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中堅企業という区分

4月22日の日経新聞で、「小さくても勝てる(1)「隠れチャンプ」に光を 中堅・中小、大企業上回る潜在力 経済再生の主役に」というタイトルの記事が掲載されました。

「大企業」と「中小企業」の間に、新たに「中堅企業」の区分をつくることの意義について各所で聞かれるようになりましたが、その動きについて取り上げたものです。

同記事の一部を抜粋してみます。

日本の中堅・中小企業が持つ潜在力への期待が高まっている。世界で戦える技術と人材を持つ中堅企業の成長力は大企業を上回るとのデータもある。国内336万社の中小企業が大企業にできないイノベーションを実現すれば、日本は成長軌道を取り戻せる。

岐阜県各務原市。水栓金具を製造する坂井製作所はM&A(合併・買収)に力を注ぐ。2021年に3社を束ねるSAKAIホールディングスを設立した。藤田斉社長は「今後5年間で3~4社を買収したい」と意気込む。

技術はあっても人手不足などによる経営悪化で、廃業を選択する経営者を目の当たりにしてきた。「日本のものづくりは腰砕けになる」。危機感から買収を仕掛ける。

「下請け」と呼ばれる企業が積極的に買収をしかけ、「強い中小企業連合」をつくる動きは全国で増えている。中小企業のM&Aが大半を占める国の「事業承継・引継ぎ支援センター」の引き継ぎ成約件数は、22年度に1681件と10年前の約100倍になった。

ミックウェア(神戸市)は24年2月期までの5年間に売上高を2.4倍の約180億円に伸ばした。自動運転中のクルマの次の行動を画面に表示し、ドライバーが安心できるシステムを開発する。トヨタ自動車とホンダから少額出資を受けて開発案件を増やした。

りそな総合研究所の試算では国内のすべての中小企業が1%賃上げした場合の経済効果は5473億円で、すべての大企業が1%賃上げした場合の3741億円を上回る。

日本の未来を語るとき、参考になるのが23年の国内総生産(GDP)で日本を抜いたドイツだ。大同生命保険と東洋大学の山本聡教授の研究によると、ドイツの中小企業1社あたりの輸出額(製造業)は約7億5100万円と、日本の2.8倍。ドイツ人はニッチ分野で高いシェアを握る企業を「隠れたチャンピオン」と称賛する。

経済産業省の「グローバルニッチトップ企業100選」にあるように、ニッチ分野で高いシェアを握る中小企業は日本にも少なくない。足りないのは「隠れチャンプ」の数ではない。チャンプになる見込みがある中小は経済のけん引役だという社会のコンセンサスだ。

中小企業が得意分野を伸ばしながら、より規模の大きい中堅企業に成長する好循環を、国は経済再生の切り札と考えた。経産省が従業員2000人以下の企業を「中堅企業」と法的に位置づけ、成長を促す環境を整える。今国会で産業競争力強化法の改正を目指す。

23年の中小企業白書は資本金1億円以上10億円未満を中堅企業と定義した。法人企業統計調査で、金融危機後の09年度を起点に翌年度以降の増収率を大企業と比較すると、22年度は大企業の34%に対し中堅は47%。中堅の増収率は9年連続で大企業を上回る。統計からも中堅の育成が経済活性化の近道と読める。

実際に短期間で高成長を実現した企業がフジキン(大阪市)だ。23年3月期の売上高は2163億円と、10年前の8倍になった。業界に先駆けてクリーンルームをつくり、半導体工場向けのガス制御バルブで4割の世界シェアを握る。

日本の中小企業は企業数の9割超、就業者数の7割を占める。経済が活力を取り戻すためには、確実に存在する隠れチャンプが脚光を浴びなければならない。

日本では、法人税の観点で、資本金の額または出資金の額が1億円以下の法人で、さらに一定の条件を満たした企業が中小企業として、さまざまな税制優遇措置が受けられます。(法人税以外の観点では、「中小企業」にはまた別の基準があります)

これは、中小企業が大企業に比べると自己資本が少ないことにより、業績が悪化する局面で資金繰りが悪化しやすく、倒産リスクが高いことを考慮したものと言えます。中小企業の倒産が増えれば経済への影響が大きいため、中小企業が安心して事業活動を行えるようにしている政策です。

中小企業の税制優遇には以下のような制度があります。

・法人税率の軽減
・欠損金の繰越・繰戻
・交際費等の損金算入の特例
・中小企業投資促進税制
・中小企業経営強化税制
・少額減価償却資産の特例
・固定資産税の特例措置
・研究開発税制(中小企業技術基盤強化税制)
・消費税の特例

これらの適用などを目的に、大手企業と言われている企業が資本金を1億円以下に減資して、中小企業に変身する事例も見られます。

企業は、税制優遇を受けるために存在し、経営がなされているわけではありません。その企業ならではの商品・サービスの提供を通して社会に貢献し、従業員をはじめその企業にかかわる人を幸せにするために存在します。その存在意義に沿って、企業を成長させたいという思いは、程度差はあれどの企業ももっているはずです。

一方で、企業の経営は厳しいものです。上り坂、下り坂に加えて、「まさか」があると言われます。従業員や社会に責任を負っている経営としては、自社の持続可能性を高め続けなければならないという大テーマを常に抱えています。

よって、リスクをとって成長を追い求めようにも、そのことによって様々な優遇措置を受けられなくなり持続可能性が下がってしまうなら、現状を維持して安全パイを引き続けようとしたくなるのは、自然なことだとも言えます

そうした誘因と一線を画すよう、成長意欲のある中小企業を政策的に後押しし、より社会に広い影響力を与えられる企業を増やしていく動きは、とても有意義であると考えます。

同記事で、中小企業が賃上げしたほうが、大企業が賃上げするより経済効果が大きいとあります。近年でも、中小企業のほうが大企業より賃上げの動きが遅れています。このことからも、中小企業のほうが賃上げ分が可処分所得の比率上昇に直結しやすくなる状況と言えるため、賃上げ効果が大きいという事象は当然のことと言えます。

成長意欲のある中小企業を、中堅企業、さらには大企業へと押し上げていくことで、こうした正の効果も増えていくものと思われます。

中小企業としては、中堅企業向けの今後の政策的動向にも注目しながら、経営戦略・計画に反映していくことが望まれると思います。

<まとめ>
中堅企業という新たな区分に注目する。

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