人の行動を変えたければ「構造」を変えるべし 〜スープ作家有賀薫さんに学ぶ暮らし方改革
2019年10月5日、有賀薫さんが登壇する「スープ作家のキッチンリノベーション」(LIVING DESIGN CENTER OZONE主催)というトークイベントに参加してきた。
テーマはミングル。有賀さんいわくミングルとは、「ごはん装置」のこと。
ミングルについては、有賀さんが既にnoteに書かれていて、私もこれを読み、気になっていた。
「想い」を形にする鍵は、パートナー選び
セミナーのタイトルに「キッチンリノベーション」とあるが、有賀さんの想いは、既存の台所のリノベーション(台所を広くしたい、アイランド型にしたい等)とは一線を画しており、なかなかここでという業者に出会えなかったという。
<有賀さんの想い>
◉料理や家事導線を効率化、合理化したい
◉台所をもっと小さくコンパクトにしたい
◉台所と呼びたくない
◉台所を飛び出したい
◉リビングに進出したい
◉リビングで、作る、食べる、片付けるをワンストップでやりたい
◉水場、コンロ、食洗機をリビングのテーブルにつけたい
台所はそもそも一人用のプロダクト
もともと台所の構造は一人用、という話になるほどと膝を打つ。
共働きがデフォルトの現代、家族が料理に参加できるようにするには、既存の台所では狭すぎる。
一人用の導線しかないため、二人以上でやると互いに導線を塞ぎ、返って時間がかかったり、思うようにできなくてイライラしたりしてしまう。
いくら手伝ってほしくても、構造的に難しいとどちらかに任せるしかない。そして、そのバランスがうまくとれないと、家族に不協和音が鳴る。
二人以上が料理を一緒にできる構造にするには、リビングに飛び出せばいい。有賀さんの発想は柔軟だ。
実際、食卓でホットプレートでお好み焼きだとか、カセットコンロですき焼きだとか、食卓料理は父親が作るという家庭、結構あるのでは?(私の実家はそうだった)
しかし、料理が食卓でできるだけでは意味がない。食材の準備や後片付けは、結局水場がある台所。家族の誰かが、料理の前後にそれを一人でやらないといけない。
実際、私は洗い物が面倒でごはんを買ってきて済ませてしまうこともある。とにかく、食後の食器洗いはしんどい。お腹いっぱいになると、まず食器を台所に運ぶこと自体が面倒になったりする。
キッチンリノベーションではなく、新しいプロダクトデザイン
今回、イベントには有賀さんだけでなく、リノベーションを手がけた工務店の方(ますいリビングカンパニー柳澤さん)、そしてその会社を紹介したOZONEの方(住まいづくりコンサルタント松村さん)が参加されていた。
OZONEは、22年間、新宿で家づくりのお手伝いをしてきたという会社で、無料で家づくり・リノベーションの相談ができるカウンターがあり、そこにふらっと有賀さんが訪れた偶然から、このミングルプロジェクトが始まったのがおもしろい。
縁って偶然の産物。いや、想いがあって探していたら、縁を引き寄せられるのかもしれない。
相談者からやりたいことを聞きニーズに合った業者を1〜3社紹介するというOZONEさん。今回は2社を紹介。高い買い物、またどうすれはいいか漠然としている悩みを抱えて、どこに頼めばいいかわからないとき、相談できる場所がある、というのはとても価値があるなと思った。
うちは賃貸だし、リノベーションの予定もないが、迷っている方が周りにいたら、是非紹介したいなと思った。
家事導線の合理化がコミュニケーションを生む
そうして2社と何度も打ち合わせを重ね、1社を選び(最後の決め手が、プロダクトの名前「ミングル」だったのも縁。)、完成したミングルには、思っていなかった効果があったと有賀さんは言う。
<ミングルの長所>
◉野菜や肉、魚を焼いただけでご馳走になる
◉ダイニングテーブル全体が作業台になる
◉みんなでやっても、お互いに導線を邪魔しないから、誰もが手を出しやすい
◉片付けは、座ったまま食器を水場に寄せ、軽く水で流すだけ、あとは食洗機にお任せ
◉IHに蓋をすれば、普通のテーブルになり、打ち合わせにも使える
◉テーブルが広すぎないので、机を拭くのも楽だし、相手との距離が近く団らんしやすい
家事の合理化をした結果、コミュニケーションが生まれたという話はおもしろくて、二重のイノベーションを生み出しているのだと感動した。
実際ミングルを囲んで集まったり、イベントをしたりされていて、とても羨ましい。そういうスペースがあれば、わたしも人を家に呼びたいなと思う。
賃貸にこそ付いてほしいミングル
イベント後、すぐにこんなツイートをした。
有賀さんがコメントくださり、さらにツイート。
有賀さんも、環境と導線が変わると、人は簡単に変わる、と実感されたそう。
賃貸は、ライフステージに合わせて「構造」を変えていける暮らしの箱。ミングルはみんなで料理をシェアするものだから、一人暮らしには合わないのでは?とOZONEの方がおっしゃっていたり、工務店の方もミングルつきシェアハウスは計画しているという話だったけど、私はむしろ、一人暮らしや二人暮らしに合うプロダクトじゃないかなと思った。
一人分を作ったり片付けたりが面倒だから、料理をしなかったのが、焼くだけでごちそうになり、片付けは食洗機なら、一人でも料理をやりたくなり、また人も呼びたくなるのでは。
子なし共働き夫婦なら、一緒に料理をすることができ、コミュニケーションも増えるなら、ミングルは現代の、「ごはん装置」であり、「団らん装置」なんじゃないだろうか。
実際、子なし共働き夫婦で、マイホーム願望もないと、共通のミッションがなく、生活がバラバラになりがち。けれど、ごはんを一緒に作ることができたら、日々共通のミッションがあり、連帯感も生まれるんじゃないだろうか。
ミングルなら、YouTubeに勝てるかもしれない
近年、日本の多くの家庭はYouTubeにその暮らしを乗っ取られ、家族の会話が減っていると思う。ヒカキンに夢中になって、お風呂に入らなかったり、ごはんをなかなか食べなかったりする子供やら(笑)、お互いに見たいYouTubeを見ていてスマホとばかり向き合い会話が減っている夫婦やら。ただ暇を潰すためのYouTubeが習慣化されてしまっている人は少なくないと思う。
そんな暮らしを支配しているYouTubeに、ミングルなら勝てるかもしれないと思った。会話はなにか共同作業をしていたら、自然と生まれるものだ。
会話をするために一緒に料理をする、そんな生活ができたら、毎日楽しいんじゃないだろうか。毎日、もっと早く帰りたくなるんじゃないだろうか。
ミングル標準装備、キッチンつきがオプションになる未来へ
飛躍しているかもしれないが、ミングルが各家庭に標準装備であれば、家族がもっと身近に、ひいては日本の長時間労働にメスを入れられるんじゃないか、なんて思ってしまった。
既存のような台所は、料理が好きで作りたい人がミングルと別に持つ、趣味部屋みたいなものになっていくのかもしれない。
以前、田村さんと樋口さんのトークイベントに行った時に、会場からの質問に対して、「未来の家からはキッチンがなくなるのでは?」と田村さんが話していたのを思い出した。
ミングルは標準装備、キッチンは欲しい人だけつけるキッチン付き物件・キッチンなし物件を選べるような社会になれば、みんながハッピーになれるんじゃないかなと思った。
そして、料理が趣味になれば、キッチンは借りるもの、コワーキングスペースじゃないが、キッチンスペースを時間で借りて、本格的に料理ができるみたいな形が暮らしに合うようになるのかもしれない。
作りたい人は作ることを楽しみ、そうでない人は頑張らなくていい、そんな社会になればいいなと、思った。
とは言え、「構造」は簡単には変えられないのが悩ましいところ。というわけで、今すぐ料理のハードルを下げるためのヒントはこちらからどうぞ。
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