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第六十一話:分からない事と、エドガルドからの返事

 神様との会話を終えて「戻り」ブルーノ学長との話はこれ以上進められない事を理解すると、私は「その時が来るのを待ちますが、もしかしたら来ないほうが良いのかもしれません」と言ってフィレンツォと共に部屋を後にした。
 ただその時、神様が。

『割と良い言い方だなぁ』

 と意味深に呟いてたのが気になった。

「フィレンツォ」
「何ですか、ダンテ様」
「今日こんなだったから明日歴史学基礎をもう一度受けたいんだ。あれは一度きりだとブルーノ学長殿が言ってたし、いいかい?」
「……分かりました、ですがその時は私が付き添います」
「クレメンテ殿下とエリアはどうするんだい?」
「ブリジッタさんに任せます」
 語気を強めて言うフィレンツォに苦笑してしまう。
「笑いごとではありませんよ」
「いや、すまない……」
 それもそうだ。

 自分の主人がいきなり倒れたり、したのだ。
 しかも、何故そのような状況を作っていたのか分からない。
 そして倒れた主人は病み上がりに近い状態で不審者を撃退。

 心配と不満が心を占めているのだろう。

 おまけにその主人は自分の事は後回しにしがちときたものだから。

――フィレンツォには悪いんだけど、どうしても、ねぇ……――

 そう心の中で呟く。

 屋敷に戻ったら――お説教が待っていました。

――やっぱりね――

 自室で、二人っきりでフィレンツォにお説教されました。

 もう少し自分の事を大事にしてください。
 私は貴方が次期国王だから大事なのではないのです、私はダンテ様が大事なのです。
 他者を気にする優しさの半分でいいから自分に分けていただきたい。

 と、いった内容のお説教。
 耳が痛い。

 今日は部屋で大人しくしてくださいと言われたので、自室でゆっくり過ごすことに。
 お茶や菓子類はあるし、無くなったら勝手に補充してくれるし万々歳。
 と、言ってもそこまでお菓子を食べたい訳ではない、お茶を飲むくらいだ。

 雪花茶を飲み終えて、カップを指定の場所に置いてから椅子に座り本を読む。

 静かに読書をするのは好きだ。
 こちらにも前世であった『電子書籍』に相当する魔術があるのだが、やはり紙の本を読むほうがしっくりくる。
 何もしないとかさばるのは確かに問題だが、こちらの本は前世の本と違い殆ど劣化することがない。
 それに魔術で自分だけの空間に仕舞うことができる。
 そこそこ魔術を使えるならこれくらいはできるし、それに魔力の量や質が高い程しまえる量が多く、取り出す速度も速い。
 なので紙の本を私はこのんで読んでいる。

 今読んでいるものはサロモネ王の事に関する本。
 彼の偉業が事細かに記されている。

 一つを除いて。

「……オディオの事だけぼかしてある……」
 サロモネ王がいかにしてオディオを封印したのか、そう言った事柄が書かれていない。
「……絶対関わりあるよな」
 そう呟くが返事はない。

――全く予想通りの反応だよ――

 私はため息をついた。

 おそらく、あの五人を幸せにする為の道の過程で、何かあるのだろう。
 その何かの一つが「オディオ」なのは間違いない――

 だが、しかし。

――封印されているものが関わってくるというと十中八九――
――封印が解かれることを意味するよねぇ……――

 神様が何も言わない時は「合っているが今余計な事を言うと『私』が不味い事になる」のがほとんどだ。
 つまり、私は現在知りえた中で動くしかない。
 話すことができても口が堅い人物だし、そんな人物そうそう――

「……居た」

 口が堅く、そして私に頼られることを求めている人物が頭に浮かぶ。
 同時に部屋をノックする音が聞こえた。

 フィレンツォだ。

「フィレンツォ、入って来てもいいがどうした?」
 そう言うと、フィレンツォが部屋に入ってきた、手には手紙を持っている。
「エドガルド殿下より、ダンテ様へと」

――グッドタイミング!!――

「そうか、兄上が」
 私はフィレンツォから手紙を受け取った。
「では、大人しくしていてくださいよ?」
 フィレンツォは釘をさすように言って部屋を出て行った。

 再び一人になった部屋の中で私は手紙の封を切る。

 一体どんな返事だろうかと気にしながら。

 封を切った直後、凄い量の紙――便箋が飛び出てきた。
 どうやら、かなり不安にさせてしまったようだと思うと同時に、そんなエドガルドに頼みごとをしていいのか悩む。

『打ち明けろ』

 神様の声が聞こえた。

 その言葉に、腹をくくろうと思いながら、目を通す。

 エドガルドの時も私のと同様の試験があったらしい。
 エドガルドも一番の成績だった為、私のように代表をしたようだ。

『お前がそう評価された事を誇らしく思うけれども、お前はそういうのが苦手だろう? 立派にこなしただろうが、疲れただろう。なるべく無理はしないように』

 耳が痛いが仕方ない。
 学生生活の事は、ただ苦しく、それしか書けない事を許してほしいと書かれていた。

 許すも何も、辛い事を聞く気はない。
 寧ろこちらが謝るべきだ。

 あの馬鹿男ベネデットの事にもかなりとげとげしく書かれていた。
 今すぐそちらに行ってその愚者をぶん殴りたいとか、今からでも考え直してその男を処刑するなりしないか等――まぁ、色々書かれていた。
 三枚位びっちり書かれていて目が痛いが、処分とかよりも私の心にぐさりときたのは――

『お前が優しすぎて、私は心配だ』

 と言う文章。
 優しすぎるのかどうかは分からないが、エドガルドやフィレンツォ的にはやはりそうなのだろう。

 エリアとクレメンテの件に関しては、褒める一方で何処か複雑そうな感情が文章からにじみ出ていた。
 それでも、エドガルドは二人から離れろということなどは書いていなかった。

『どうか、お前の望むままに』

 と。
 エドガルドらしい言葉だ。

 父の件に関しては――
 うん、こってりと絞られているらしい。
 駄々をこねる父が母に絞られているし、エドガルドも苦言を呈しているらしい。

 最愛の妻である母と、可愛い息子であるエドガルドに叱られるとは。

 王として、父として問題があるわけでもないが、こういう所だけはどうしようもねぇなと思ってしまう。

――本当、母上がいないと駄目だなぁ父上は――

 そんな事をふと思いつつ、私も人の事いえないのかもなと、自嘲の笑みを浮かべてしまった。




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