こすための新たな行動指針について、すぐに全員の意見が一致する必要はないと心得ることも重要だ。エベレット・ロジャースのイノベーションの普及に関する有名な研究によると、態度の変化は集団全体に徐々に広がるものであり、イノベーターとアーリーアダプターを構成する15パーセントの人々が、他者に追随させる推進力を十分に生み出すことができるという。

(p226)

「9 意識的な選択を行う」のまとめ
・人々の日常の行動が、彼らが最も実現したい志と協調していないと、共通の基盤を構築するのは難しい。
・変革のプロセスにおいて、人々が心の底で最も望んでいるものを優先した意識的な選択をするのを促す。
・四段階のステップを後押しすることによって、彼らが今の自分の挙動を、自ら認める目的と合致させるのを可能にできる。
・こういった段階を経た後に利害関係者たちが協調しない場合でも、取りうる選択肢はある。

(p227)

知っておいてほしいことがある。システムが変容するのに、たくさんの変化は必要ない。たった二つか三つの変化に絞って、時間をかけて取り組むことによって、システム全体は十分に変わりうるのだ。このような変化は、レバレッジポイントと呼ばれる。

(p229)

ドメラ・メドウズは、その素晴らしい著書「世界はシステムで動く」の中で、十二のレバレッジポイントを影響の小さい順に列挙している。・・・
・システムが現在どのように機能しているかについて、気づきを高める。
・重要な因果関係を「配線し直す」。
・メンタル・モデルを変容する。
・目的を支える目標、測定基準、インセンティブ、権限構造、資金調達の流れの一貫性を保つことによって、選択した目的を強化する。

(p229-230)

問題のすり替わりを配線し直す方法は、三つある。
・応急処置への依存を減らす。
・根本的な解決策への投資を増やす。そのためには、今とは異なる新しい未来を描き、根本問題に取り組む意欲がわくようなビジョンを生み出すことが大切だ。
・根本的な解決策にも取り組む一方で応急処置を使い続ける必要がある場合、根本的な解決策を損なわずに解決に向かえるよう、応急処置を設計し直す。

(p234-235)

予期せぬ敵対者を生産的な協調関係に転換する。レバレッジの効く介入策は次の三つだ。
・両方のグループに対して、「互いに手を組むことでどのような利益を得られえるか」を明確に示す、またはそれを気づかせる。
・互いの成果を阻害してきたやり方は、意図的なものではないことを指摘する。そえぞれのグループは単に、その解決策が他者に及ぼす影響を考えず、自力で成功しようとしてきただけなのである。
・両方のグループがウィンウィンの解決策―それぞれのグループの成功を高める一方で、もう一方のグループのパフォーマンスも後押しする、または、少なくともそれを損なわない解決策―を探すことを支援する。

(p239-240)

p241の図

フリッツは、現在のメンタル・モデルを評価する基盤として、正当性の代わりに有用性を用いることを勧めている。つまり、彼らの現在の信念が役に立つ者かどうかを人々に聞くほうが、より生産的なのだ。「その信念によって、今望んでいることをより多く実現できるだろうか?」と問うのだ。

(p244)

新たな信念が持続するのは、新たな行動が実施され、有用性が検証された場合だけだろう。だからこそ実験とプロトタイプがとても重要なのだ。

(p245)

システム思考家のドネラ・メドウズが見つけた究極のレバレッジ・ポイントは、パラダイムやメンタル・モデルの変容も超える、「パラダイムの超越」である。メドウズはこれを、次のように定義した。
「自分自身をパラダイムの領域に縛りつけずに柔軟でありつづける能力。また、「真実」であるパラダイムなどないこと、つまり、あなた自身の世界観を快く形づくっているものを含めたすべてのパラダイムが、人間の理解をはるかに超える、膨大で偉大な宇宙をごくわずかに理解したものにすぎない、ということに気づく能力」。継続的な学習プロセスを確立することの重要性が、ここに示されている。

(p249-250)

現場のレベルでの継続的な学習には、次のことが必要となる。
・利害関係者の、広範囲にわたる継続的な関わり
・具体的なプロジェクトが盛り込まれた、明確な戦略計画
・目標と測定基準に照らした評価を支援する、データ重視の姿勢
・計画の進捗を伝える、四半期評価と年度評価

(p250)

ある地域の実践で得た学びをほかの場所でも活かせるような余白を残しておくことが重要だ。私はこれを、特定の解決策の押し付けではなく、何が機能するかを学習するプロセスを拡大することだと考えている。

(p252)

「10 乖離を解決する」のまとめ
・システムは、レバレッジ・ポイントー長期的に大きな改善を生み出し、長期にわたって持続する、数が比較的少なく、協調された重要な戦略―を中心に旋回して動く。
・効果的な介入策は、システムの動態によって生み出される挙動のパターンを持続可能な形で変える。
・レバレッジの高い介入策は次の四つである。
○システムが現在どのように機能しているかについて、気づきを高める。
○重要な因果関係を「配線し直す」。
○メンタル・モデルを変容する。
○目的を支える目標、測定基準、インセンティブ、権限構造、資金調達の流れの一貫性を保つことによって、選択した目的を強化する。
・組織は、継続的な学習と波及のプロセスを伴うレバレッジの効いた介入策の実施を、強化する必要がある。
・この長く続く旅には、経験からの学習、リソース供給源の拡大、うまくいく施策の展開が必要となる。
・本章で紹介された自然な進展に従い、次に、より具体的なシステム的な変化の理論を設計することによって、複数の介入策を一つの明確な戦略に統合できる。

(p255-256)

「12 戦略策定のためのシステム思考」のまとめ
・ループとなった変化の理論は、わかりやすく説明可能な多くの情報を、すばやく伝える図を創り出す。
・システム思考を戦略計画に適用することで、組織とコミュニティは次のようなことが可能になる。問題の根本原因を分析することによって特定されたレバレッジポイントを整理し、新しいことを創り出す多くの重要な成功要因を統合できるようになる。また、数が多すぎるプログラムや優先事項を精査して、一連の流れとしてまとめることも可能になる。
・システム的な変化の理論には、大きく二種類ある。「成功増幅」と「目標達成」である。
・成功増幅の理論とは、成功の限界を予期して限界を乗り越える方法を計画することだ。
・目標達成の理論とは、長期にわたって進歩を持続させ、進歩がさらに進歩を生み出すよう計画することだ。
・時間の流れの中で順序づけすることで、優先順位づけに伴うことが多い優劣の動態を断ち切ることができる。
・システム的な変化の理論は進化する必要があり、これを実現するには、他の利害関係者の理論を組み込み、自分たちの予想に反して実際に起こることをたどり、この乖離の分析と解消方法を追求することで、変化の理論を修正することだ。

(p290)

システム思考は、他者を責める姿勢から責任を引き受ける姿勢に転換し、そして自身の現実の手綱を握り自らの選択を行う力を取り戻すのに役立つツールの一つなのだ。

(p308)

システムを図に描くことのいちばんの目的は、洞察と責任の共有につながる触媒的な会話を促すことである。それが、その後の協調行動の土台となる。

(p309-310)

――監訳者による解説―――

社会変革の目指すところは、重大な社会問題に対して、十分に大きなプラスの変化をもたらすことです。この変化を「インパクト」ないし「ソーシャルインパクト」とも呼びます。ソーシャルインパクトとは、「組織あるいはプログラムによる介入がもたらした、広範で長期的な受益者にとっての追加的な成果であり、意図したものも意図しなかったものも、あるいはプラスの変化もマイナスの変化も含んだ正味の変化」と定義されます。

(p328-329)

コラボレーションの失敗のほとんどは、招集時点あるいは変化の基盤づくりの段階で起こります。

(p333)

「全体から関係者を集めたい」とする招集者の意図を一方的に押しつけるのは逆効果です。アダム・カヘンは「敵とのコラボレーション」の中で、協働は必ずしも最善の選択肢ではない、として、参加者の立場からどのような選択肢があるかについて解説しています。本書でデイヴィッドが記述することと重なりますが、協働以外にも、「対立」「適応」「離脱」の選択肢があり、これらと意識的な比較を行ったうえで、参加者自らが選択するように働きかける姿勢を持つことも大切です。

(p335)

チーム学習を進めるうえで重要なフレームワークとして、オットー・シャーマーの発案した四つの話し方・聴き方(聞き方)がとりわけ役に立つでしょう。

(p336-337) 図1 

システム図の中でもっとも重要な着眼点の一つは、関係者の認知機や行動にあります。ある特定のプレイヤーが認知・行動する際に置かれた文脈に身を置いてみることで、相手の立場に立ち、同意はしなくても行動や発言の背景や理由を理解し、共感することがしやすくなります。さらには、自分自身の置かれた環境が全体から切り離されていたり、あるいは、自分の行動が意図せぬ結果をもたらしたりしていることもあるでしょう。また、他者と対峙するのではなく、隣り合ってシステム図を眺めることも、相手や自分を責めるのではなく構造を客観的に見やすくする構図をつくります。

(p338-339)

システム思考は、「なぜシステムはその挙動を示すのか」、そのシステムの構造を理解し、また「システムの挙動を望ましいものにするために、どのように構造に介入すればよいか」について探求するプロセスです。

(p340)

ループ図を描く前に、必ずシステム図を描こうとする目的、システム的に考えようとしている課題を明らかにします。課題とは、達成したい目的・目標や解決したい問題に関する重要な論点であり、さらに、答えを見いだすことによって大きな前進が期待できるような「問い」のことを指します。
本書では、「焦点を絞る問い」として紹介されていますが、「なぜ善意にもかかわらず、目標が達成されていないか」「なぜ努力にもかかわらず、結果が出ていないのか」といった、「なぜ」を深掘りする問いは有効です。

(p341)

社会システムの複雑な課題においては、「正しさ」や「正解」にこだわりすぎることによって、課題解決がかえって難しくなることもありえます。そもそも、描き出されたモデルは、世の中をある視点から単純化したものに過ぎません。統計学の大家ジョージ・ボックスは、「すべてのモデルは間違っている。一部のモデルは役に立つ」という格言を残しました。

(p344)

システム図を描き始める初期段階では、できるだけ多くの変数や因果関係の仮説を出せたほうが後々役立ちます。このとき、その変数は関係ない、その因果関係は間違っているといった議論にならないように注意しましょう。できるだけさまざまな見方を仮説として受け容れて、それを俯瞰しながらどのループや経路のダイナミクスが支配的かを、過去、現在、未来などいくつかのフェーズに分けて整理することで、役に立つ洞察が現れやすくなります。

(p345)

システム図を描き上げたら、すぐに解決策を見い出す議論に進みたいという誘惑にかられるかもしれません。それでも一度立ち止まって、作成したシステム図を参加者全員で俯瞰して、内容・対話をする時間を設けるのが有意義です。そして、本質的な洞察や問いをできるだけ多く出しましょう。利害関係者が集まる時間が限られているのであれば、持ち時間をシステム図作成だけに使い切ることはせず、ある程度描いた段階で振り返りの時間を設けるとよいでしょう。
うまく描けていてもいなくても、できあがったシステム図はそこに集まった関係者たちのメンタル・モデルを反映したものです。(中略)
システム図のもっとも有用なポイントは、その中にいる当事者がどのような環境下にあるために、ある意思決定や行動をとり続けるのか、という洞察を得ることです。情報フィードバックの欠如、遅れ、ゆがみなど、システム図の中にその洞察がすでに現れているかもしれませんし、あるいは、行動をとる当事者の内面のメンタルモデルに由来することもあるでしょう。他社の立場で共感的にシステム図をたどると共に、自分自身の行動にも目を向けましょう。

(p345-346)

システム思考の実践において欠かせないのは「システムそのものの継続的な改善」です。

(p349)

ここで注意したいのは、ある場所でうまくいった施策を、そのままの形で他のコミュニティや地域に適用しようとしていないか吟味することです。実際、多くの社会変革の取り組みがこのパターンで失敗しています。

(p351)

システム思考や組織学習に造詣の深いビル・オブライアンは、システムへの働きかけの成否は、システムの介入する者たちの「心のあり方」に大きく左右されると言いました。一部の権力者や意志決定者が、自らのエゴのみで動いたり、あるいは、関係者たちの受容を促すような関与や包摂(インクルージョン)のプロセスを経ずに進めたりすると、後になって大きなシステムの抵抗を招いたり、あるいはシステムの崩壊を導くことにすらあります。自分はエゴにとらわれていないと思っていても、先ほど述べたように「自分がすべてを知っている」と考えてしまうと、落とし穴があったりするものです。システムへの働きかけを通じて社会変革を志すのなら、自らが常に学習者であるという姿勢が必要だと考えています。

(p352)

ロジックモデルにはメリットがある一方で、現場の運用においては問題があるとの声がよくきかれます。それは、ものごとを線形に考えているため、現実の社会システムの姿や現場の実態を捉えきれないからです。計画をする組織が自組織の活動を起点に産出、成果を順次考えていくと、成果や究極の目標に資する結果につながることを意識しすぎるあまりに、自組織の活動以外に必要となる諸条件や自組織が意図せずつくってしまうマイナスの影響を軽視しがちです。しかし、システム思考が示すとおり、現実の社会システムというものは、フィードバックによる循環構造や蓄積の構造、さまざまな変化における時間的遅れなどがありますが、これらのシステム的な構造がどのように活動や成果に作用しているか、ということはロジックモデルには反映されていません。こうした作用をふまえないロジックモデルは、予期せぬ結果や副作用、リソースの浪費ばかりを生み出し、本書に示してるように意図する問題解決や目標達成がままならない状況を生み出しがちです。

(p355)

ロジックモデルは経済開発や社会問題の分野で広く普及しているものの、現実的な観点から、モデルのとおりにことが運ぶ可能性が低いという欠点のため、多くの国ではシステム思考のアプローチなどで補完することが要求されています。つまり、まずはシステム思考を用いて「As is(今の現実の構造)」と「To Be(望ましい構造)」を描き、そのあとに必要なエッセンスを抽出してロジックモデルに落とし込んでいけば、より現実的なモデルになることが期待されているのです。しかし、現実の重要な要素の多くを除外してしまっている線形のモデルの限界は認識しておく必要があるでしょう。

(p355-356)


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◇プロフィール

藤井哲也(ふじい・てつや)
株式会社パブリックX 代表取締役/株式会社ソーシャル・エックス 共同創業者

1978年10月生まれ。京都大学公共政策大学院修了(MPP)
2003年に人材ビジネス会社を創業。2011年にルールメイキングの必要性を感じて政治家へ転身(2019年まで)。2020年に第二創業。官民協働による価値創造に取り組む。現在、経済産業省事業のプロジェクト統括も兼務。
議会マニフェスト大賞グランプリ、グッドデザイン賞受賞。著書いくつか。
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