統合型リゾート(IR)の影響を考える

日本初のカジノを含む統合型リゾート(IR)の計画が、大阪で進むことになりました。経済と雇用を活性化する新たな施策として注目されています。

4月15日の日経新聞記事「大阪IR、シンガポール流 政府認定、観光消費誘う カジノに収益依存の懸念も」を一部抜粋してみます。

政府は14日、2029年の開業を目指す大阪府と大阪市の整備計画を認定した。10年開業のシンガポールをモデルに観光消費や民間投資を取り込む。IRを巡る国際競争は激しく、ギャンブル依存症の問題が指摘されるカジノに収益の大半を依存するリスクもある。

大阪湾の人工島・夢洲(ゆめしま)にカジノや国際会議場、高級ホテルなどをつくる。29年秋~冬の開業を目指している。来訪者は年2000万人、年5200億円の売上高を見込む。関西圏に福井県を加えたエリアの経済効果は年1.1兆円、雇用創出は年9.3万人を想定する。大阪府・市には事業者からの納付金などが年1060億円入り、収入面でも大きい。

大阪IRは成功例とされるシンガポールを参考にする。10年開業の「マリーナベイ・サンズ」と「リゾート・ワールド・セントーサ」はテーマパークや水族館、劇場などを併設。同国の19年の外国人客は約1900万人と10年比で6割程度増えた。IRを軸に国際観光都市の地位を確立した。

大阪府・市も「世界中の人が訪れたくなる都市型リゾート」を目指すが、実現への課題は多い。1つは収益構造だ。IRは施設全体の収益の柱にカジノを据えるケースが一般的で、大阪も売上高の8割をカジノで稼ぐ戦略を描く。

政府はカジノができる区域の床面積をIR全体の建物床面積の「3%以内」と定めている。収容人数は1万1500人となる。大阪府・市はカジノ施設への来場者数を年1610万人と予想する。単純計算で1日あたり約4万4000人。満員の客が毎日4回総入れ替えする計算になる。

安田女子大学の大谷咲太准教授は「施設の収容力が不足している」と話す。「カジノに依存した運営では成長を持続するのは困難だ」と語る。

シンガポールも新型コロナウイルス流行前はカジノが収益の7割を占める構造だったが、脱・カジノ依存に取り組む。28年までに総額9000億円規模を投じ、新たなアトラクションや水族館の拡張、ホテル棟の建設を計画する。

課題の2つ目はギャンブル依存症への対策だ。シンガポールでは国内客に1日150シンガポールドル(約1万5000円)の入場税を課す。国民が頻繁に来場するのを防ぐ狙いで、国民のギャンブル中毒は大きな社会問題になっていない。

日本は国内客の入場回数は週3回、28日間で10回までに制限する。外国人は入場無料で、日本人からは1回6000円を徴収するが、負担はシンガポールよりも軽い。

3つ目はIRの国際競争の激化だ。カジノの知名度は米ラスベガスが高いが、アジアでもシンガポール、マカオ、韓国などが先行する。タイもIR施設の整備に向けカジノ合法化への検討に入った。

コロナ禍から観光客が回復するなか、各国はIRなどでの誘客に力を入れる。日本のIRが競争力を持てるかは見通しにくい。

同記事に関連し、雇用と売上面での及ぼす影響・課題について考えてみます。

関西圏(大阪府、京都府、兵庫県、奈良県、和歌山県、滋賀県)+福井県の労働力人口(15歳以上の人口のうち、働く意思と能力を持つ人の総数)は、各都道府県の調査結果や一般サイトの情報を参照すると、手元計算で約1071万人になりました。サイトによって人数も若干異なりますが、概ね1000万人程度というのが目安かもしれません。

同記事では、同エリアの雇用創出の想定が年9.3万人とあります。エリアでの労働力人口に対して約1%ということになります。つまりは、仮に同エリアで今仕事をしていない全員が、IRによって新たに雇用されるとなると、理論上はエリアの失業率が1%下がるということになります。

総務省統計局によると、2023年2月の日本の失業率は2.6%です。同エリアも同様に2.6%とすると、雇用に関しては相当なインパクトをもちえるかもしれないということが分かります。(もちろん、単純に上記理論通りになるわけでもありませんが、イメージとして)

失業率は、もともと0%にはならないものです。どんなに経済が好調で、人材力が高い国であっても、求人・求職者の間で、求める職種・スキル・業務内容・契約内容などでアンマッチのケースが発生するためです。現状の2.6%という数字でも、既に限界近いという指摘もあります。ここから1%下げるほどのマッチングを成立させるのは、かなり難しいことです。

仮に9.3万人分の雇用を生み出すとすると、他業界にも影響が想定されます。

例えば、2024年問題でトラックドライバーがさらに不足すると言われる物流業界です。トラックドライバーは全国で約80万人とも言われますが、慢性的な人材不足の状況が続いています。現役ドライバー職あるいは将来的な候補から同エリアで9.3万人の一部に流れるとすると、影響は小さくないかもしれません。

関西圏だけでのトラックドライバーの数がどれぐらいかについては、(私の検索の範囲内では)そのようなピンポイントの統計がヒットしませんでしたので、わかりませんでした。ですので、推定してみます。

・いま日本の労働力人口は約6900万人
・そのうち、約80万人がトラックドライバー。つまりは、全労働力人口の約1.2%。
・関西圏+福井県の労働力人口1071万人×1.2%=約12.85万人

ざっくり、同エリアのトラックドライバーとほぼ同規模の数の労働者が、IR関連で新たに雇用されるかもしれないというわけです。このように考えると、雇用に関してそれなりの規模感であると実感できますね。

蓋を開けてみないとIRがどれぐらいの規模の産業になるのかわかりませんが、今回のIRは、それに直接かかわる事業者以外の他業界にとっても、雇用という面で押さえておくべき動向のひとつだといえそうです。

すなわち、
就職・転職を考えている人により自社に魅力を感じてもらうこと
・今いる従業員により定着したいと感じてもらうこと
・省力化できることは省力化すること
を会社として考えていく必要がある
ということです。

今回のIRの話は、地域で何か大きな出来事が起こった時に、特にそのエリアで事業活動を行う事業者は、自社を取り巻く雇用環境について考えてあらかじめ対策を打つべきだという例になるのではないでしょうか。おそらく、半導体関連の大規模な拠点が立ち上がる熊本などの地域は、同様の状況になっているのではないかと思われます。

続きは、次回以降考えてみます。

<まとめ>
IRの計画は、雇用に関して相応のインパクトを与える可能性がある。

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