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車を蓄電池として売る

2月17日の日経新聞で「ヤマダ、EV・住宅でセット拡販 4月から、車種拡大も 個人向けに大型店で展示」というタイトルの記事が掲載されました。家電以外に住宅や電気自動車の販売に力を入れ始めていましたが、それらの取り組みをさらに強化するということについて取り上げた内容です。

同記事の一部を抜粋してみます。

ヤマダホールディングス(HD)は、新築住宅と電気自動車(EV)のセット販売を拡大する。2024年4月に家電と家具両方をそろえる新型店で実車を展示して個人向け販売を始める。従来は法人向けの首都圏5カ所での受注と、個人向けはグループの住宅展示場での販売にとどまっていた。量販店で消費者が品定めできるようにしEV販売を底上げする。

住宅とセットにしたEVを新たに販売するのは、売り場の半分程度を家具やインテリア用品などの非家電商品が占める新型店「LIFE SELECT(ライフセレクト)」。24年4月、群馬県吉岡町の同タイプの店にヤマダで扱う全3種類の「スマートハウス」のモデル住宅を設置し、日産自動車の軽自動車EV「サクラ」などの実車も展示して消費者が見たり試したりできるようにする。今後は中国・比亜迪(BYD)や他の日本車メーカーの商品など取扱品の拡大も検討する。

新型店は21年から始めて全国に30店強ある。ヤマダは売り場面積が約1万3000平方メートルを超える大型の新型店を拡大する方針で、今後開業する大型店全ての敷地にモデル住宅を建ててEVも合わせて販売する。新型店は24年度に現状の5割増となる50店前後にする計画だ。

ヤマダは25年2月末までにスマートハウス500棟の販売目標を掲げている。現状、EVはヤマダグループの住宅展示場での販売が主だ。法人向け以外は家電店「ヤマダデンキ」での店頭展示はしておらず、一部店舗でのカタログ配布などにとどまっている。

山田昇会長兼社長は「現時点ではEVだけを売るつもりはない。世の中がまだついてこない。パッケージで提案していくことが重要だ」と語る。

薄型テレビやパソコン(PC)、米アップルのiPhoneなどの次の商品を家電量販店はまだ見いだせていない。アップルによる自動運転EVの発売も取り沙汰されるが、「ポストスマホ」になるかもしれないEVや住宅はまだ黎明(れいめい)期といえる。

山田会長は国内普及が鈍いEVをかつてのPCと重ねる。EV販売がもうかるビジネスになるかのカギはサービスを含めた商品提案ができるかどうかにかかる。

1990年代前半まで10%台前半で推移していた国内PCの世帯普及率は、米マイクロソフトの基本ソフト(OS)「ウィンドウズ95」の発売以降、インターネットの急速な普及とともに右肩上がりで伸び、2000年には51%になった。

ただ、東京など都市部中心で地方は出遅れていた。ヤマダは2000年代前半から郊外店を中心にPC購入者へ使い方を教える講座を開いた。ヤマダはPCとウィンドウズの販売数が日本トップクラスと言われるようになり、企業としての成長の原動力ともなった。

日本のEV比率は26年に7%近くまで上昇する見通しで伸びしろは大きい。EVも売り方次第でPCとOSのようなヒット商品に育つ可能性がある。

同記事からは、3つのことを考えました。ひとつは、顧客に受け入れられやすい提案・売り方を考えることの大切さです。

「EV」と言われても、従来のガソリン車に慣れた人にとっては、まだまだイメージもわかず敷居の高い感じがあります(私もその1人)。住宅と合わせて提案することで、その敷居の高さを下げてくれそうです。

住宅という商品・サービスを探している人に、既に持っている(あるいは買い替え時期に来ていた)車という商品・サービスを同時に提案することで、新たにEVに興味を持ちやすくなります。

あるいは、これまで車にあまり関心がなかった人も、住宅という商品・サービスを探す過程で新たに車にも興味を持つかもしれません。車所有が生活上当たり前の概念の人も多いかもしれませんが、首都圏を中心に車所有をしていない人も多くいます。同記事のスキームがあることで、住宅購入のタイミングで新たに車所有に興味を持つ、という流れも一定数期待できるのではないかと思われます。

2つ目は、ひとつめと関連しますが、商品・サービスの定義を変えることの有効性です。

関連記事「仕掛け人は元トヨタ社員、EVを「蓄電池として売る」」では、次のように説明されています。(一部抜粋)

「電気屋らしくEVを車としてではなく蓄電池として売っていく」。ヤマダHDが2023年9月に新設したEVモビリティー事業部の金子哲治部長は、販売戦略についてこう話す。この金子氏こそトヨタ自動車出身でヤマダのEV販売の仕掛け人だ。新卒でトヨタに入社した金子氏は国内営業部隊に所属し、神奈川県のディーラー(販売代理店)を主に担当していた。ある時、「大学発スタートアップ(SU)がEVを開発した」というニュースが社内で話題になった。

「メーカーの立ち位置は揺らぐ」。この危機感をきっかけに09年にトヨタを辞めて、家電量販最大手のヤマダ電機(当時)に入社した。早速、社内でEV販売を提案し10年12月には三菱自動車と組んで個人向けにEV「i-MiEV(アイ・ミーブ)」の販売にこぎ着けた。しかし当時は、今以上に市場が立ち上がっておらず、3年弱で打ち止めになった。

前回の反省を踏まえて今回の再参入では、EVと住宅をセット販売し低金利の住宅ローンにEVの費用を組み込んで購入者が支払う総額を抑えるという仕組みを発案した。21年3月に日本自動車車体補修協会(JARWA)と提携して、修理点検といったアフターサービスをヤマダグループ内で担える体制構築にも動いた。

上記からは、自社による商品・サービスのカテゴリーとして、EVを「車」ではなく「電池」と位置づけていることがうかがえます。

車を取り巻く環境も変わっています。かつては、車の個人的な利用=自己所有かレンタカーぐらいがその形態でしたが、カーシェア、リース、サブスクなどの形態も出てきました。かつてのような車の自己所有をするべき理由が減っています。

しかしながら、「電池」と位置づけることで自己所有するべき新たな理由となります。これまでの車ユーザーに加えて、これまで車に縁遠かった消費者(私もその1人)も新たに惹かれる理由になりえます。

自社・自身の提供している商品・サービスに対して、別の意味づけをしたうえで提案できないか。考えてみたい視点だと思います。

3つ目は、車という商品・サービスも今後二極化の動きが進んでいくだろうということです。

ヤマダグループで住宅と合わせて車を購入しようとする層は、蓄電池あるいは移動手段という生活ツールの目的で、車に利用価値を見出す消費者だと想像されます。おそらく、これまで以上に、車に対して「良いものを安く手に入れたい」という視点を持ち込むものと思われます。

他方で、移動手段という目的もあるものの、運転を楽しむ、あるいは自身のステータスという目的で車を購入しようとする層も、少なくとも当面の間は一定数存在し続けます。この層は、高級車と言われる価格帯を従来通り、あるいは従来以上に意欲的に選び続けると考えられます。

「車持つなら、今はカローラ、いつかはクラウン」といった、車の消費者をひとくくりにするマスマーケティング的なアプローチは、今後ますます通用しにくくなると思われます。同じ車でも、何を目的として買う消費者を自社のお客さまと見立てて、それに合った車をいかに提案していけるか。これは、どんな商品・サービスを扱う事業であっても、今後さらに必要となる共通の視点だと考えます。

<まとめ>
商品・サービスの定義を変えて、これまでと違った提案をする。

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