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経営者保証が創業の妨げになっているか

「借入の個人保証を外してもらうことができた。変な重圧から解放された」 先日、ある経営者様からお聞きしたことです。経営者による個人保証(経営者保証)は経営者に対する負担が大きく、弊害もあると言われています。

中小企業が金融機関から融資を受ける場合、経営者に個人保証が求められることが多く、中小企業の思い切った事業展開やベンチャー企業の創業、それに事業承継を妨げる要因の1つになっていると指摘されています。(NHKウェブ2022年11月1日より引用)

経営者保証とは、企業が金融機関などから融資を受ける際に、経営者が法人の連帯保証人になることを言います。例えば会社が倒産して借入金の返済などができなくなったとしても、連帯保証人である経営者個人は返済する義務が残ることになります。

金融機関も、貸したお金が返ってくる可能性が高くないと、貸すのがためらわれます。経営者保証を課すことで、借り手の企業の規律を高めたり、回収の可能性を高めて貸し出しやすくしたりして、資金調達の円滑化に役立っている面があります。一方で、上記の通り弊害も指摘されています。

中小企業庁によると、8割以上の企業の経営者が、何らかの形で経営者保証を行っているそうです。今でも幅広く利用されていることが分かります。

この経営者保証について、7月19日の日経新聞記事「地域金融機関の今後(下) 創業期企業の資金対応 焦点」では、意外かもしれない内容について書かれていました。一部抜粋してみます。

創業期企業への与信に関する最近の論点の一つは経営者保証だ。政府は22年12月策定の「経営者保証改革プログラム」で、経営者保証が創業意欲を阻害している可能性を指摘した。だが本庄裕司・中央大教授、鶴田大輔・日本大教授と筆者による実証研究は、経営者保証が起業を阻害する効果はあったが、そのインパクトはあまり大きくなかったとの結果を得ている。

この研究では、総務省「就業構造基本調査」、中小企業庁「中小企業実態基本調査」の個票データを用いて、07年と12年における個人の起業意欲とその前年の都道府県別の経営者保証の利用率との関係を調べた。

分析結果によれば、仮に経営者保証利用率が分析期間中に最も高い都道府県の水準から最も低い都道府県の水準まで低下した場合、起業意欲を持つ個人の割合は0.2ポイント上昇する。経営者保証の影響は皆無とはいえないが、われわれの分析サンプルで起業意欲を持つ人は1.9%なので、その1割程度にすぎない。

要は、経営者保証によって創業意欲が阻害されることはほとんどないということです。これは、上記NHKウェブの「ベンチャー企業の創業を阻害する」という説明と、逆の結果に見えます。

このことを、どのように解釈できるのでしょうか。

ひとつの仮説としては、創業者と、創業者以外の経営者(後継者など)の感覚には違いがあるということです。(もちろん、最終的には人それぞれで、一概には言えませんが)

創業者は、社会にいろいろな会社や事業が存在している中で、わざわざ1から事業を起こそうとするわけです。そのような強い思いを持った創業者個人と、その思いが現れた事業や会社は、一体となったような存在のはずです。

自身と事業や会社が一体となっているのであれば、個人保証によって一定の範囲を超えた連帯保証を行うことを、自然体でできる人も多いのではないかと想像します。事業や会社の展開が少しでも早く進む道につながるのなら、手段は個人保証でも何でもよくてそこに大きな抵抗はない、というリスクテイク志向の極めて強い方も多いのではないかと思います。

既に存在している事業や会社を承継して経営者になるのも、大きな決断です。そのうえで、事業や会社は、自分以外の他者によってすでにつくられたものであり、自身の内部とは異なるところから始まっています。それらと一体となって連帯保証を行うことに抵抗があるとしても、それは自然なことだと思います。連帯保証なしには次の経営者が継ぐことができない、となると、事業承継の妨げになることは想像できます。

よって、一概に経営者保証という考え方や方法がNGなのではなく、状況によってはあり、と捉えてよいのではないかと、個人的には考えます。

いずれにしても、金融機関の貸し出しにあたって、経営者保証に過度に依存しない仕組みとなるのは望ましい方向性だと思います。

昨年来、経営者保証に依存しない融資慣行の確立を進める目的で、政府が経営者保証改革プログラムを策定・実行していくことを公表しています。「事業全体を担保に金融機関から資金を調達できる制度の早期実現に向けた議論を進めていく」などが盛り込まれています。

個々の企業の事業計画や組織基盤の実態をより把握したうえで、経営者保証有無によらず貸し出しを判断する道を広げるという流れなのだと考えます。そこには当然、従来よりも高い金利も検討されるべきかもしれません。

有力な計画や可能性のある事業は、今後より資金調達がしやすくなるのかもしれません。

<まとめ>
経営者保証が創業意欲を妨げる影響は小さいとするデータもある。

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