安いニッポンの背景
9月6日の日経新聞で、「サブスクも「安いニッポン」 動画・音楽配信、G7で最安 ネトフリは米の7割」というタイトルの記事が掲載されました。各国のサービス価格を比較しながら、日本の価格の割安感を取り上げたものです。
日本は1人当たり国内総生産(GDP)で3万9340ドル(世界28位)と、G20では7番目に高いわけですが、日本より下位のイタリアよりも上記で価格が安い結果となっています。もうすぐ1人当たりGDPで抜かれると言われている韓国に対しても、上記価格では既に韓国より低い結果となっています。
上記のそうそうたる企業群は、生産性・利益を最大化させる視点から、各国事情を踏まえた上での詳細な価格戦略を練っていると想定されます。その結果が上記ということは、日本での支払い余地が現状ではそれ以上見込めないという判断なのでしょう。
ビッグマックはエンターテイメントの性格もあるとは言え、基本的には食べ物という日常生活に不可欠な分野です。食べ物も、動画配信というエンターテイメントの支出も、両方で支払い余地が限られているというわけです。タイトルの通り、幅広い分野で「安いニッポン」となっているのが現状なのでしょう。
上記に関連し、価格低迷の背景について大きくひとつのことを考えてみました。それは、「個人も企業も共通して、支払う力ではなく支払う意欲のほうに大きな要因があること」です。
9月7日の日経新聞記事を参照すると、新型コロナウイルス感染拡大前の19年10~12月期を100とした場合、雇用者報酬(賃金)は100.2となり、賃金の分配は同時期レベルに戻ってきているようです。そのうえで、企業収益が109.4となっていて、収益の伸びほど賃金への分配が進んでいないことがうかがえます。
家計の可処分所得も103.5で増えている一方、消費が99.2と減っていて、その結果貯蓄が174.8と激増しています。家計消費の低迷は単に所得が増えないからではないと想定できます。つまりは、企業も家庭も同様に、入ってきたものをなるべく貯めようとする動きが強く、それが投資や消費を抑えて価格低迷に影響している、と見ることができるのではないでしょうか。
このことは、支払う力が19年より落ちているのではなく(もちろん、個別のばらつきや事情はあると思いますが、全体的な話として)、支払う意欲が落ちていると見ることができます。
先週、iPhone新作の予約を促すSMS通知とメールを複数回受信しました。前回の新作時までは、それほどプッシュされた印象がありませんでしたが(確か)。同記事を参照すると、iPhoneも国内の価格は世界で最も安い水準にあったものの、7月には一斉値上げを実施できているそうです。このあたりに、消費意欲を高めて余力を取り込もうとするポジティブな狙いを感じます。たまたまそう感じるのかもしれませんが。
「意欲はあるが余力がない」のと、「余力はあるが意欲がない」のと、どちらが打開しやすいかはいろいろな見方ができるかもしれません。そのうえで、余力が積みあがっているということは、いち早く意欲を引き出してその懐に入り込めば、受け入れられるチャンスがあるという捉え方もできるかもしれないと思います。
<まとめ>
消費の潜在的な余力は、全体としてはコロナ禍以降蓄積されていると推察される。
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