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株式報酬の広がり

7月27日の日経新聞で、「株式報酬で専門人材確保 ソニーGは3000人 成果を分配 500社導入、5年で10倍に」というタイトルの記事が掲載されました。仕事に対する報酬の支払い方法として、従業員に株式で報酬を渡す企業が増えているということです。

同記事の一部を抜粋してみます。

ソニーGは今後数年間で約3000人の社員に現金による報酬に加えて株式報酬を与える方針だ。1人あたり平均で約2000万円が株式報酬で支払われる見通し。

ソニーGは半導体やモビリティーなど幅広い競争に勝つため、人材確保に力を入れる。株式報酬を渡すのは取締役や執行役員など経営層にとどめていたが、高い能力の一般従業員にも広げる。米グーグルや米アマゾン・ドット・コムなどGAFAと呼ばれる巨大IT(情報技術)企業も株式報酬を導入している。中長期の成長をともに目指す社員を集めて、競争力を高める。

ルネサスは国内外の2万人が対象。国内では1回に100万~数百万円分の株式を渡す。新卒採用の20代半ばで株式を加味した年収相当額が1000万円を超える場合もある。2023年をめどに米国でも従業員持ち株制度を導入。海外でも株式報酬を付与し、半導体人材獲得の弾みにする。

株式報酬を導入する企業は賃金や賞与などに上乗せして支給し、従業員が株高の恩恵を享受できる。従業員が一定期間勤めた後に自社株を割り当てたり、自社株を割り当てたうえで3~5年以上の売却制限を設けたりと様々な種類がある。野村証券によると、譲渡制限付き株式報酬の導入企業は6月末で464社と5年前の約10倍になった。

導入企業が増えた背景には、株価を意識した経営の浸透がある。東京証券取引所が3月に株主価値を損なう「PBR(株価純資産倍率)1倍割れ」の是正を企業に促した。23年度の企業の自社株買い額は過去最高となる勢いだ。企業は資産の割に低い株価や収益力の引き上げを迫られている。

企業は自社株の活用策に株式報酬を選び、社員にも業績改善や株価上昇への協力を促す。セコムは2~5月に約250億円分の自社株を取得。保有する自社株の一部をグループの社員約2万3000人に付与し、経営参画への意識を醸成する。

外資系コンサルのWTW(ウイリス・タワーズワトソン)が世界9カ国・地域の5000社超を対象にした調査では、日本企業で本部長相当の役職に導入したのは22年に約1割と最も少ない。欧米やシンガポールはおよそ5割だ。優秀な人材確保のため企業は魅力的な働く条件の提示が求められている。

同記事ではほかにも、ユニ・チャーム、オムロンなどが大規模に譲渡制限付き株式報酬を付与することを取り上げています。

上記の例は主に上場企業ですが、対象になり得るのは上場企業だけではありません。例えばこれから上場を予定する企業も、従業員に株式を付与しておいて、上場以降にその恩恵を直接受けられるようにすれば、自社の成果に対する関心も一層高まります。市場から評価され高い株価がつくことを目指すことに一層の当事者感がもてれば、担当業務にもより力が入るはずです。

上場する予定がなくても、例えば従業員持株会などをつくって付与することもできます。例えば株価の算定方法を設定した上で退職時には会社が買い取るよう定めておき、賞与に上乗せして払うなどすれば、従業員にとっては退職金代わりのような機能になるかもしれません。せっかくなら退職時に株価が上がっておいたほうがよいということで、業績にも関心が高まるでしょう。希望者のみ出資可能な形にすることもできます。

以前に私自身、及び私の周辺でも、自社株を割り当てられた経験があります。やはり経営への参画意識や当事者意識は高まるのを実感しました。

うまくいくためのポイントだと考えられることを2つ挙げてみます。ひとつは、「十分魅力的と言えるボリュームの株式を付与する」ことにあるのではないかと考えます。

知人の勤務する会社で、譲渡制限付き株式の出資募集があったという例を聞きました。将来は上場を見据えて事業に取り組んでいるらしく、経営方針発表の場では募集の案内と合わせて「上場を目指して頑張ろう」というメッセージも発せられたそうです。

そして、勤続年数や職位等によって出資上限が決められていたのですが、知人が出資できる上限は10万円にも満たない数万円程度で、それも1回だけ応募が可能な募集でした。知人は、「これなら手続きも面倒だしどっちでもいいかな」という反応でした。

7万円が上限だとした場合、仮に自社が上場時に極めて高く評価され、購入時の10倍の株価が付いたとしても売却して受け取れるのは70万円のみです。経営への参画意識を高めるには不十分だと思います。

上記記事のような、1人あたり数百万円や2000万円といった金額相当の付与ができる企業は限られていると思いますが、やはりそれなりに魅力的な規模でなければ効果は限定的になるのだと思います。

もうひとつは、情報開示です。会社の財務状態や業績指標、各事業の収支状況など、あらゆる情報(個人情報や一部の秘匿情報を除き)を社員も確認できる状態にすることです。

「株価を高める企業価値向上につながる仕事をしてほしい」と事業活動への一層の貢献を求めながら、自社の現状を把握し仕事の拠り所となる情報がクローズになってしまっていると、やはり貢献意欲は限定的になります。

「賞与は個人の評価結果と会社業績の状況に応じて支払う」としながら、会社業績の情報が非開示なために、賞与支給額の根拠や意味が分からない、という社員の話を聞くことが各社で時々あります。

これまで非開示だった情報を開示する場合、いきなりフルオープンにするのではなく範囲の限定や段階を踏むべき組織の状態もありますので一概には言えませんが、経営への参画意識を高めるには情報開示は大切な視点です。

上記記事では、日本企業においてまだ株式報酬制度の導入割合が低いことが指摘されています。何でもかんでも外国企業に合わせればよいわけではありませんが、社員のパフォーマンスを高めていく上でのひとつのヒントになるのではないかと思います。

<まとめ>
社員への報酬の還元には、株式報酬という方法もある。

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