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詩 つれづれ

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私が世界について思うとき

私が世界について思うとき
そこにはいつも空白があった

地平線へと没する荒野
雲流るる果てなき蒼穹

その空間には目に見えない
果てしなく巨大なものが住んでいて
時折、荒れ狂う風の音に、
微かにその吐息が混ざる

その息吹に耳を澄まして
世界の広大さを思い
私は、息苦しくなる

しかしその息苦しさが
私に可能性の在処を思い出させるのだ

だから私は世界について思うとき
いつもそこには空白を置く

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闇夜の嵐

暴風雨に狼の遠吠えを聞く
孤独が狡猾な蛇のごとく這い寄り
冷気となって五臓六腑を締め上げる

闇を裂く雷鳴
私の声をした誰かの遠吠えが響く

軋む
悲鳴のように 歓喜のように

体の奥の赤い衝動が
腹の底から突き上げ
肉を割いて飛び出そうとする

唸る
悲鳴のように 歓喜のように

理性が築いた最後の防波堤が
今、赤い衝動に押し流されて行く

そして私の衝動は
空っぽの肉体を引っ提げて
何処か

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微睡みに綻ぶ

このまま微睡みに身を任せようか

誰もいないこの公園で
あてどなく空想の世界を彷徨う

途切れぬ風に唆されて
この身は少しずつ形を失い
大気に解けるだろうか

甘美な誘いの声が
遠くから私を呼ぶ

引き止める者もない私は
そっと声の聞こえる方へ
何も言わずに一歩を踏み出す

梢が肯定するように
頭上から囁く

閉じた瞼の裏に踊る影が消え
身に纏う衣の重さは霧散し
梢の音だけに抱かれた私は
形を失い

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白き地平線に没する

白き地平線に没する

遠ざかってゆく君の背は
彼方の白に溶けてゆく

届かない白の風景

響き渡る高音の騒音だけが
彼の背に追いすがっては爪を立てる

白き地平線

空に浮かんだ爪跡の名残

決して止まらないはずの時が
止まった気がした

沈黙の車窓

もやと山の間に心を預けて
移ろう景色に思考を投げる

脳内に広がる青い透明で
ずっと「もし」を再生してる

何度も繰り返す
それが、錆色に落ちてゆくまで

ーー生々しい悲鳴が聞こえなくなったら
私は元の肉体に戻ろう

だからどうかそれまでは
私に沈黙を

新宿駅にて

五月雨が微かに吹き込む軒
水を含んだ冷風
身体の熱が僅かに冷える

緩やかな風にそよぐ髪の先
喧騒に降り注ぐ街灯
ありふれた夜の深まりを見つめている

見えない軛から放たれて
重い荷物一つを背負った身体

彷徨い歩く地面は固く
遠くの広がりに続いている

群衆の中の見知らぬ個となり
甘美な孤独を纏って歩く
無名の反響音を割くようにして

存在のあり方

体に纏わり付いた鎖の数を数えて
自分の形を探していた

感覚だけが切り離されて
宙を漂う

そこから見える世界は
透明で、何もない

必死に自分の体に手を伸ばして
現実の端を掴んでいる

私は、そういう形をしている

ぬばたま

遠くに見えたぬばたまの闇は
そのほとりに立つと
じんわりと蒼く滲む

ひかりに目が眩んでいた

暗中で呼吸するその青
そのそっけない穏やかさに
ずっと気づかずにいた

遠くに見えたのは踏切の橙か
時にけたたましい電子音を味方に
静かな青の闇を追い払う

背後に響く波の音
そのとき揺蕩う空間は
ずっと闇のとなりにある