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海と共に緩やかに漂う

半月ぶりに伊東へ帰ることにした。右手がまだ使いものにならないため、もうしばらくは生活サポートをしてもらうべきなのだけど、伊東へ帰りたくて帰りたくて仕方がなかった。もともと心の安定を求めて移住したため、伊東にいる限り私の心は安定する。きっとその心地よさを身体が覚えていて、求めてしまうのだろう。


小田原辺りで電車の窓から海が見えた瞬間、私の心は舞い踊った。待ちに待った海だ!こんなにも心が惹かれるものは他にない。海を見ているだけで、海の側にいるだけで幸せな気持ちになれる。前世があるとしたら魚とかだったのだろうか。海の粒子の一粒とかかもしれない。私の心はいつも海に帰りたがっている。

伊東駅に着き、ホッと胸をなで下ろした。海や山などの自然の香りが入り混じった、穏やかな空気が肺に充満する。バスは1時間後まで来ないため、海岸沿いを歩いて帰ることにした。海を見ながらの帰り道なんて最高だ。寄せては返す波の音が聞こえ、1/fゆらぎで耳が包まれる。不安に襲われたり、足りないと嘆いたりしないのも、この海という癒しがあるおかげなのだろう。私の心は海のように満たされ、あるべき場所へと返っていく。


次の日、買い出しへと出かける。自転車にも乗れないため、歩いていくしかない。でも普段から散歩はしているから、さほど変わらない。わざと新井の入り組んだ細道を通ってみた。どこへ繋がっているのか分からない、迷路のような地形にワクワクしてしまい、つい寄り道してしまう。

お肉のつくばやさんへ行くと、店先で焼かれている焼き鳥のいい香りが辺りに漂っていた。つくばやさんの風景画が描きかけだ。早く右手を治して完成させたい。いつもはお肉を買うのだけど、料理ができないためコロッケと焼き鳥を買う。ここの焼き鳥は一つ一つ手作りされた、優しい味がする。

スーパーで買い物をしたのち、海岸へと向かった。1日1回は海を見たい。そのためにこの街に住んでいるようなものだ。凛とした空気に青い空が広がり、緑の山は太陽に照らされ、海はキラキラと光っている。嘘みたいなこの美しい景色は、まるで現実世界ではないような感覚すらある。私がアニメや映画などのフィクションをあまり見なくなったのは、この景色が日常で見られるようになってから。あまりにも美しい景色を見ると、脳は非現実的だと錯覚するようだ。

歩いていると何人かのご近所さんに出くわし、たわいもない話をした。自転車だと気づかず通り過ぎてしまうため、歩きだとまた別のストーリーが生まれる。早いからいいってわけでも、遅いからダメってわけでもない。それぞれの速度の中で何を見て、何を感じるのかは、きっと自分次第なのだ。今はもうしばらく、このより一層緩やかな速度の中を静かに漂ってみようと思う。

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